民間航空機市場への参入支援と航空機産業基盤の強化へ
~参入したけりゃこれを読め!「国際航空機市場参入メソッド」を作成しました!~
担当課室:産業部製造産業課

最終更新日:平成26年5月1日

 近畿経済産業局では、平成21年度より「関西国際航空機市場参入等支援事業」として、民間航空機市場への参入を目指す中小企業への支援について、継続的に取り組んでまいりました。

 特に昨年度は、今後参入を目指す中小企業や実際に参入を果たした中小企業へのアンケートやヒアリングを実施しましたが、参入に向けての現状を認識するための情報や、いざ参入を目指すとした際にどのような準備が必要なのかという点で情報不足である点が改めて判りました。

 併せて、川下メーカーに対してもヒアリングや取引構造分析等を実施し、今後の調達方針や求められるサプライヤーについての洗い出しにも取り組みました。

 上記の内容を踏まえ、今後航空機産業への参入を目指す中小企業の皆さまへの手引き書となる「国際航空機市場参入メソッド」として取りまとめましたので、その概要をご紹介します。

1.ビジネスとして見た航空機市場

 ここで「今後の航空機産業市場の動向」について、改めて簡単に紹介します。

 特に民間航空機の需要予測について、新興国における旺盛な顧客需要や貨物輸送の増大に伴い、年率5%以上で増加するといわれており、それに伴って今後航空機材需要についても年々増加する事が予想されています。

図1 ジェット旅客機の運航機材構成予想
今後の航空機機材需要予測に関するデーターで、今後は150席程度の中型機を中心に機材需要は膨らんでいくことが想定される。
出所)一般財団法人日本航空機開発協会

 

 また、航空機は受注型の産業です。

 自動車や家電製品などとの大きな違いは、メーカーによる見込み生産ではなく、基本的に受注してから作るというところにあります。

 航空機の商談は、フランスのパリや英国のファンボローにて隔年で行われる国際エアショーで行われ、期間中には大型商談がまとまったというニュースがリリースされます。もちろん、ボーイングやエアバスなどの航空機メーカーは通常営業を行っていますが、世界的な注目を浴びるエアショーでセレモニー的に大型契約の締結を行うのが通例です。

 大型の投資を伴う開発と生産設備が必要な航空機だけに、「作って売る」よりも「売ってから作る」という受注型の市場形態となっています。

 こういった受注を基礎として需要予測がなされるため、航空機の需要予測は「すでに予約が入った機体」を前提に積み上げられており、受け渡し時期の多少のズレはあるものの、大きな予測としては確かであるということがいえます。

2.川下企業の取引構造にみる参入可能性について

 2000年代に入り、航空機市場への参入事業が盛んに行われるようになりましたが、これは成長産業としての期待が高まったことに加え、全国各地で連携しての取組みに成功例が出始めたことによるものです。

 しかし、成功例を分析すると、これまでは「元々、自衛隊への納入実績があった」といった実績組の民間機参入や、「川下企業から誘われた」ような参入がほとんどで、自ら参入計画を立てて入り込んだようなケースは限定されています。

 また、期待された共同受注などの連携での参入も、ネットワーク設立から数年立つと実力のある企業のみが取引を行っているにとどまり、まったくの新規で取引が開始され継続されているケースは少ないのが実態です。

 これは、そもそも航空機という比較的クローズドな取引構造をもつ産業においては、新しい取引を引き入れる素地が少ないということが要因です。

 図2は主要4重工を中心とした我が国航空機市場の取引構造です。この構造内には、装備品メーカーなども、国内取引においては、4重工向けの納品を行っているケースが多く、Tier1に位置しています。Tier1企業は400社余りですが、4重工との取引はパラレルで行っており、優秀なサプライヤーはどの川下企業とも取引を有している様子が伺えます。

 また、主要工場の立地が近い川崎重工業と三菱重工業は、岐阜、愛知、兵庫に集中して取引を行っており、かつ共通の取引先が6割を超えるほどパラレルな関係になっています。

図2 主要4重工の取引構造
国内の大手航空機メーカーの取引構造の略図であり、各工程毎にそれぞれサプライヤーが存在するが、その数は非常に限られている。

 

 さて、機体・エンジンメーカーの場合、部品そのものが大きいために、製造設備も巨大化するとともに、航空機の安全性を決定的に決める主要材であることから、ボーイングやロールスロイス等のプライムメーカーの関与が強くなります。このため、川下企業も新しいチャレンジを伴うサプライヤーを見つけ、育てることよりも、長期的な関係を結んだ慣れ親しんだサプライヤーと仕事をすることで、できるだけ労力を自らの顧客である航空機メーカーへ集中させたいという思いが働く傾向にあります。結果として、取引構造上、時系列での変化があまりみられません。つまり、新規参入がしづらい、もしくはすでに参入済みで長期的な関係を結んでいるサプライヤーの下請け、2次取引先、3次取引先となってしまうことになります。

