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最終更新日:平成27年11月2日
経済産業省では、様々な規模・業種の企業における「ダイバーシティ経営(※)」への積極的な取組を「経済成長に貢献する経営力」として評価し、ベストプラクティスとして発信することで、ダイバーシティ推進のすそ野を広げることを目的として、「ダイバーシティ経営企業100選」事業を実施しています。
平成24年度から3年間で141社を表彰しました。近畿経済産業局管内では、平成26年度は11社が表彰されました。
近畿経済産業局では平成26年度に選定された近畿管内の企業の取組を5回に分けて紹介させていただきます。今月号は第3回目として2社の取組をご紹介いたします。
※ダイバーシティ経営とは「女性、障がい者、外国人、高齢者など、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のことです。
ワークスタイル変革をベースとして女性活躍を支援、LGBTも明文化し職場風土を改革
大阪ガス株式会社では、1980年代より女性の職務拡大や育児・介護との両立支援施策拡充に取り組んできましたが、2014年に「大阪ガスグループダイバーシティ推進方針」を公表し、ダイバーシティ推進を経営戦略として改めて位置付けています。
その端緒として女性の活躍推進が掲げられており、同社において、総合職採用人数に占める女性比率30%以上を継続すること、2020年までに女性管理職比率を5%に引き上げること、女性の役員登用を早期に実現すること、という3つの目標が示されています。
この背景には、エネルギー自由化による競争の激化をはじめとした事業環境の変化に対応するために、事業領域の拡大とともに人材の多様化が不可欠であるとの経営層の思いがあります。様々な事業で新しい価値を生み出していくためには、「従業員一人ひとりが、強い好奇心と豊かな発想力を持ち、視点、価値観、考え方が異なる人と積極的に交流し、お互いの意見を先入観なく柔軟に受容しあうことが不可欠」であると考えています。
(1)20年以上前から始まっていた女性活躍推進の土壌づくり
女性の活躍推進については20年以上前から地道な取組を進めてきました。1986年の男女雇用機会均等法施行に合わせて女性総合職の採用を開始しましたが、それ以前から女性社員は活躍しており、特に、ガス調理機器開発の分野では専門性を有する女性社員が活躍してきた歴史があります。
女性社員が増えるに従い、職域の拡大が課題となり始めました。そこで、「チャレンジ制度(社内公募)」や育成コース転換制度など、能力に応じた機会の付与を実現するとともに、両立支援制度の拡充にも努めてきました。例えば、育児休業制度を導入して以来、最長3年の育児休業制度や子どもが小学校3年までの短時間勤務制度など、法定以上の両立支援制度を整備してきました。これらの制度の整備により、出産・育児などで離職する女性社員が10年前には約10%であったところ、2014年現在では1.5%に低下しています。
また、職域拡大について言えば、20年前には都市ガスの保安・供給業務を担当していたのはほぼ男性社員だけでしたが、「チャレンジ制度」などを活用して能力とやる気のある女性社員の登用を進めています。
他方、男性も含めた全ての社員を対象とした業務の効率化・生産性向上を図る取組も進められ、2008年からは全社的に社内文書電子化によるペーパーレス化、見える化基盤(システム化)活用による月報や会議の資料作成作業の効率化、web会議システムによる複数拠点との遠隔会議の実施、事務所スペースのフリーアドレス化などが進められました。2013年度からは、管理職に対してはマネジメント意識の強化(管理者へのスマートワーク目標の設定)を進め、全社員に対しては会議時間ルール設定などにより時間管理に対する意識啓発を図るとともに、業務の棚卸しを行って無駄な作業を削減していくなど、業務効率化による労働時間の削減を行っています。
(2)「ダイバーシティ推進チーム」の立ち上げと課題の明確化
ダイバーシティ推進に関する取組をさらに加速させるため、2013年4月、人事部に専任チームを設置しました。「ダイバーシティ推進チーム」を人事部の横串を刺す存在として新設することで、より自社の経営課題に適した柔軟な活動を実施することを可能にしました。
「ダイバーシティ推進チーム」では、女性活躍をダイバーシティの試金石と位置付け、「期待を伝える・機会を与える・仕事で鍛(きた)える」という「3つのき」をポリシーに、女性社員の育成と管理職の意識改革、活躍している女性の見える化に取り組んでいます。特に女性管理職比率の低さに着目し、組織風土や古いジェンダー観に課題意識を持って、まずは女性社員の現状を把握することから始めました。
