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サービス産業の生産性向上に向けて
「平成27年度サービス産業事業者の生産性向上に係る課題及び解決事例調査」概要
担当課室:クリエイティブ産業ユニット

最終更新日:平成28年5月2日

はじめに

 日本のGDPの約7割を占めるサービス産業は、「無形性」、「同時性」等の性質を有し、製造業に比して生産性が低いと言われています。人口減少・高齢化に伴う労働力不足が顕著となる中、日本経済の更なる振興と地方創生には、サービス産業事業者の生産性向上が喫緊の課題となっており、「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」の中では、「サービス産業の活性化・生産性の向上」を重要な施策と位置付け、サービス産業の労働生産性の伸び率を2020年までに2.0%(2013年:0.8%)とすることをKPI(目標の達成度を評価するための評価指標)に掲げています。

 近畿経済産業局では、「平成27年度サービス産業事業者の生産性向上に係る課題及び解決事例調査」(以下「本調査」)を実施し、各種統計、企業データ分析等により、サービス産業の生産性向上に向けて取り組むべき課題の把握と今後の施策の方向性について検討を行いました。

産業規模(事業従事者シェア)と労働生産性(中分類)

産業規模(事業従事者シェア)と労働生産性(中分類)
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生産性についての整理

生産性(労働生産性)の定義

 本調査では、1年間の事業活動で得られた付加価値額と、従業者数を用いて以下のように労働生産性を定義しています。

労働生産性(円/人)={(付加価値額(円))/(従業者数(人))

生産性の構造についての整理

 各事業者の労働生産性は、一般に付加価値額の増大と投入労働力の減少の効果により決定されますが、労働生産性の決定にあたっては、周辺地域における消費者の集積や供給者間の競合状況、地理的特性、施策等によって、域内の事業者が共通して影響を受ける要素が存在すると考えられます。

 また、各事業者を取り巻く経営環境は、業種ごとに事業構造や社会経済情勢から受ける影響が異なるため、事業者の生産性は、業種による特性の影響を受けると考えられます。

  これらの状況を踏まえ、本調査では、事業者の生産性を「業種特性(業種ごとの全国平均値)」に加えて、「面的生産性(地域効果)」と、「個別生産性(個別事業者の努力効果)」によって構成されるものであると整理しました。


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調査方法

 本調査では、上記に基づき、生産性の構成要素である「業種特性」、「面的生産性」、「個別生産性」の3要素に対する影響要因のうち以下に示すものを対象として分析を実施しました。


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調査結果

業種特性についての分析結果

 第一に、業種ごとの特性を明らかにするために、統計データを用いて、業種特性の分析を行いました。以下にその概要を示します。

業種特性の分析結果概要(中分類)


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面的生産性(地域効果)についての分析結果

 第二に、面的生産性(地域効果)に影響を与える要素として、人口密度と生産性の関係を分析しました。多くの業種は、人口密度と生産性に正の関係があることが見てとれますが、一方で、「製造業」、「情報通信業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「医療,福祉」、「複合サービス業」等は生産性と人口密度の相関が低くなっています。つまりこれらの業種では、生産性は人口の集積に影響を受けにくいため、過疎化が進んだ地域においても生産性を維持、向上する余地が高いと考えられます。

 また、以下のグラフにおいて、エラーバー(誤差範囲)の大きさは生産性の地域間のばらつきを示しており、生産性のばらつきの大きさは業種間で大きく異なっていることが分かります。ばらつきが大きい業種ほど格差が大きく、生産性を向上させる余地が高いと考えられます。

人口密度と労働生産性の関係(大分類、全市区町村)


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(資料)総務省「平成24年経済センサス-活動調査」(生産性データ)、総務省「平成22年国勢調査」(人口データ)、国土交通省国土地理院「平成25年全国都道府県市区町村別面積調」(面積データ)より作成。

個別生産性(個別事業者の努力効果)についての分析結果

  第三に、平成24年経済センサス-事業所統計の個票データ(卸売業・小売業)を用いて、「事業者間の生産性のばらつきの把握」「生産性が高い事業所の特性の分析」を実施し、個別生産性の分析を行いました。