 一方で、装備品メーカーの場合、多品種の小物部品を扱うため、新たな取引関係が生まれやすいものの、参入した多数のサプライヤーが必要とするだけのボリュームはないため、同時に取引を失いやすい傾向にもあります。

 また、主に中部地方の主要サプライヤーを取材した際に、工場敷地面積が広大な企業が多く、特に機体関連のサプライヤーになるためには、都市部に立地し、小物部品を得意とするような中小企業には立地制約により可能性がないことが示唆されましたが、こういった背景もあって、大物部品については「それ専用の」工場を建てることと大きな投資も伴うことから、経営者としてのよほどの覚悟が必要となります。

 大事なことは、参入ポイントの見極めであり、投資対象として合うかどうかということです。

図3 ステージ別参入準備・体制整備(イメージ:機械加工)
部品の重要度や工程毎に必要な準備や体制整備、認証取得の必要性等を整理している。

3.「参入メソッド」について

 ビジネスとして見た場合の航空機市場と、川下メーカーの取引構造分析によるサプライヤーのおかれている現状の背景について述べてきました。

 そのような状況を踏まえて、実際に参入を目指す際のメソッドについて以下に記載していきます。

 先ずは、「参入のための4つのポイント」をまとめると以下のとおりになります(四角囲みについては本文より抜粋)。

「参入のための4つのポイント」

Method1「航空機部品市場への参入=「未来志向の逆算型経営」」
  • 航空機市場は需要予測が確定しており、間違いなく市場規模は拡大する。
  • 参入検討時に最初にすべきことは、自社があるべき姿(ビジョン)を設定すること。
  • 「あるべき姿」から逆算する形で、ロードマップ(目的までの道のり)を描く。
  • 「ロードマップ」から具体的なタスクに落とし込み、進捗を管理するためにマイルストーンを設定する。
Method2「どういったサプライヤーになるか」
  • 航空機部品サプライヤーには、「長期パートナー型」、「短期コストダウン対応型」、「ビジネスモデル型」の3パターンがある。
  • 特に国際航空機市場において、新規参入の実現性が高く、かつ、継続的な取引を目指す場合、ビジネスモデル型(一貫生産)のサプライヤーを目指すべき。
Method3「明確にすべきはあるべき姿への不足分」
  • 「6つのポイント」は、新規参入サプライヤーが必ず抑えておかなければならない。
  • 参入には、高度な経営者判断(工場拡張、将来的なリスクテイク)が必要になる。
Method4「収益を得る仕組みとしてのビジネスプランの策定」
  • ビジネスプランの策定は非常に重要であり、下記手順で策定すること。
     (1)自社の「あるべき姿」の検討
     (2)ビジネスモデルの検討
     (3)ロードマップの策定
  • 川下企業の増産対応で発生する取引は、参入機会のひとつである。

 上記の4つのポイントについて、各ポイントの中身についても簡単にご紹介します。

Method1「航空機部品市場への参入=「未来志向の逆算型経営」」

 経営者として判断しなければならないのは、来るべき未来において、自社は“どうあるべきか”というビジョンであり、そのために“何をすべきか”というロードマップが必要となってくる。

 航空機部品市場は、こういった「未来志向の逆算型経営」に向いた市場であり、ビジョンを反映させやすいビジネスでもある。逆に、「自社の強み」のような今の姿を反映させた参入がうまくいかないのは、未来に向かって「あるべき姿」を投影せずに、自社の今の姿のまま受け入れてもらおうとする姿勢が航空機の川下企業に見透かされているからである。

 図4には、航空機部品市場におけるあるべき姿から逆算したビジネスプランを検討するイメージを掲載した。これは、本テキストや航空機産業に関連する様々な資料から「航空機市場へチャレンジしよう」と経営判断した場合、どういったサプライヤーになるかという「あるべき姿」を思い描き、そこから逆算して計画を立案するという思考方法のひとつである。

 この判断の基礎となるのは、市場動向と主要な顧客となる川下企業のニーズ、調達戦略である。あるべき姿をイメージできれば、そうなるために必要なタスクの数々が見えてくる。具体的には、「どういった設備や人材を揃える必要があるのか」、「取得すべき認証とその期間は」、「その間の運転資金や投資するための資金は」、などがリストされる。そのほとんどが自社で選定できるものではなく、サプライヤーとしてはあくまでも川下企業の動きと合わせてのアクションが必要となってくる。

