トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 平成28年 2月号 企業・地域の取組紹介
最終更新日:平成28年2月1日
経済産業省では、様々な規模・業種の企業における「ダイバーシティ経営(※)」への積極的な取組を「経済成長に貢献する経営力」として評価し、ベストプラクティスとして発信することで、ダイバーシティ推進のすそ野を広げることを目的として、「ダイバーシティ経営企業100選」事業を実施しています。
平成24年度から3年間で141社を表彰しました。近畿経済産業局管内では、平成26年度は11社が表彰されました。
近畿経済産業局では平成26年度に選定された近畿管内の企業の取組を5回に分けて紹介させていただきます。今月号では最終回として2社の取組をご紹介いたします。
※ダイバーシティ経営とは「女性、障がい者、外国人、高齢者など、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のことです。
緻密で正確な障がい者の解体作業を基盤に顧客からの信頼を獲得、着実な事業展開で業界のトップランナーへ
1人の障がい者がきっかけとなり「人の心が通う会社」へと転換
三洋商事株式会社(以下「同社」)は1957年創業、通信機器やコンピューター類のリサイクル業を営んでいます。2001年に地域貢献の意識から1人の障がい者を雇用したことが転機となり、それまで、“儲けること”を会社の使命として追求していた社長でしたが、障がいのある社員が不器用ながらも言われたことを愚直に、真摯に取り組む姿を目の当たりにし、「儲けることよりも大切なことがある」との思いを強くし、そこから、「福利厚生プロジェクト」をトップダウンで実施、長期休暇制度、完全週休2日制度、食堂の設置・無料ランチサービスといった、社員が気持ちよく過ごせるための制度や環境を一つひとつ整備していきました。
また、2003年には「50名の障がい者を雇用する」という目標を掲げ、2007年には18名、2009年には41名と拡大していきました。もともと社外の福祉施設に委託していた業務を内製化し、障がいのある社員が担当することで、障がい者雇用と業務遂行を両立する仕組みでした。
障がい者とともに働く職場で企業価値向上を果たす
当然ながら、これだけの人数の障がい者を、福祉的観点だけで雇用してきたわけではなく、その背景には、リサイクル業界に求められてきた社会的要請がありました。
十数年前には、厳格な法令遵守の体制こそがリサイクル業者の価値を定める基準となっていました。その基準が次第にリサイクル率の高さに移り、それも多くの業者が達成するようになった現在、リサイクル業に携わる企業の価値を決めるのは環境貢献や社員満足度といったところに移ってきています。
同社では、それを「障がい者雇用率」といった単なる数値としてではなく、障がい者や高齢者とともに働くこと、社員全員が幸せに働くことを通して、自社の企業理念を体現していくことで実践しようとしています。その意味で、障がいのある社員が職場で活躍していることそのものが、企業価値を高める一助となっています。
(1)行動指針の具現化と諸施策の導入による風土改革
経営理念を明確化すると同時に、それまで掲げていた行動指針についても再定義しました。「社員である前にまず一人の人間として社員、取引先、そして地域の方々から敬われ、だれもが分け隔てなく尊重しあえる社風を築いていくこと」を目指し、従来から「品格ある言葉・行動・身だしなみ」と定めていた行動指針をもとに、2008年4月から「SKH運動」に取り組んでいます。Sは名前の「さん」付け運動、Kは敬語の奨励運動、そしてH は品位ある行動とし、役職や障がいの有無にかかわらず、社員誰もが対等な立場で向き合うことのできる会社を目指しました。当初は、社長に対して「さん」付けで呼びかけることに抵抗を持った社員たちも、全社挙げての運動として取り組む中で、徐々に「SKH」のそれぞれが内面化され、コミュニケーションの在り方が変わっていきました。
また、行動指針については「あいさつ」、「お掃除」、「SKH運動」の3点に再定義し、これらを合わせた「あおSORA ACTION!」をスローガンとして大々的に掲げています。常に立ち返るべき社員の規範をわかりやすく明文化したことで、言葉だけでは難しい企業理念の浸透を実現しています。
