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最終更新日:平成27年11月2日
日本のものづくりの原点、文化の象徴として長年国民生活に潤いを与え、地域経済の発展に貢献してきた伝統的工芸品産業。時を経て、昨今はライフスタイルの変化による需要の低迷、後継者不足等さまざまな課題を抱えています。一方では、伝統的な技術・技法を活用し、時代の潮流や現代の生活様式に合った新商品が多数開発され、世界が共感するクールジャパンとして、日本の優れたものづくり技術が世界からも注目されています。
伝統的工芸品の海外での市場拡大に取り組む事業者を紹介します。
1923年(大正12年)に、アンドウ株式会社の前身である安藤商店が京都に誕生しました。「珠玉のごとき品をうみだすを命とす」を社是として、絞り染め、和装小物を中心とした商品の製造卸業を90年以上営んでいます。以前から帯上げの総絞りなど着物用の小物を製造していましたが、今から20年~30年ほど前に浴衣ブームが到来し、浴衣関連商品のほか、社員のアイディアで和装を超えた和雑貨の商品が次々に生み出されました。
その一つに、絞りの特徴である「伸縮性」と、絞ることで凹凸ができることによる「陰影」に着目し、絞りのエコバッグが開発されました。1.たたまなくてもよい、2.伸縮性に富むためたくさん入って小さくしまえる、3.軽い、という機能性を最大限活かした斬新なデザインのエコバッグは、瞬く間に売れ筋商品となり、和雑貨としては同社を代表する商品となっています。
実は、このエコバッグの特徴である伸縮性は二次的なもので、絞りというのは絞った部分と他の部分との色の違いを楽しむことが本来の特徴でした。だからこそ、その伸縮性に目を付けたことは、画期的なアイディアだったのです。
伝統にとらわれず新しいものを取り入れる社風は、1990年代の三代目社長から開始した、海外を見据えた事業展開につながっていきます。中国やラオスなど海外にも拠点を構え、量産できる体制を整えていきました。また、2009年からフランスの見本市「メゾン・エ・オブジェ」出展を始め、タイ「バンコク・インターナショナルギフト展」やインドネシア「JETRO ASEAN キャラバン」、マレーシア「イントレード・マレーシア展」など数々の世界的な見本市に出展しています。
海外見本市への出展に際し、日本と海外のちょっとしたライフスタイルの違いで、同じ商品でも現地仕様に合わせることが必要でした。たとえば、海外では同社の商品については洋風にアレンジした模様よりも和柄が人気であることや、海外の方はバッグを肩にかけて持つことが多いため、持ち手部分の長さを長く変える工夫をしています。バッグを腕に通したり手で持つことが多い日本人向けには、持ち手の長さは短めに加工しています。
こうした気付きそうで気付きにくいちょっとした違いは、商品展開において大きな差となります。自社の商品について来場者の感触や意見を聞き、マーケット調査をして初めて、何よりも信頼できる情報になると実感したそうです。
同社は見本市に出展し続けることで、年々商品のバリエーションが増えていきました。今年は初めて海外のデザイナーと連携し、今までにないデザインの、より現地の感覚に近い商品開発に取り組んでいます。「絞り」という伝統的技術がどんな魅力的なアイテムに変身するのか、試行錯誤を繰り返しながらもとても楽しみだと同社の担当者は話してくださいました。
日本国内はもとより、海外にも通用する「品質・安全基準」に取り組んでいます。同社内に試験設備を設置し、日本工業規格(JIS規格)に基づいた品質検査を行っています。染色加工品が着用中に擦れ合い、他の製品に色移りする度合いを調べる摩擦試験や、光によって変色や褐色の度合いを判定する耐光試験などの実施だけでなく、環境への配慮など、お客様に安心していただけるものづくりを目指しています。
「絞り」という伝統的技術が、自由闊達な社風と新進気鋭な社員たちによる柔軟な発想により、エコバッグという形となって私たちの日常生活に溶け込み、身近な存在に感じられるのではないでしょうか。エコバッグという、和装小物とは一味違う商品ですが、その根底には絞りを愛し、着物文化を未来の子供たちにも受け継いでいきたいという社員たちの純粋で切実な願いが込められているのです。
絞り製品は今や絹に限らず革や合成繊維など、さまざまな素材が使われています。また、着物用の和装小物から現代生活に適した和雑貨の製造など、時代とともに市場ニーズが変わっても、これまで同様、「珠玉のごとき」商品をうみだす為にというアンドウ株式会社の伝統と革新を融合させて進化していく取組が継続されることが期待されます。
近畿経済産業局 産業部 製造産業課
電話:06-6966‐6022