トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 12月号企業紹介
最終更新日:平成28年12月1日
本コーナーは、「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業大臣表彰)の平成27年度受賞案件の中から、近畿管内の企業を毎月取り上げており、今月はベストプラクティス集から伊藤忠商事株式会社の取組を紹介します。
※ダイバーシティ経営とは「女性、障がい者、外国人、高齢者など、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のことです。
「男性主体の長時間労働」から世界で通用する効率的な働き方への大変革で強靭な企業組織へ転換
伊藤忠商事株式会社(以下「同社」)は1858年に創業、1949年に設立された総合商社であり、現在、世界65か国に約130の拠点を持っています。
グローバル競争が激化する中で、安定した収益が期待できる生活消費関連を中心とした非資源分野を強みとして成長してきました。総合商社として市場の多様なニーズに的確に対応し、新規ビジネスや付加価値の創造を継続的に行っていくためには「組織としての多様性」が不可欠であるとの認識を持ち、「I TOCHU Values(伊藤忠の価値観)」にも5つの柱の1つとして「多様性」を掲げています。
一方、ビジネスのグローバル化が進む中で、海外の顧客との信頼関係を築き、継続的に高い利益を上げ続けるためには、これまでのような日本人男性を中心とした“時間制限なしの働き方”では通用しないというトップの強い危機感がありました。「人材」が最大の経営資源であるはずですが、中長期的なキャリアを見通せずに総合職女性や外国人社員が離職するケースも少なくなく、「最小限の時間で最大限の効果を得られるビジネス」を社員一人ひとりが徹底して考える組織風土へ変革する必要性に迫られていました。
そこで「個の力」を最大限発揮させることを目的に、働き方、ビジネスにおける思考、姿勢そのものを変革するための強制力として、トップの強い意思のもと「朝型勤務」への転換を図りました。これは単なる労働時間の短縮ではなく、日々締切の決められた中で最大のパフォーマンスを上げるという労働生産性の向上を目的とするものでもありました。元々同社では、1999年に成果主義型人事制度を導入、職能から職務職責・成果による評価制度へ変革したことで、より個人の実績や能力が評価される仕組みになっていましたが、成果に至るまでの「プロセス」については各現場、各個人に委ねられ、結果として業界慣行に倣い長時間労働が蔓延していました。2000年代初頭からは子育てとの両立支援施策も拡充させてきましたが、制度だけでなくこうした働き方変革を実現させることで、持続的なキャリアパスを提示し、優秀な社員のリテンションに繋げることも狙いの一つでした。
同社は2003年に「人材多様化推進計画」を策定して以降、性別・国籍・年齢にとらわれず多様な人材の数の拡大、定着・活躍支援を推進してきました。現在は特に女性の活躍支援に注力し、一律の制度適用に加え個別支援強化策として「げん(現場)・こ(個別)・つ(繋がり)改革」を中期経営計画の人事政策に掲げています。
とりわけ、女性総合職の活躍推進については、制度の運用面を会社がフォローする取組を強化しています。例えば、2012年からは、若手女性総合職(4年目、8年目)を対象にキャリアワークショップを開催、部門を超えてロールモデルを全社で共有する意図で、子育てをしながら駐在を経験した先輩女性との座談会などを実施しています。
一方、女性総合職もキャリア形成に重要な駐在をスムーズに経験できるよう、2013年に女性社員の「子女のみ帯同」、および育児補助目的での母親の短期帯同を認め、旅費を会社負担とする制度を導入するなど、従来の制度の不具合を見直しながら、よりキャリアアップにつながるような制度運用・改訂を行っています。
また、同時にマネジメント改革の一環として、キャリアビジョンシートとキャリアビジョン面談を活用し始めました。特に育休からの復帰者に対しては、2012年より人事部が間に入り本人と上司との復職前三者面談を実施しています。それ以前も復職前面談は実施していましたが、双方遠慮して肝心のキャリアについて踏み込んだ議論ができない傾向があることが分かり、人事部が敢えて“聞きにくいこと”を引き出す役割を引き受け、“ライフ”を勘案しながら部下のキャリア構築や育成、指導を考えるきっかけを上司の側に提示しています。これにより、その後の面談では遠慮なく円滑にコミュニケーションをとることが可能になったとの声が現場から上がっています。