具体的には45歳未満の女性総合職、約100名を対象に個別面談を実施しました。すると、男性社員と比較して、中長期的なキャリアを考えている者が少ないこと、上司とのコミュニケーションに難しさを感じている者が多いことが判明しました。また、女性社員のキャリア形成には、本人がこれまで携わってきた業務の経験、特に初期段階で上司がどのような業務にアサインしたかが影響していることが判明しました。そのことから、女性社員自身を対象とした支援だけでは不十分であり、むしろ管理職の意識改革が急務であることを認識、実際の施策へと展開されています(後述)。
(3)全管理職対象の研修によるマネジメントスキル向上の取組
性別役割などの古いジェンダー観を是正するため、全管理職を対象とし、座学とe-ラーニングによる意識改革を開始しました。研修は講義だけでなく、グループディスカッションやロールプレイングも盛り込まれており、女性社員の気持ちを管理職に理解させるような内容となっています。例えば、管理職の中には、女性部下のプライベートに踏み込むような質問はできないとコミュニケーションに遠慮が生じているケースが少なくなく、そのことがかえって女性部下のキャリア形成を真剣に考える機会を奪い、キャリア構築が阻害されている可能性があることに研修を通じて気づくなど、効果も出ています。
前述のとおり、女性部下に対しては「期待を伝える・機会を与える・仕事で鍛(きた)える」ことを意識的に行うことが効果的であると研修においても強調しています。
一方で、今後キャリアを展開していく若手女性社員の支援策として、部下育成のスキルが高いと評判のマネジャー職の人材をメンターに任命し、新たにメンタリングプログラムを導入しました。2014年度は主任級の女性23名を対象として開始、今後は対象をひろげることも検討しています。メンターとの面談は月1回程度、合計で年6~8回程度実施する予定とし、仕事の悩みなどを相談できる“ナナメの関係”として支援を行っています。メンターとの信頼関係に基づく人脈形成が女性社員にとって仕事においても有益となることに加え、この制度を社内的に公言することで、「(優秀な女性社員を)引き上げるために会社が本気になっている」「他組織の先輩社員も相談相手として活用できる風通しのよい職場である」というメッセージとしての役割も果たしています。
(4)LGBT(性的少数者)の取組
前述の「大阪ガスグループダイバーシティ推進方針」の、「多様な人材」について、「性別」や「年齢」の他に「性的指向/性自認」が含まれています。当面は女性活躍推進に注力しつつ、顕在化しにくいLGBT(“Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender”の略、性的少数者の総称)に言及するのはまだ早いとも考えられましたが、同性間の言動もセクハラに該当することを盛り込んだ男女雇用機会均等法の改正指針が2013年末に公布されるなど、今後の社会的な要請の高まりを踏まえ方針への記載を決めました。
LGBTに関する取組は、セクハラ防止マニュアル・採用面接マニュアルへの項目追加、グループ社員を対象とした階層別人権研修など、LGBTのはたらきやすい職場づくりを掲げている特定非営利活動法人の助言に基づく意識啓発活動が主体で、前述のダイバーシティ推進チームに加え、コンプライアンス部、人権啓発推進センターが協働しています。
これら取組の意図として、顕在化しないLGBTへの配慮は、同様に外見からはわからない障がいのある社員の人権への配慮につながるとともに、女性の活躍支援を行うにあたり壁になる「男子たる者…」「女性らしく…」といった旧態依然としたジェンダー観を再考してもらうきっかけになるとの期待もあります。
前述の管理職研修では、性差なく業務への機会を与えること、部下のプライベートにも関心を持ってコミュニケーションすることを打ち出していますが、LGBTに関する意識啓発は、その補強としての役割も担っています。
(1)女性社員の能力を活かした適性配置が多様な活躍を創出
1986年以降継続している女性総合職採用と、1990年代の女性の職域拡大の成果により、現在では多様なポストで活躍する女性社員が増加してきています。
調理機器の開発には雇用均等法施行前より多くの女性社員が寄与してきていますが、2012年に発売された新型ガス炊飯器「直火匠」も、入社直後から開発に携わった女性社員の貢献がありました。本製品は1991年に発売された炊飯器の20年ぶりの後継モデルであり、社外に共同開発パートナーも多く、開発の過程では複雑な交渉が必要とされました。しかし、当該女性社員は上司の的確なマネジメントの下で、大きく成長しました。同製品は2015年10月には累計販売1万8千台を突破しています。
また、交替勤務制で、異変に対する注意力の持続と緊急事態への臨機応変な対応力が要求される都市ガスの保安・供給を担う職場でも、徐々に女性社員が活躍するようになってきています。2014年にはこの業務で初めての女性チーフが誕生、様々な部署で実績を積んできた女性社員のフロンティアともいえる存在ではあるものの、女性であるがゆえの登用ではなく、能力のある人材を適材適所で配置した結果でした。
