最終更新日:平成26年4月1日
3月4日から3月6日にかけて国立京都国際会館で開催された第13回日本再生医療学会総会において、近畿経済産業局は「再生医療サポートビジネス~中小企業の役割~」と題し、シンポジウムを開催しました。再生医療分野における中小企業のビジネスチャンスを総合的に考える機会として、学会会員に加え特別枠として出席できたものづくり企業の約300人の参加者が熱心に聴講しました。
このシンポジウムの内容を中心に、再生医療をとりまくサポートビジネスについてご紹介します。
2013年は、(1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略の3つの政策が3本の矢として同時に展開され、長引いていた景気の停滞が回復の動きに転じました。これを、着実に日本経済の成長につなげていくのが2014年の課題です。日本再興戦略では戦略市場創造プランとして国民の「健康寿命」の延伸が取り上げられています。産業面でも新しいフロンティアを開拓していく必要があり、特に「医療分野」が注目されています。
日本再興戦略では、規制改革として薬事法が改正され、再生医療等安全性確保法等が昨年11月に成立しました。これにより、医療機関や研究機関内でしかできなかった細胞の培養・加工の外部委託が可能となり、産業の力を活用する道が開けました。そして、産業の力を活用することにより、創薬や再生医療の研究・開発が加速することが考えられます。
再生医療に関連する装置類や消耗品類、サービス類等の周辺産業の市場規模は、2050年には 国内市場1.3兆円、世界市場15兆円となり、今後の成長が期待されています。市場規模は決して大きいというわけではありませんが、その分大企業より中小企業が参入しやすい市場であると言えます。では、再生医療における産業としての市場はどこに生まれるのでしょう。再生医療関連産業とバリューチェーンをイメージ化したのが次の図です。
ヒトから採取した細胞は、培養のために研究室や医療機関から外部に運ばれ、再び研究室や医療機関に戻って移植するというバリューチェーンが形成されます。細胞を運搬するための器具、培養するための消耗品や機械、試薬、培養加工施設、画像解析装置など、ものづくりを得意とする中小企業の技術やアイディアで、より効率的な器具などを提供するチャンスが生まれてきます。
関西には大学、研究機関、大企業から中小企業、ベンチャー企業などがフルセットで存在しています。特に、京都、大阪、神戸のエリアには医療拠点や研究開発拠点が集中しております。一方、潜在的に、精密加工など高い技術力を持った中小企業が多く立地しているのも関西の特徴です。優れた研究機関等があるというメリットを活かし、中小企業が医療分野に参入した事例も多く、中小企業と研究者、医師、研究機関に携わる人が連携することで、先端医療や再生医療研究を効率良く推進するための新しいサポート機器の開発が期待されています。
ものづくり企業は、研究や医療現場の様子を見たことがあるのはまれで、(1)何が必要なのかわからない、(2)ライフサイエンスに関する専門用語を知らない、(3)自社の技術やノウハウが発揮できるかわからないので、再生医療分野への参入に躊躇しているのが現状です。
京都リサーチパーク株式会社(以下KRP)では、ものづくりの視点から、中小企業が再生医療分野に参入するためのサポートを行っており、具体的には(1)すそ野の拡大と産業化・事業化に向けた仕掛け、(2)ものづくり(試作・改良)サポート、(3)事業創出プロデュース(コーディネート)のサポートを行っています。特に、KRPが運営する再生医療サポートプラットフォームでは、再生医療の産業化を推進しています。再生医療分野の研究者の中には、研究を効率良くするための機械・機器のイメージは湧いているが形にする方法がわからず、カタログ製品のみで研究を行っている人が多いのが現状です。KRPでは、研究者が持っているイメージをモノづくり中小企業と共有できるようにし、機器試作を可能にするサポート活動が行われています。
コーディネーターが、大学の先生から困り事を聞き出し、中小企業への橋渡しを行うことで、約40件の試作品が製作されました。試作品の中には先生からの評価が良かったため展示会に出展し商品化につながったものや、商品化・事業化に向け改良されているものがあります。
ここからは、異業種から医療や再生医療等研究分野へ参入した企業についてご紹介します。
もともと金属加工会社だった株式会社積進(以下、積進)が再生医療分野へ参入するきっかけとなったのは、機械要素技術展へ出展した際にKRPから声をかけられたことでした。主力製品でも一定の周期で自然と受注数が減ることを経験から学んでいた積進は、再生医療という新分野へ挑戦することにしました。
最初の依頼は、大学の先生から新生児マウスに注射を打つ際にマウスを固定する器具を製作してほしいというものでした。大人用マウスの固定器具はあったのですが、新生児マウス用はありませんでした。初めは製作できるかどうか不安があった積進でしたが、KRPのサポートを受けて試作品を完成させることができました。続いての依頼には直接的には応えることはできなかったものの、大学の先生との打合せから新たな試作品の開発を成功させました。
引き合い案件を聞いただけで諦めてしまうのではなく、まずは先生と直接打合せを行うことで、試作品の開発につながっています。
有限会社シバタシステムサービスは、精密部品を取り扱う会社です。小型レンズを取り扱う際に使用する粘着式ピンセットを発表したところ、さらにタンパク質の結晶をつかむピンセットのニーズをみつけて製品化しました。この技術が研究者から評価され再生医療分野への参入を果たしたのです。現在は、再生治療に必要な生体軟骨を数百ミクロンのサイズに細かく裁断する超微細3次元生体組織細断装置を大学と共同で開発しており、2次試作品が完成しています。この細断装置を医療機器として商品化するため、研究機関に細断装置を提供し、薬事認定取得のための臨床データの蓄積を進める必要が有り、協力研究機関を探しているところです。
今後、関節軟骨や皮膚等、他の生体組織への適応拡大や、海外での医療機器認証の取得を目指しています。
ストレックス株式会社は、メカニカルストレスを与えながら、細胞を培養できるシステムの開発のために、10年前に設立された会社です。大学の生物の先生との議論を重ねることで、弾力性のある培養容器を使い、顕微鏡下で細胞をストレッチさせながら細胞の変化を観察できる装置や、液体窒素や凍結剤を用いず効果的な凍結を可能にしたポータブルのプログラムディープフリーザーなど、小規模企業ならではのスピード感をもって開発することができています。
日本再生医療学会総会では、企業による展示も行われていました。各展示ブースは集客を工夫し、意見交換が活発に行われ、多くの学会参加者から注目されていました。
我が国のものづくり企業全般に当てはまることではありますが、世界に誇る技術力や研究現場からのアイディアでもって1次試作を終了したものの、外販するにはまだまだ完成度が足らず、2次試作にまで持ちこめればもっとはっきりビジネスが見えてくるのにという試作品が多くあります。近畿経済産業局がお願いした今回の「第2次試作」補助事業での4製品は、将来の販路、上市を見据えた展示がなされ、その中にはすでに、製品の販売や新たな製品開発、カタログ掲載の話が持ち込まれています。
再生医療分野の研究において、日本は世界のトップレベルにありますが、再生医療製品の実用化例は欧米、韓国と比べまだまだ少ないのが現状です。いち早く、再生医療を製品やビジネスベースにしていくことが課題となっており、そのために必要な器具、機器、装置、システム等の開発には日本の強みであるものづくり技術を活かすことが必要です。
研究者、医師等は中小企業を活用することによって、効率を良く事業を進めることができます。また中小企業にとっては、研究者、医師等から新しい知識や技術を得てビジネスを広げるきっかけになります。互いに連携することで、世界最先端の医療拠点となることが期待されています。
近畿経済産業局 地域経済部 バイオ・医療機器技術振興課
電話:06-6966-6163