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最終更新日:平成28年11月1日
伝統的工芸品の産地では、技術・技法や魅力を次の世代へと繋いでいくために、様々な後継者育成の活動をしています。今回、錫器事業協同組合が大学での特別講義と製作体験を通じて、若者が伝統的工芸品に興味を持ち、願わくば作り手になってもらう地道な求人活動の取組と大阪錫器株式会社の若手人材育成の取組を紹介します。
10月のさわやかな秋晴れの中、大阪芸術大学の建物の中に入ると、カンカンカン!という音が響き渡っていました。金鎚や木槌で錫を叩き、皆、思い思いの作品を作っているところです。
これは、錫器事業協同組合が大阪芸術大学の、主に工芸学科の学生を対象に、伝統的工芸品や錫器について知ってもらい、実際に自分で皿等の錫器を製作することで、もの作りの良さ、手作りの良さを知ってもらう製作体験でのひとコマです。
製作体験の様子
製作体験をしている学生は皆、目を輝かせ、本当に楽しそうに自分たちの作品を製作しています。製作体験に参加している学生に話を聞いてみました。
4回生のSさんは2回生の時にもこの製作体験に参加し、前回は時間が足りずに作ることができなかった「ぐいのみ」を今年は作ろうと参加したそうです。将来は見てもらうだけではなく、触っても楽しめる金属作品を製作したいとの夢がありますが、生活の面、道具、材料、場所の確保、両親の老後等を考えると不安でいっぱいだそうです。
3回生のKさんも1回生の時にもこの製作体験に参加し、今年は「タンブラー」を作っている最中です。大学の授業では錫を原材料とすることがないそうですが、前回の製作体験で錫の風合い、加工のしやすさ、様々な表現ができるという可能性の面から錫に興味を持ち、今回も参加したとのことです。将来は教職免許を取得し、母校の高校で工芸を教え、もの作りの楽しさを子ども達に伝えたいそうです。
大阪芸術大学の講師助手をしているIさんは、ご自身も同大学在席中にこの製作体験に参加したことで、錫器に魅了され、卒業後に大阪錫器株式会社に就職された経験をお持ちです。今は大学で学生を指導するようになり、もっと伝統的工芸品について皆に知ってもらい、伝統的工芸品に対する世間の認知度を高めることが必要なのではないか、また、伝統的工芸品の作り手も時代にあったものを作りだし、世間から注目されることによって生活の心配がないようになれば若者が伝統的工芸品の世界に入りやすいのでは、と率直に語ってくれました。
製作体験に参加した学生の作品。まだ製作途中ですが、なかなか味のあるタンブラーです。
同組合では、今回訪問した大阪芸術大学以外にも神戸芸術工科大学、大阪市立工芸高等学校、百貨店での催事等様々な場所で製作体験を行っています。今井達昌理事長は自社の事業活動で多忙な日々を送りつつも、熱心にこの製作体験を行っています。
組合の理事長が経営する大阪錫器株式会社では、錫器を作りたいという若者を毎年、数名採用しており、会社内には若い職人が多数います。その中には前月号で御紹介した京都伝統工芸大学校の出身者もいます。
Tさんは、同大学校で錫を扱う機会があり、そのことがきっかけで錫に興味を持ち、自分から大阪錫器株式会社にアプローチし、働くようになったとのことです。同じくNさんは、同大学校で見た求人票がきっかけでした。
大阪錫器株式会社では、若手でもやりたい事にチャレンジすることができ、Tさん、Nさんをはじめとした若手従業員が、自分でデザインした錫器を作る等様々なことにチャレンジしています。そういった若手従業員が生み出した新しい商品は「Touche-a-Tout」(仏語で「半人前」という意味)というブランドで商品化されています。「若者が色々なことをしてくれるから、この会社が発展していける。止まることなく、色々なことにチャレンジをすることによって、世間から注目され、若者が錫器をやってみたいと思ってくれる。」と、これらの活動は社長のお墨付きです。
様々な製作体験を通して、伝統的工芸品に触れるきっかけを作り、興味を持った若者を自社で育てていく、そのような地道な求人活動が多くの産地にも広がることを期待しています。
近畿経済産業局 産業製造産業課
電話:06-6966-6022