その他の部署も含め、2015年現在ではマネジャー以上の職位に占める女性比率が2004年の0.3%から2.3%に上昇するなど、着実に活躍の場を広げてきています。
さらに、女性活躍の数値目標の公表やLGBTへの言及が注目され、同社の取組を取り上げるメディアも後を絶たず、社会的評価も向上しています。
(2)ワークスタイル変革の実現により生産性が大きく向上
様々な業務効率化ツールの導入により、労働時間そのものも短縮されてきました。また、スマートワーク目標(生産性向上への取組、労務管理)を管理職の業績評価対象にも織り込むことで、実効性が向上し、同時に管理職の意識変革にも寄与しています。
その結果、以前には増加傾向にあった労働時間の削減につながっています。例えば、2014年度実績において1人あたり所定外労働時間が2012年度比約14%削減されるなど、多様な人材の促進を支える土壌が出来上がってきています。
知的障がい者・ホームレスの雇用で「雇い入れる力」を磨き、清掃業からパークマネジメント事業へと展開
株式会社美交工業は1980年にビルメンテナンス業を生業として創業されました。公園清掃なども請け負う中で、「大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合」(通称エル・チャレンジ)との出会いを通し、障がい者雇用を積極的に実施するようになりました。エル・チャレンジは1999年に建物の清掃業務を活用して障がい者の就労訓練を行い、その後一般就労を目指すことを目的に設立されました。また、大阪府における「行政の福祉化」(府政のあらゆる分野において、福祉の視点から総点検し、住宅、教育、労働などの各分野の連携のもとに、施策の創意工夫や改善を通じて、障がい者や母子家庭の母、高齢者などの雇用、就労機会を創出し、「自立を支援する取組」)施策の一環としても一役を担っています。
職業的重度の知的障がい者の職業訓練と就業支援を行っており、障がい者の受入れに当たってエル・チャレンジの十分な支援が受けられるということで、同社での知的障がい者の受入れが始まりました。
CSRではなく企業経営の一環として障がい者雇用を位置付けられるよう、経営方針として「人と環境とのつながりを大切にした社会づくり」を掲げ、様々な体制整備を実施してきています。
(1)現場が負担を抱え込まない体制構築と現場サポート
清掃業は、作業現場が本社から離れることもあり、監督の目が行き届かないことが多く、そのため、障がい者を雇用するにあたっては、実際に指導する現場と本社との温度差をなくし、現場のみに負担がかからないよう体制を整えることが不可欠でした。
そこで、障がいに関する知識を有する専任支援者を現場に配置し、障がい者に対する指揮命令系統を一本化した上で、個々の障がいの程度に応じた柔軟な指導を行うようにしました。また、専任支援者が現場での悩みや課題を抱え込むことのないよう、定期的にケース会議を実施するなど、本社と現場担当者とのコミュニケーションの機会を多く設けました。さらに専任支援者がいつでも相談できる窓口を本社に設けたり、エル・チャレンジなどから派遣されたジョブコーチに現場支援を依頼したりするなど、課題を全社で解決できる体制を整えています。
さらにケース会議等にはエル・チャレンジなどの支援機関にも参加いただくことで、社内の風通しを良くしています。障がい者のために良かれと思って工夫したアイデアが、実は障がい者自身の負担になってしまうような場合、社内では反論が出にくいが、社外の専門家であれば反論や代案をコメントすることも容易となります。そうした形で、雇用する側の都合を押し付けることのないよう、真に当事者の能力開発につながるような支援のあり方を探りながら雇用を進めています。
(2)業務細分化と個人の適性を踏まえた業務配分による障がい者の“戦力化”
障がい者が他の社員と全く同じ業務内容・手順をこなすことで“戦力”となるのは現実的には難しいですが、障がい者の特性を見極めることで「1人分」に該当する作業量をこなしてもらうことが可能になります。同社では、このような考え方で、障がいの有無にかかわらず社員1人に「1人分」の仕事を割り振ることで、障がい者を大事な戦力として育成してきています。
例えば、ビルのトイレ清掃であれば、便器の清掃、トイレットペーパーの補充、蛇口の拭き掃除など、細分化していくと10以上の複雑な工程になります。通常は、この10工程を1人で全てこなすことを前提に持ち場を分担することになりますが、もし、ある障がい者が3つだけ得意な工程があった場合、その3工程の専従担当とし、場所を変えながら作業にあたってもらうようにしています。
このように、作業を細分化し、得手不得手を見極めながら組み合わせることで、全体の作業従事人数はそのままに障がい者に仕事を任せることができます。