事業所の生産性格差の分析

  平成24年経済センサス-事業所統計の個票データ(卸売業・小売業)を用いて業種ごとに生産性の分布を確認すると、業種により分布の形状(生産性の平均値、生産性のばらつき)が異なることが確認でました。生産性の分布が正規分布に近い業種もあれば、生産性が低い事業所に偏重する業種もあります。

卸売業・小売業の生産性の分布(中分類)


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(資料)総務省「平成24年経済センサス-活動調査」 個票データより作成。

(注) 縦軸は事業所数。枠外の数字は、全事業所データのうち、労働生産性が-500~2,000万円/人の範囲に収まるデータの割合。

生産性に影響を与える要因の分析

  平成24年経済センサス-事業所統計の個票データ(卸売業・小売業)を用いて「営業時間」「事業所規模」「非正規雇用比率」「事業所開設からの経過年数」「設備投資の有無」「売上高に占める電子商取引の割合」の各項目と事業所別の生産性との関係性の分析を行いました。以下、例として事業所規模についての分析結果を示します。

  事業所規模と生産性の関係を確認すると、事業所規模が小さくなるにつれ生産性が低くなる傾向が見られる業種がある一方で、一定の規模以上では生産性の逓増がない、あるいは逆の傾向がみられる業種もあります。事業所規模が一定程度まで生産性に寄与するが、さらなる高生産性を達成するには、事業所規模の効果だけでない取組が必要になることを示唆していると言えます。

生産性と事業所規模の関係(中分類)


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(資料)総務省「平成24年経済センサス-活動調査」 個票データより作成。

(注) 横軸: 生産性の低い方から事業所を25%ずつA、B、C、Dの4グループに分けた。

サービス産業の生産性向上に向けて

サービス産業の生産性向上に向けた新たな施策展開の必要性

  我が国において、サービス産業のGDP、就業者のシェアは7割以上と大きく、活力ある日本経済、地域経済を作り上げていくには、サービス産業の活性化が不可欠です。一方、国内の人口はすでに減少局面に転じており、人手に依存するところが大きいサービス産業においては、生産性の向上が他の産業以上に重要となります。

  限られた政策資源で従前以上の生産性向上を実現するには、これまでの支援施策の実施に加えて、新たな視点での施策の展開が求められます。本調査では、大きく以下の2点を今後取り組むべき施策の方向性として提案しています。

個別事業者・業種特性に対する施策展開

  本調査では、商業統計(卸売業・小売業の全事業所)個票データを用いて事業所の生産性を分析した結果、業種によって生産性の平均値、ばらつきが異なることが確認されました。理論上、業種内における企業間の生産性の格差(ばらつき)が大きいほど、低生産性企業の生産性を向上させた場合に、その底上げ効果が大きくなります。

  またサービス産業全体の労働生産性の引き上げについては、より生産性が低く規模(従業員数、企業数、付加価値額総額等)が大きい業種の生産性を改善することが、サービス産業全体の生産性向上に寄与する余地が大きいと考えられます。

  このように、個別生産性や業種特性の改善にあたっては、より詳細なデータ分析に基づくきめ細かい施策展開や政策資源投入対象の絞り込みが有用と考えられます。

「面的生産性」の改善に着目した施策展開

  統計データ分析結果からは、人口密度と生産性に相関が高い業種と、相関の低い業種の存在が明らかになりました。生産性が地域の人口密度に依存しない業種(相関の低い業種)の事業者による事業活動の存続・拡充は、過疎化が進行する地域や、今後の人口減少局面において面的生産性の向上に寄与する要素と考えられます。

  またヒアリング調査からは、当該事業者の事業活動が、他の事業者の生産性の向上や、地域全体の生産性の向上に資する事業者の存在が明らかになりました。特に、新たな事業者間取引関係構築により地域内全体の生産性を改善する事業者の取組のような、自社の生産性を高めながら、地域全体の生産性向上に裨益する事業活動の推進は、政策資源の投入先として高い効果を期待できると考えられます。

関連施策へのリンク

平成27年度「サービス産業事業者の生産性向上に係る課題及び解決事例調査」報告書

このページに関するお問い合わせ先

近畿経済産業局 産業部 クリエイティブ産業ユニット

電話:06-6966-6053

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