こうして、総合職に占める女性比率は、計画策定当初の2003年の1.8%から8.9%まで増加、女性管理職比率も、同0.01%から直近で5.2%まで増加しています。
一方、2000年代半ばより女性総合職が増加したことを背景に、これまでは男性社会であったいわゆる重厚長大の分野にも女性が配属されるようになりました。顧客や競合他社も男性ばかりの中、若手の女性社員を「担当」として紹介すると、顧客から不審がられることも少なからずありました。
そうした顧客の不安感や懸念を払拭する必要もあり、従来は“ツーカー”で進められたビジネスも、通常以上に丁寧なフォローや確認作業を徹底することで、かえって顧客からの評価が高まるケースも出てきました。マネジメントが、若手社員個々の能力や特徴を見極め、それを顧客対応に際して活かしきるよう的確なサポートを実施したことで、新たな活躍の可能性が広がってきています。
同社が2013年から開始し始めた「朝型勤務」への改革は、9:00から17:15の勤務を基本とした上で、20:00以降の勤務は原則禁止、深夜勤務(22:00から5:00)は禁止とするものです。
20:00以降の勤務が必要な場合は翌朝の勤務に切り替える必要があり、半年間のトライアルを経て2014年5月から正式導入されました。早朝勤務には深夜勤務と同様の割増賃金を支給することとし、またインセンティブとして朝の軽食無料配布を実施しています。
当初、この「朝型勤務」について現場の部課長に説明がなされた時点では、「不可能だ」との声が多数ありました。とりわけ、海外の拠点や顧客と頻繁にコミュニケーションをとる業務では早朝や深夜の会議も珍しくなく、「仕事にならない」との懸念も示されました。
しかしながら、強いトップダウンのもと、各組織の工夫の中で解決が図られています。また、管理・評価面でも様々な取組を実施しました。入退館情報の管理システムの改修により、翌日には入退館情報を関係部署と共有できるようにするとともに、予算超過達成などの業績に基づき表彰していた「優良組織認定」において、特に顕著な実績をあげた組織を表彰する「特別優良組織」の評価項目に朝型勤務の徹底や残業時間削減を組み込みました。さらにマネジメント力の一環として個人業績に反映させることも検討しています。
また、接待など夜の会食は「1次会、夜10時まで」とする「110運動」を推進、顧客とのコミュニケーションをより濃密に進める工夫を全社として促進しました。
これらの取組により、朝型勤務の実施前と比較し、トライアル期間中に入退館状況の改善(22時以降退館 約10% ⇒ほぼ0%)、月平均の時間外勤務時間の10% 削減(総合職で約50時間弱⇒ 46時間、事務職で約30時間弱⇒ 26時間)、コスト4%削減(早朝割増賃金、軽食無料配布含む)といった実績を上げました。
現在も継続して改善が図られており、着実に働き方の変革に繋がってきています。
「朝型勤務」では軽食が提供される
朝型勤務の実施をきっかけに、「終わりの時間を意識する」ことで集中力がアップし、業務の軽重を判断し、優先順位を付けて業務に取り組む意識が向上しています。例えば、ある欧米の企業と取引のある営業部署では、「朝型勤務」の取組が始まってから業務のプロセスの見直しを進めた結果、「労多くして功少なし」型の過去の契約形態を、サービスの質は下げずに少ない労力で対応できる内容に見直し、中長期的に無理なく確実に利益を上げられる契約へ切り替えるといったビジネスの変革が行われ、収益性が高まる事例が出てきています。
ほかにも、退社時間が早まったことで、自社の取扱い商品の置いてある店舗に立ち寄り、商品への反応や売れ筋を確認し、翌日には取引先メーカーの担当者にフィードバックできるようになったという例もあります。こうした現場の行動の変化は、トップの目指す「現場主義」「お客様目線」を体現している事例となっています。
こうして生産性の向上への意識づけからビジネスのスタイルの変革まで進む中、2013年度から2年連続で連結純利益3,000億円を超え、2015年度は初の総合商社首位となりました。
また、長時間労働が不可避と思われた業界において、働き方改革の成功事例を提示したことで、政府やメディアからの注目度も上がるだけでなく、女性総合職の意識も変化し、意識調査では「伊藤忠商事では効率的・機能的な経営が行われている」(+20ポイント)、「会社は仕事と私生活をバランスできるようサポートしてくれる」(+6ポイント)といった項目で改善が見られ、働き方改革が社員の満足度を高め、仕事への意識を高めることにもつながっています。
E!KANSAI ダイバーシティ経営企業100選 事例紹介 シリーズ
近畿経済産業局 地域経済部 産業人材政策課
電話:06-6966-6013