また、「役職者の振り返りと成長」及び「風通しの良い職場づくり」を実現するため、2010年からは360度評価を実施し、役員と幹部社員全員を対象に直属の部下全員から評価を受ける制度を導入しています。具体的に、「目下の相手とのやり取り」「非常時の頼りがい」「ミスに対する態度」「能力開発への理解」といった、役職者がマネジメントを行っていく上で必要なスキルや能力について明示化し個別にフィードバックを行うことで、幹部社員の能力開発を実施しています。
(2)障がい者とシニアの組み合わせで効率的かつ温かみのある職場へ
障がいのある社員が主に従事する業務としては、パソコンの解体をはじめとする現場作業、車イスの障がい者が主に担う在宅勤務での書類入力作業、さらに2008年からは就業の場を広げるべく洗車装置を導入し、障がいのある学生の職場実習も受け入れています。
同社の行う通信機器などのリサイクル業務は、パソコンやサーバ、携帯電話などの廃棄といった、セキュリティに配慮すべき作業が多く、特に、大量のパソコンの廃棄を実施するに当たり、廃棄処分したハードディスクの枚数などを正確にカウントする必要がありますが、ここで特に知的障がいのある社員の正確性が発揮されています。ハードディスクの紛失は情報漏えいに直結する問題となるため、納入した数と廃棄した数を確実に一致させて作業を終わらせていきます。
また、実際の作業現場では、作業に熟練したシニア社員を指導役につけています。朝礼から清掃、解体作業まで一緒に過ごす中で、プライベートの話なども打ち明けられる関係を築いています。人生経験の豊富なシニア社員がまるで祖父母のように障がいのある社員の手助けをする中で、職場だけでなく生活面でのケアまでサポートできるようになっています。
(3)障がい者へのサポートを拡充するため就労継続支援A型事業所と協働
2003年から本格的に開始した障がい者雇用は同社に定着し、2012年4月には53名、障害者雇用率は20%を達成しました。それまで、社員が障がい者の生活面まで踏み込んだケアなども担当していましたが、人数が増えるにしたがって徐々に十分なサポートが難しくなってきました。そこで、同社は就労継続支援A型事業所一般社団法人ワークワーク(以下「ワークワーク」)と協働し、障がい者の能力を最大限に伸ばせるような手厚いサポートを実現すべく、経験豊富な専門職員たちを配置しました。
同社に在籍していた障がい者の社員は、ワークワークの設立をきっかけに、7名を除いてワークワークへ転籍となりました。その際には、後見人と一緒に1人ずつ面談を行い、従来よりも充実した作業環境と生活サポート体制を整備することを丁寧に説明し、給与水準も下がらないように設定しました。
現在の業務は、同社からワークワークに委託し、ワークワークの社員が同社の作業を行っています。業務内容や作業場所についても基本的に転籍前と変わりません。
また、専門職員の持つ合理的配慮の視点から、作業場の随所に工夫がなされるようになりました。たとえば、解体の過程で部品を分別する際に、うさぎや羊など視覚的にわかりやすいマークで判別できるようにしたことで、作業効率が格段に向上しています。
(1)障がい者、シニアが戦力として「リサイクル率100%」に向け貢献、事業拡大へ
前述のように、障がい者の解体作業効率の高さ、セキュリティ情報廃棄作業における正確性、確実性が、同社に対する顧客からの信頼性向上につながり、継続的な受注につながっています。パソコンや携帯電話の手解体の作業に熟練することにより、健常者では20分程度かかる作業であっても5分ほどでこなす障がい者もいます。こうして、時間的な効率性だけでなく、きめ細かに手解体を実施する中で、同社の目指す「リサイクル率100%」に大きく貢献し、現在ではリサイクル率97%にまで達しています。
それによって、素材の付加価値を高め、収益性の向上にもつながっています。現在では東大阪の本社以外に、東京、奈良の拠点を中心にリサイクルセンターを新設するなど事業の拡大を図っています。
(2)様々な風土改革の取組により社員満足度が向上、人材獲得にも成功
障がいのある社員の働きやすい職場環境を整備していく中で、障がいの有無や年齢にかかわらず、全ての社員が互いを配慮し合いながら働くことのできる企業風土が構築されてきています。「従業員満足度調査」の結果も、2009年度には満足度が58.5%であったものが2014年度には76.7%にまで向上しており、トップの強い意志による企業理念や行動指針の具現化が功を奏してきたと言えます。
