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最終更新日:平成29年1月4日
本コーナーは、「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業大臣表彰)の平成27年度受賞案件の中から、近畿管内の企業を毎月取り上げており、今月はベストプラクティス集から株式会社堀場製作所の取組を紹介します。
※ダイバーシティ経営とは「女性、障がい者、外国人、高齢者など、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のことです。
現場発の「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」が、社員の“おもい”を経営層につなぎ、全社的な意識改革に成功
株式会社堀場製作所(以下「同社」)は1945年創業、自動車の排ガス、大気、水質、医用、半導体製造装置用の測定装置の製造販売事業を展開しています。
創業者が京都大学在学中に立ち上げた学生ベンチャー「堀場無線研究所」を前身とする同社は、社是「おもしろおかしく」にみられるように、「成果を出すためには、仕事を心からおもしろいと感じ、仕事も遊びも一生懸命取り組むべきである」という創業者の“おもい”を受け継いできました。
90年代より海外企業の買収が進み、グループに外国人が増加し、グローバルに事業展開を行う中で、国内・海外グループ企業からなる異文化の社員同士が融合、理念を共有し、一人ひとりが「One Company」を形成していく必要が生じました。このため2007年、「HORIBA Brand Book」を6か国語で発行し、全世界のグループ社員が携帯しています。2009年には、国内グループ4社を対象とし体系的・継続的な「Off JT」を行う社内大学「ホリバカレッジ」を開校しました。
さらに、それまでグループの執行役員は同社より輩出していましたが、海外グループを束ねつつ国内のマネジメントも行う24時間体制となると、人数的にも同社男性幹部だけでは限界があったことから、2009年にはグループより3名の外国人が、2014年より女性が執行役員に加わっています。
「HORIBA ステンドグラス・プロジェクト」は、2014年発足しました。
もともとは育児中の女性社員が、マネージャーへの昇格研修である「マネジメントスクール」にて「ダイバーシティ」を会社への提案題材に選んだことがきっかけでした。同社では、育休制度、短時間勤務といった様々な配慮は社として整備しており、出産・育児で退職する女性社員はほぼゼロ、現場でも活躍する女性が増加していましたが、意思決定層における女性の割合など数として表れていませんでした。研修を通じて同社員は「女性活躍が進まないのは、男性管理職の意識に加えて、女性社員自身にも“無意識の壁”、いわゆる“ガラスの天井”を自分自身の中に設けてしまうという課題がある」とし、プロジェクトの立上げを提言しました。マネージャー就任後、早速同社員がリーダーとなりプロジェクトがスタート。国内グループ会社を対象とし、副社長をトップに役員2名、部門を横断した現場メンバー22名、サポート要員として管理職16名で構成、人事メンバーも参加しています。現場メンバーはマネージャー前後の職階の社員で、半数は女性が占めています。各部門からの指名制で、将来的にグループを率いていくことが期待されるメンバーが任命されました。
女性社員が管理職昇進を固辞する背景には、愛社精神があるからこそ、ライフイベントでキャリアを中断することや、突発的な欠勤・短時間勤務などにより、会社に迷惑をかけたくないという思いがあるという声も初めて経営層に届きました。プロジェクトでは、“無意識の壁”に阻まれる女性社員に、仕事も家事も育児も完璧にこなす“スーパーウーマン”でなくともキャリアアップは可能であると意識付けることを最初の目標としました。
「HORIBA ステンドグラス・プロジェクト」のメンバーは、前述の例のように現場の社員の“おもい”を丹念に拾い、役員や管理職との密な対話を通じて施策につなげる仕組みを構築しました。時間単位の有休取得の制度化も、社員の声を反映したものです。同時に、副社長・役員による外国人社員との食事会などを開催したことにより、外国人社員からも「アパートの保証人が必要」「先輩・後輩などの日本の習慣を教育に取り入れてほしい」といった要望のほか、「日本の企業はキャリアパスが長く不透明である」といった課題を収集することができるようになりました。
現場密着型の「HORIBA ステンドグラス・プロジェクト」
意識啓発のためのセミナー、イベントも精力的に開催しています。
男性管理職を対象とした、「女性社員の本当の“おもい”」への理解促進のためのセミナーのほか、「女性キャリア」、「育児・介護」などをテーマとした社内ワークショップや講演会、さらには社外動向に触れ、キャリア形成やチームマネジメントを考えるための社外講演会・セミナー・交流会への参加も根気強く呼び掛けています。