 関西国際航空機市場参入等支援事業では、中小企業の強みにのみ立脚するのではなく、市場ニーズを的確に捉えた計画的な参入活動を支援している。

 後述する先導的モデル支援事業の成果である「Japan Aero Network」は、グローバルな視点で練られたプランをもとに、川下企業である住友精密工業とロードマップを共有して着実に進めたことによるもので、そのプランのベースはビジネスとして航空機部品市場を捉えたことから始まっている。

 あるべき姿から逆算して、現在行うべき仕事は何かを整理する、ビジネスにおいては基本ともいえる姿勢であるが、航空機部品の場合、よりその姿勢が重要であることを認識しての取組みが重要であることを強調しておきたい。

 目指すべきところとしては、「国際航空機市場」であることから、グローバルで活動するサプライヤーをひとつのゴールとしている。

図4 「未来のあるべき姿から逆算して参入を検討」
参入のためのロードマップとマイルストーン策定のためのイメージ図を示している。

Method2「どういったサプライヤーになるか」

 我が国で高い成長性と利益率を誇る大企業に、日本電産や村田製作所等といった部品メーカーの姿がある。モーターやコンデンサという部品での高い競争力をもって世界的なメーカーとなった企業を低くみることがないのと同じく、航空機における部品メーカーも市場の伸びとともに、その重要性やポジションなどが高まることが期待される。

 では、航空機部品サプライヤーとしては、どういったタイプがあるのかを整理してみる。

(1)長期パートナー型(実績・実力前提)

 「この部品については任せられる、替えが利かない能力を持つ企業」であり、豊富な実績と高い実力を持つ企業である。旭金属工業(本社京都、主要工場岐阜)は、特殊工程での実績をもって航空機市場サプライチェーンの中でも重要な位置を占めている。同社では38年前からの参入実績を有している。また、川下企業のニーズに対応して、設備拡充等の積極的な先行投資を行ってきた。こういった姿勢を持つサプライヤーを川下企業が信頼することは想像に難くない。

(2)短期コストダウン対応型

 グローバル競争にある航空機の場合、コストターゲットは当然グローバルな価格帯となる。常にコストダウンの努力を川下企業も行っている中、どうしても下がりにくい加工分野や部品が発生する。さらには、為替変動によるグローバル価格の変動がある中、国内のサプライヤーがコストダウンに対して努力を行ってくれる場合、川下企業としては適宜取引先を見直すことは通常のビジネスとして行っている。受注形態としては、いわゆる工程外注である。

(3)ビジネスモデル型(一貫生産)

 新たな参入パターンとして注目されているのが、一貫生産という「部品メーカーとしての参入」である。この思想はボーイングがリスクシェアリングパートナーとしてTier1企業に「任せる」発注を行ってから、Tier1企業が自社のサプライチェーンに対しても同じように自立したメーカーとして期待し始めたことからはじまった。しかし、工程外注のように加工のみではなく、材料素材調達から検査までを一貫して行う部品メーカーになるためには、単に製造能力を持つだけでは実現が困難で、「ミニ川下企業」として川下企業が持っている調達や製造、検査までの幅広い機能を持つ必要がある。

図5 ビジネスモデル型の事例「JAPAN AERO NETWORK」
ビジネスモデル参入型である「Japan Aero Network」」の説明図であり、特に中核企業と各工程での役割分担について整理している。

Method3「明確にすべきはあるべき姿への不足分」

 サプライヤーに望まれる「6つのポイント」を評価する。

 事例集では、民間航空機市場に新規参入を目指すサプライヤーに望まれる「6つのポイント」を明らかにした。この「6つのポイント」(熱意、モラル、堅実さ、工場の拡張余地、資金調達力、経営者の若さ)はこれから民間航空機部品市場へと参入を目指す企業にとって必須の項目であることにはかわりがない。

 まずは、民間航空機分野で絶対にやりきるという 1.「熱意」が必要である。長期的なサプライヤーとなることが望まれるが、最初のハードルが高いだけに、熱意なくしては取組めない。次に2.「モラル」である。特に民間航空機では約束事が多く、決められたことについては守るというモラルが重要となる。わからないからいい、という判断をしてはならない。 3.「堅実さ」については、これも長期サプライヤーにとっては欠かせない要素である。安定経営の企業でなければ、長期的な取組みを実現できない。 4.「工場の拡張余地」は、我が国の中小企業にとって、特に都市部の企業には厳しい要素であるが、「航空機専用の」ラインを要求されることが多いため、ある程度の拡張余地がなければ参入は難しい。さらに、工場の拡張、設備導入に伴う 5.「資金調達」力も必要である。特に新規の設備需要に対応できるかどうか、定期的に更新できるかどうかについては、競争力の維持という面でも重要なポイントである。最後が 6.「経営者の若さ」(意識を共有する後継者の存在も含む)である。長期的に取組むために重要というだけではなく、「新しいことに取組むのだ」という意欲と持続力が要求されることから、経営者の若さが重要となってくる。

