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最終更新日:平成28年9月1日
近畿経済産業局では、次世代のバイオマス素材として注目されているCNF(セルロースナノファイバー)の実用化を図るため、2014年12月に「部素材産業-CNF研究会」を発足し、不織布、プラスチック、ゴム関連企業等を中心に、CNFとの複合化による新素材開発を目的とした企業連携体の組成支援に取り組んでおり、本プロジェクトにおいて、CNF原料メーカーである第一工業製薬株式会社をCNFの実用化により地域を牽引する「中核企業」と位置づけて支援しています。
第一工業製薬株式会社は、創業100年を越える老舗の化学メーカーであり、京都に集積する化学工業関連企業の中でも、界面活性剤をはじめ高分子材料、ウレタン材料、樹脂薬剤などの幅広い化学薬剤、添加剤の開発、販売における業界のリーディングカンパニーです。同社は1960年に日本ではじめて溶媒法によるCMC※1の製造販売を開始するなど、長年に亘るセルロース及びその誘導体の開発による高い技術力を有していたことから、セルロース応用技術を活かした取組として、CNF研究の世界的権威の一人である東京大学の磯貝明教授が開発した「TEMPO酸化CNF※2」の研究開発に取り組み、CNFからなる新規増粘剤※3「レオクリスタ」の製品化に成功しました。
※1:カルボキシメチルセルロースの略称。
※2:TEMPO触媒によるセルロースの化学変性方法。
※3:液体の粘性を高めるために配合する添加剤。
レオクリスタは、セルロースに特殊な化学処理を行い、繊維幅10 nm以下のセルロースが透明性を保ったまま、水中で安定して分散する従来にない増粘剤です。その特徴としては、天然由来であることは勿論、高い乳化・分散安定性を有するとともに、金箔のようなサイズ、密度ともに大きい固体の沈殿を防止するユニークな特性や、高いチクソ性(静置時は高粘度のゲル状でありながら流動時には低粘度となる性質)を有しているため、化粧品への展開が期待されています。
さらに、レオクリスタの高いチクソ性を活かして、三菱鉛筆株式会社との共同開発により、CNFを複合化した世界初のゲルインクボールペンの製品化に成功しています。本ボールペンは、「速書きでもかすれず、なめらかな書き心地」の2つの機能を合わせ持った画期的なボールペンとして、国内外で大変人気があるとともに、今年5月開催された「伊勢志摩サミット」において、G7首脳・代表団をはじめとした世界各国のサミット来訪者へものづくり日本をPRする広報ツールとして採用されるなど、大きな注目を集めています。
同社は、2013年度の経済産業省先端省エネルギー等部素材開発事業を活用して、新潟県にレオクリスタの実証設備を建設し、サンプル製造、販売を展開してきました。2016 年4月に「レオクリスタ事業部」を立ち上げ、レオクリスタの本格的な量産に向けた体制整備を進めています。
また、2015年度から環境省のCNF活用リチウムイオン二次電池の性能評価プロジェクトに取り組むとともに、当局の進める「部素材産業-CNF研究会」の支援の中では、レオクリスタの技術を活かしたファインセラミック部材製造の新規バインダー・成形助剤の開発に取り組んでおり、京都市内のセラミック関連企業が多数参画する「京都セラミックフォーラム(40社)」の会員企業を中心とした製品展開をはじめ、新規高機能増粘剤として化粧品や電子材料、農業関連薬剤、日用雑貨、塗料、不織布、プラスチック等の分野へ幅広い用途展開を積極的に進めています。
CNFは炭素繊維に変わる新たな素材として世界的にも注目されており、研究開発においては日本がリードしてきましたが、近年、米国やカナダ、北欧諸国などの追い上げにより、世界的に開発競争が激化しています。
我が国がCNFの実用化で世界をリードするためには、同社のレオクリスタの応用技術を幅広い用途に展開し、今後次々と世界初となるCNF複合化製品を世に出していくことが期待されています。
近畿経済産業局 産業部 製造産業課
電話:06-6966-6022