また実際に、障がいのある社員の元気さ、ひたむきさといったものが、全社に影響し、活気の溢れる職場へと変化する中で、近年では大学や大学院卒の新卒採用で環境事業に関心を持つ優秀な人材を採用することが可能になっています。新入社員でも、同社の風通しの良さや職場環境の良さに惹かれて入社した者が多く、企業としての更なる躍進につながっています。
エリア限定の拠点長職の新設や男性社員の育休取得100% の推進などを通じて、女性活躍への取組を加速
日本生命保険相互会社(以下「同社」)は、2012年度開始の3か年経営計画『みらい創造プロジェクト』において、「真に最大・最優、信頼度抜群の生命保険会社に成る」という目標を掲げました。
「最大・最優のサービス」「最大・最優の健全性」「最大・最優の人財」を計画遂行に向けた柱と位置付け、「人財」の育成には「多様な創意を活かす『闊達な社風』の醸成」が必要であると明記しています。同社では、第2次世界大戦後まもない時期から女性が営業の分野で活躍しており、現在社員の約9割を女性が占めています。女性活躍の歴史は長いですが、その大半は営業職であり、本部の企画や開発などはほぼ男性社員のみが担っていました。
このような状況を変えるべく、社内体制としては2008年に、女性活躍推進とワーク・ライフ・バランス推進を主たるミッションとする「輝き推進室」を設置し、本格的な取組に着手しました。同室では、両立支援制度の充実と制度の理解浸透(2008年度)、女性社員の職務領域拡大と男女含めたワーク・ライフ・バランスの理解浸透(2009年度から2011年度)と段階的に取組を行っており、2012年から2014年にかけては「みらい創造プロジェクト」を契機として、「女性活躍推進」を経営戦略と位置付け、取組を加速しました。
2013年2月には、「ポジティブ・アクション宣言」を行い、同社の女性活躍推進の目指す姿として「女性の職域拡大」「女性の能力開発」「女性の継続就業支援」「職場風土の改善」を明言しました。2014年7月には「女性の管理職登用に関する行動計画」を策定、公表しました。
(1)若手・女性社員による社内横断プロジェクト「みらい創造提案活動」
2012年より、「みらい創造プロジェクト」の一環として「みらい創造提案活動」がスタートしました。若手社員と女性社員を中心に希望者を募って、10名程度の社内横断のプロジェクトチームを結成し、新たな商品の開発や社内の課題解決につながる斬新な提案を引き出そうという取組です。
2012年度は41のプロジェクトチームが結成され、523名(男性316名・女性207名)が参加、2013年度には58チーム、689名(男性368名・女性321名)が参加、2年間で50以上の提案が実現し、現在も検討を続けている案件もあります。実現したプロジェクトの例としては、女性プロジェクトチームが提案した保険の付帯サービスである「育児相談ほっとライン」(後述)や、社内公募の講師による学校での保険教育などがあります。
(2)「拠点管理職」の新設による営業職の職域拡大
全国の営業部を統括する拠点長職は、従来は全国転勤が前提のポストであったことから大半が男性社員でしたが、同社では2010年に拠点長職制度を改正し、非転居の「拠点管理職」を新設。非転居のままでもキャリアアップできる制度とし、営業部に多数勤務する女性の営業社員が拠点長職を目指すことができるようになりました。その結果、女性の拠点長数は2010年の192名から2014年には280名と登用が進んでいます。
2013年度からは中長期での女性の営業管理職候補の育成を企図し、所属長の推薦により選抜された女性社員を対象に本部にて「きらめき塾」を開催、管理職登用に向けた動機づけや管理職としてのマインド醸成のためのプログラムを実施し、併せて役員からの激励なども行っています。
なお、営業職出身の女性拠点長については、更なる機能発揮に向けて、本部が主催する定期的なスキルアップ研修にて法人対応やパソコンスキルなどの向上を図っています。
(3)男性社員・管理職の意識改革を狙った「男性の育児休業取得100%の推進」