 1つ1つのポイントが重要であるほか、各ポイントは相互に関係しているので、すべて具備することが求められる。したがって、「6つのポイント」を満たせない企業は民間航空機市場に参入するのが困難であろう。

図6 民間航空機部品サプライヤーになるための6つのポイント
前述の本文中の「6つのポイント」についての概念を図示している。

Method4「収益を得る仕組みとしてのビジネスプランの策定」

(1)自社の「あるべき姿」の検討

 単に目の前の受注をひとつ取りたい、自社の設備でできる品目を取りたい、という考えであれば必要はないが、もし、5年後、10年後の自社の姿を投影して考えるのであれば、その時点での自社の「あるべき姿」を思い描いておく必要がある。

 「10年後に、航空機ビジネスで1億円の受注を得ている」という姿があるべきだと考えるのであれば、そのために必要とされるタスクはそれぞれブレイクダウンできる。

(2)ビジネスモデルの検討

 年間1億円の受注を安定して取るためにはどうするべきか、市場動向や主要川下企業の受注動向、競合となる国内、国外の企業の取組みから考えて、自社で取り込める受注を確保するための仕組みを検討しなければならない。

 たとえば、初年度は単発の冶具製造から入って品質と納期に信頼を得、サプライヤー見直しや新規のプログラムが来るタイミングをサーベイし、新規口座を開設、冶具製造から部品製造へシフトし、単発から年間発注へ切り替え、発注に前倒しして認証の取得や川下企業の指導受け入れと自社人材の育成、必要な設備導入などを行いつつ、年間1億円のキャパを確保する、さらに継続的なコストダウン要求に対応するための仕掛けを行う、などといった川下企業からどの分野のBuyを引き受けるのかという調達方針に組み入れる(受注がくる仕組みづくり)といった検討である。

 当然、新規参入企業が自社のみで検討することは難しいため、どの川下企業と組むか(指導を仰ぐか)が重要なポイントとなってくる。同時に川下企業も、「このサプライヤーは長期か、単発取引か」というシビアな目でみてくるため、ビジネスモデルの有無は「あるべき姿」に向かうためには必須となる。

(3)ロードマップの策定

 5年後、10年後のあるべき姿とビジネスモデルがみえてくれば、何をすべきかをロードマップに落とし込むことができる。

 実際に、ロードマップを策定している中小企業は少ない。3年スパンの中期経営計画を策定している中小企業はそうはいない。しかし、川下企業のような大企業はおおよそ中長期の経営計画を立案し、多少の時間軸のブレはあっても計画に基づき市場開拓や投資計画などを進めていく。その投資計画の中で、「これは自社で投資」、「これは外注化を進める」などの「Make Buy」が分かれてくる。もし、サプライヤー側にロードマップがあり、設備などの投資予定が記されていて、信頼のおけるものであれば、川下企業側の投資判断に影響を与える場合がある。「サプライヤーが投資するなら、その設備は買わなくてもよい」と川下企業のMake部分をBuyに変更させるという実績を出している。利益が出たから投資する、では競合他社との競争には勝てない。

4.まとめ

 上記3章にわたって、特に参入準備に関する背景や取り組むべき事項についてエッセンスとして紹介しました。本編ではこれ以外にも参入を果たした企業の実際の参入のきっかけに関するアンケート結果やその方法、川下メーカーのMake&Buy戦略の分析等についても掲載しております。

 分量も40ページ程度と皆さまへ手にとっていただきやすいサイズになるよう作成をしました。現時点で参入を検討している中小企業の皆さまのみならず、これから参入の検討を始めようかとお考えの中小企業の皆さまにも、是非ご一読いただければ幸いです。

 また、中小企業のみならず各地で航空機産業振興や参入企業支援に取り組む、地方公共団体や産業支援機関の皆様にもご一読いただき、今後の活動の一助としていただければ幸いです。

 当局としましても、御希望があればこのメソッドを携え、各地に説明へうかがいます。

 引き続き「関西国際航空機市場参入等支援事業」を通じ、全国各地の皆さまと連携を図り、日本の航空機産業基盤の強化に取り組んでまいります。

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近畿経済産業局 産業部 製造産業課

電話:06-6966-6022

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