前述のような個別の特性に合致した業務分担は、基本的には月に1回実施されるケース会議の場で議論されますが、日常的な現場での采配は本社での現場担当者と専任支援者が行っています。本社で人選やスケジュール管理を実施し、それを現場の責任者に伝えて実施するような方法をとっています。慣れてくると本社の介入なしに現場でスムーズに作業が進むようになりますが、もし問題が生じた場合には、定例のケース会議を待たずとも窓口を通して全社で問題を把握できるような仕組みとしています。
他方で、障がい者の作業を円滑に進めるための工夫が、逆にユニバーサルデザインの進展につながり、作業の効率化につながる事例もあります。言葉で理解することが難しい障がい者には、絵や写真を多用した手順書を用いたり、清掃用具を使いやすく改良したりした結果、障がいの有無にかかわらず誰にとっても使いやすくわかりやすいものとなりました。
このような工夫には委託元である顧客の理解も欠かせません。例えば、1フロアに2つある非常階段を判別しやすくするために「赤の階段」「青の階段」と設定し、目印に色の違う小さなシールを貼るというアイデアを顧客に提案したところ採用され、結果として一般の利用者にとってもわかりやすいユニバーサルな環境への改良の一助となりました。
(3)障がい者雇用で培ったサポート体制を基盤にホームレス雇用を開始
ビルメンテナンス業と並行して公園の清掃業務を行う中で、ホームレスの存在についても無視できないと感じるようになりました。市民の税金により仕事をする立場として、公園の美化は顧客(=市民)サービスとして必須であると捉え、ホームレスを雇用し清掃業務に携わってもらうこととしました。
ホームレスが業務にあたる上では、それまで同社が障がい者雇用の中で取り組んできた様々な工夫が奏功しています。視覚情報を用いた手順書や現場での受入れ体制の構築など、作業そのものは順調にいく場合が多かったですが、ホームレスの雇用の場合にも、生活面での相応の支援が必要になるため、当初は試行錯誤の連続でした。例えば、一度失敗すると次の日から姿を見せなくなったり、給与を一遍に使い果たして路上生活に逆戻りしてしまったりといった例が後を絶たず、このような生活面での課題についてもホームレスの自立支援を行う支援機関(NPO法人釜ヶ崎支援機構)と連携し、対応策を議論し、「出戻りOK」(一度業務を離れても、再度の就労を認める)の制度や給与支払いの細分化といった生活支援などを行い、徐々に生活と就労を軌道に乗せていくといったサポートを実施しています。
(1)ビルメンテナンス業から都市公園の指定管理者としての事業の拡大
2003年に大阪府の施設清掃業務へ総合評価一般競争入札制度が導入され、価格だけでなく公共性(「福祉への配慮」として知的障がい者や就職困難者の雇用を実施していることなど)が評価されるようになったことも、同社にとって追い風となり、行政機関からの受注が増加すると同時に、民間ビルオーナーからの社会的評価も高まり、業績拡大に寄与しました。
さらに、それまでの清掃業務実績とともに障がい者やホームレスの雇用の実績が評価され、2006年に指定管理者として住吉公園、2010年に久宝寺緑地の2つの大阪府営公園の管理業務を受注、安定的な収益確保につながっています。
その中で、公園緑地の維持管理というハード面に加え、運営管理というソフト面で、同社がこれまでに培った様々な人的ネットワークや資源を活用して地域の課題解決を図る取組を行っており、それがまた同社の強みとなって次の受注につながるという好循環を生み出しています。
また、清掃業は労働集約型産業であり、多様な背景を持つ人材を“雇い入れる力”がなければ存続すること自体が難しく、同社は、知的障がい者、ホームレスといった生活支援を必要とする人材を雇用し、戦力として活用するスキルとノウハウを蓄積してきたことから、今後少子高齢化が進展する中で生じる人手不足の時代にも対応しながら事業展開を図ることが可能になっています。
(2)職場のコミュニケーション活性化と社員の自尊心向上に寄与
障がい者雇用を契機に、作業現場と本社とのコミュニケーションが密接化したことで、作業場が点在しており情報共有が難しかったという従来からの課題が解決され、障がいの有無にかかわらず社員一人ひとりの働きや状況をきめ細やかに把握することができるようになりました。また、障がい者とともに働く中で、社会貢献の意識や達成感を社員全員で共有することで一体感が醸成され、結果的に社員の満足度も向上しています。
特に、2005年の大阪府ハートフル企業大賞を受賞した際には、賞状をコピーして作業所に掲げる社員もいたりするなど、自社の取組に誇りを持ちながら日々の業務を遂行する社員が増えてきています。表彰や公的な場での講演などは社内に都度フィードバックされており、同社の社会的な認知度や評価が高まるにつれ、社員の満足度と職業意識の向上にもつながっています。
近畿経済産業局 地域経済部 産業人材政策課
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