トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 平成28年 4月号 企業・地域の取組紹介
最終更新日:令和5年4月3日
経済産業省では、ローカル・アベノミクスの一環として地域経済の底上げを図るため、地域の中核企業(注)が行う新分野・新事業進出に向けたプロジェクトを推進し、地域産業の裾野拡大及び新たな成長産業群の創出・育成を目指す取組を行っています。
今回、兵庫県加西地域の中核企業、伊東電機株式会社の本社を訪問しました。
同社の事業について、近畿経済産業局が昨年度支援した省エネ・低炭素型植物工場事業を中心にご紹介します。
(注)地域中核企業とは、域外(海外、国内他地域)から稼ぎ、域内に取引や雇用を多くもたらす、地域の中小・中堅企業のことです。
伊東電機株式会社(伊東 一夫社長)は、1946年、三洋電機発祥の地である兵庫県加西市においてイトウ電機工業所として創業されました。小型モータの専門メーカーとしてスタート、翌年から三洋電機のモータ、発電機等の修理仕事を引き受け、その後、協力工場となり、掃除機用モータ等の製造を行ってきました。
1975年にその後の同社の根幹事業となるローラ内部にモータと減速ギヤを内蔵したローラコンベヤ用のAC(交流)電源用モータローラ「パワーモーラ」を世界で初めて開発・販売、国内家電メーカーのビデオ生産ラインなどで採用されました。その後、10年の歳月を掛け、DC(直流)電源用モータローラをコンピュータ制御用として開発、北米市場で「MDR(Motor Driven Roller)」と規格化され、1996年に日本の約20倍の郵便物を仕分けする米国郵便公社(USPS)に採用、大量の注文を受けるなど評価を得ました。
海外展開では、1987年に当時の中小企業としては稀であるフランスに合弁会社イトウデンキヨーロッパS.A.を設立し、進出、現在では日本国内に加え、米国・ヨーロッパ・アジアの世界4拠点で販売ネットワークを構築し、海外売上が50%のグローバル企業として展開されています。
三洋電機撤退後は兵庫県加西地域のコネクタ・ハブ企業的存在で、本年2016年2月1日、創業70周年を迎えられました。
パワーモーラを搭載したコンベヤは次のような特長を持っています。
同社は、モータ技術・制御技術を基軸に、パワーモーラや制御基板のコンポーネンツからユニット・モジュールへと領域を広げ、ファクトリーオートメーション(工場自動化)、ロジスティクスオートメーション(物流自動化)の分野で成長されてきました。
さらに、独自技術を活かし、この2つの分野を含め、4つの分野(FA、LA、HA、AA)で事業展開されています。HAはホームオートメーション((一般)家庭分野の自動化)でカーテン巻上げ装置などです。AAはアグリカルチャーオートメーション(農業・園芸分野の自動化)で怪我防止の仕組みを取り入れた安全性に配慮した草刈り機が代表的なものです。
このAA分野では将来性が見込まれる植物工場事業に参入されています。きっかけは、大阪府立大学が2010年、経済産業省、農林水産省から国内唯一の完全人工光型植物工場の研究開発拠点として採択されたことです。約100社に及ぶ企業とコンソーシアムを組み、研究開発や実証を行うことになり、同社も参加されました。
2014年8月、大阪府立大学中百舌鳥キャンパス内に完全人工光型「新世代植物工場」が開設されました。世界初の苗診断ロボットや、LED光源の全面的な採用、国内初となる自走式搬送ロボットなど最新技術を導入し、レタスを日産5,000株生産する大規模な植物工場です。
同社のモータ技術・制御技術が自走式搬送ロボット「id Shuttle」に活かされ、開発納入されました。
また、同社はこの植物工場でのレタスの栽培から販売までの運営を大阪府立大学から受託し、子会社として株式会社グリーンクロックスを設立し、取り組むことになりました。栽培されたレタスは安定納品に加え、食感と味のバリエーション、無農薬で安心であることから、大阪市内の高級ホテルからも高い評価を得ています。スーパーなど小売店向けには大阪府立大学発の野菜にちなんで「学園菜」のブランド名で販売しています。
植物工場は、狭い土地で品質一定の野菜を効率的・安定的に生産することを目指すものです。民間の調査会社による国内植物工場の野菜生産額予測では2015年400億円が、10年後の2025年には3倍以上の1500億円に達すると予想されています。しかし、経営実態は工場の施設・設備費や栽培光照射・空調の電気代などのコストが高く、それに比べ生産が安定せず、200社弱と言われる参入事業者の75%以上が赤字経営に陥っている状況です。
同社は、植物工場のこうした状況を打開すべく、独自のモータ技術・制御技術と大阪府立大学植物工場での栽培・販売の運営ノウハウを活かしながら、電気代、エネルギーコストを50%削減する省エネ・低炭素型植物工場設備(「セル式モジュール型植物工場」)の開発に取組むことになりました。
この植物工場は、これまでの植物工場が持つ工場全体の空調・栽培光照射による低効率をセル式により、栽培環境を縮小化し、照射・空調コストを低減し、また、あらかじめ工場で作った設備を設置現場で組み立てるモジュール型により、施設・設備費も大幅な削減を目指すものです。本年5月には加西市内の工場で大型の検証機を稼働させ、実証実験を行い、その成果を基に販売を行っていく予定です。
セル式モジュール型植物工場は、目的に合わせ、全自動型、半自動型、手動型の3タイプを販売していく予定です。
全自動型は、都市部の地下溝など遊休施設で人の手を借りず、大規模に栽培する場合などに対応するものです。まさに育苗から、栽培まで自動化で行うものです。本年3月11日、千葉県が現在利用されていない幕張新都心拡大地区共同溝の有効活用のために募集した植物工場設備運営事業者に採択され、全自動型の実証、その後、本格栽培を行うことに決まりました。
一方、手動型は栽培トレーの搬送などは人手で行うものであり、農業経験を有する方であれば、少ない初期投資で事業を開始することが出来るものです。
日本では少子化で人口が減っていますが、世界的には増加を続けており、一方で農村人口は減少し、高齢化が進んでいます。この点は日本も同じです。食料生産は今後、大きな問題になることが予想されます。
日本国内では2010年以降、閉鎖した工場などの遊休施設を活用して大手メーカーが参入するなど植物工場の数は飛躍的に増加しました。しかし、黒字経営が出来ていない事業者が大半です。
当社が事業化を進めるセル式モジュール型植物工場は、生産コストのうち、30%弱を占めるとされる電気代を半減し、初期の設備費も大幅に抑えることを目指すものです。この革新的植物工場を広めることで日本の植物工場事業を採算が取れるビジネスにしていく、高齢の農業従事者でも作業が可能なので農村地域の活性化にも貢献したい。また、この事業を当社の新たな柱とすることにより、地域内に仕事と雇用をもたらしたいと考えています。
近畿経済産業局 資源エネルギー環境部 環境・資源循環経済課
電話:06-6966-6018