輝き推進室は、「パパママランチ交流会」などを通じて、子どもを持つ男性社員が忙しいながらも育児に参加したいと考えていることを知り、「イクメンハンドブック」などを作成し情報提供を行ってきました。このような取組を通じて、女性が働くことに対する男性社員の理解促進を図っていましたが、男性社員の育児休業の取得率は他社に比較して依然として低いままでした。そこで同社は、目標として「男性の育児休業取得100%」を打ち出しました。男性社員の育児参加を通じ、効率的な働き方を促し、女性社員の働き方への理解を深め、女性活躍推進を進める風土を醸成することが目的でした。
男女共同参画基本計画では、2020年における男性の育児休業取得率の成果目標を13%としていますが、同社ではわかりやすく明確な目標として、「100%」取得を目指しました。同社では、子どもの出生日から満1歳6か月到達日の翌日以降、最初に訪れる3月31日までを、育児休業を取得可能な期間としています。育児休業の最初の7日間は有給休暇扱いとし、まずは1 週間の育休を全員が取得することを奨励しました。
経営層は取得促進に向けて継続的なメッセージを発信、人事部は対象となる社員と所属長が立てた育休取得計画を個別にフォローし、輝き推進室では取得者の体験談「イクメンの星」を社内サイトで発信するといった全社をあげた取組の結果、2013年度は対象となる279名全員(2014年3月31日で育休取得期限を迎える男性社員)が育休を取得、取得率100%(平均取得日数5.2日)を達成しました。
(1)女性プロジェクトチーム発案の「育児相談ほっとライン」の成功
「みらい創造提案活動」のなかで、子どもを持つ女性のみから構成されるプロジェクトチームが、育児相談サービスを保険商品に付帯することを提案しました。子どもの具合が悪くなったときに相談できる相手が欲しい。子どもは時間に関係なく体調を崩す。女性社員たちは自らの経験から、特に小さな子どものいる家庭では、24時間対応の育児相談サービスに対するニーズが高いことを訴えました。
2013年、「育児相談ほっとライン」を付帯した学資保険が発売され、発売初年度の販売件数は10万件を突破しました。育児相談サービスは他社にないサービスであり、他社商品に対する差別化要因にもなっています。
「みらい創造提案活動」で組成されるプロジェクトチームは、1年間で活動を終了し解散しますが、最終的な提案の内容を役員や部長に向けて発表します。若手社員や女性社員にとって、企画から提案までの一連の活動を体験できる貴重な機会となっており、提案内容は社内イントラネットにも掲載され、全社員がアクセスできます。提案の中には、各部門に引き継がれ実現するものもあり、その提案に携わったメンバーが、その部門への異動を申し出るケースもみられるようにもなりました。また、社内ネットワークの構築の機会としても役立っています。
同社ではこのような提案活動を継続することで、今後も、斬新な発想を商品開発や経営に活かし、社員に新しいキャリアの道筋を示していく方針です。
(2)非転居の拠点管理職の登用により、営業部のマネジメントも多様化
非転居の営業出身者が拠点長に就くことで、担当地域における豊富な経験を活かし、地域内の顧客の特徴などを部下に積極的に共有することもでき、また自身の経験を活かして、営業職の社員に対して支援や指導を行うといったきめ細かなマネジメントが可能となりました。また、支社には14程度の営業部があり、支社の方針などは拠点長が議論して決めますが、女性拠点長が登用されることで拠点長のマネジメントの視点・スタイルなども多様化し、議論が活性化するきっかけとなった。2013年度の拠点管理職における女性比率は79.7%です。
なお、2013年度の拠点長業績遂行状況は、男性拠点長に比し、女性拠点長がより高い目標達成率を実現し、全体を牽引している状況です。
(3)男性の育休取得が業務の効率化・職場の活性化につながる
男性社員が育休を取得することで、子どもを持つ女性社員に対する理解が進んだことに加え、休暇を取得するために、業務内容を改めて見直したことで効率化が図られ、今まで1人で抱えていた業務の周囲への分担、部下への委譲も進みました。
特に多忙で休みづらい拠点長が、まとまった休暇を取得したことによる効果は大きく、拠点長が育休を取得した際には、事前にローテーションを組んで、支社や他の営業部から交代で応援に来るという、支社をあげての支援体制をとりました。普段接することのないほかの営業部の拠点長や次長、時には支社長が訪れることは職場の活性化につながり、管理職にとっても他の営業部のマネジメントに触れる貴重な機会となりました。
近畿経済産業局 地域経済部 産業人材政策課
電話:06-6966‐6013