2年目となる2015年は、女性の活躍のための意識啓発のみならず、全社的に長時間労働が常態化し残業時間や有休取得率に無頓着となってしまっていた状況の変革に取り組みました。育児中で残業のできない社員たちから、「17時から会議が開催され、参加できない」という声が上がったり、役員からも「17時から仕事をするためのコーヒーブレイクが当たり前の風景ではいけない」といった問題提起があり、多様な社員の活躍を推進するには、時間に対する意識改革も必要という認識に至ったためです。
こうした状況からの脱却を目指し、部長・室長クラスを対象に、自部門での独自の取組の検討・宣言を促すべく、一日型の研修を実施しました。
中でも、デザインや宣伝、Web サイト構築などを担当するコーポレートコミュニケーション室(以下「CCO」)の取組は好事例となりました。
CCOは、もともと“職人的”な部署であり、入社以降退職まで当該部署で勤め上げる社員も多かったのですが、2010年に国内グループ4社の同職種担当者を集約した「シェアドサービス」の導入をきっかけに、多様な考え方やスキルを取り入れることの重要性を認識しました。以後、戦略的に部門間ローテーションを進めたほか、中途採用も実施したことで、室員のほとんどが複数の部門や多様な職種の経験者となりました。また、1987年には女性海外研修生第一号社員を輩出するといった土壌もあり、現在、部署の半数以上となった女性たちの現場ニーズを大切にした仕事ぶりや丁寧なコミュニケーション、時間厳守の徹底した仕事ぶりなどによって能力が評価されています。
またCCOでも長時間労働が常態化する中、現室長は、プロジェクトからの働きかけをきっかけに、毎週1日以上の定時退社、年間5日以上の有休取得を実現した社員には、賞与が加算される仕組みを構築しました。これらを実施するにあたり室長は、自身がシングルファザー時代に公私共に苦労した時に、業務の棚卸により効率化を図り定時退社を実現した経験を公開しました。また、取組をきっかけに、同様の悩みを抱える社員のために自らメンターを買って出ています。
これらの結果、CCOでは早く業務を終わらせようという気運が次第に高まり、週1日以上の定時退社は室員の70%以上が達成しました。有休取得についても、4日の有休取得にとどまった1名を除く全員が年間5日の有休を取得しています。これには、子育て中の女性社員が多いことも手伝って、彼女たちの高いセルフマネジメントの意識が男性社員に好影響を及ぼしたという側面もあります。
室長は次の成果をROI(投資利益率)向上に定め、CCOを「バーチャルカンパニー」に見立ててROI10%以上を目標に掲げています。社内の他部署やグループ会社を顧客と捉え、業務に仮想価格を設定し、部内の工数やアウトソースによるキャッシュアウトから部署収支の可視化に着手しています。
プロダクトやグラフィックデザインでは5名のうち3名が女性で、他社製品にはない家電のようなソフトなデザインが好評を博し、「グッドデザイン賞」「機械工業デザイン賞」「ドイツiFProduct Design Award」「German Design Award」など、国内外デザイン賞も複数受賞するようになりました。顧客から「最後はデザインが気に入り、HORIBA 製品を選ぶことが増えた」と言われています。
プロジェクトのメンバーも務める業務改革推進部の女性社員は、プロジェクトに参画したことがきっかけとなり、自らのキャリアを積極的に切り開いています。結婚後まもなく海外グループへの基幹システム導入のためのフランスへの7か月間の常駐業務を自ら必要と感じて受諾し、一つのプログラムのリーダーとしてグローバルのメンバーを牽引。想定以上の成果を出しました。経営戦略本部の女性社員は出産後、「自分の能力を最大限発揮できるのは在宅勤務の形態である」として会社と交渉し、同制度導入に貢献しました。現在も在宅勤務の形態でフレキシブルに出社時間を調整し、pHメーター事業でグローバルメンバーを牽引する活躍ぶりです。サービス部門では、これまで女性社員は現場のサービスマンからのコールに対応するなどの補助業務を担当してきたが、現在では工学系の新卒女性社員を採用し、顧客の現場で自社製品のメンテナンスを行うエンジニアとして育成する取組を開始しています。
こうした中、女性管理職比率も2007年の1.5%から2015年には4.6%に上昇しました。その7割がワーキングマザーであり、仕事と家庭を両立するケースが増加しつつあります。
海外グループとの人事部門間におけるダイバーシティ情報交換の促進も進んでいます。当初、海外の先行事例の収集が目的だったものの、反対に日本の取組が参考とされるケースも生じています。
「HORIBA ステンドグラス・プロジェクト」もその一つです。
今後「プロジェクト」は、「働き方改革」などの取組を、より現場の実情に即したものとすべく、部門ごとに主体的に検討し、実効性の高い改革案を常に提案できる文化になるように進めていきたいと考えています。同時に、このダイバーシティの活動を、「おもしろおかしく」と合わせて同社の「哲学」として掲げ、グローバルにも展開していく予定です。
E!KANSAI ダイバーシティ経営企業100選 事例紹介 シリーズ
近畿経済産業局 地域経済部 産業人材政策課
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