トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 2月号特集
最終更新日:平成29年2月1日
グローバル経済においては、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)の活用により、ビジネスや社会の在り方そのものを根底から揺るがすドイツの「インダストリー4.0」と呼ばれる大変革が進みつつあり、我が国では、アベノミクスの第2ステージとして、これらの社会産業構造変革への対応を「新時代への挑戦」と位置づけて積極的に推進しています。
また、IoT等の導入はものづくり現場に大きな変革をもたらすことが期待されていますが、このような変化をチャンスと捉えて、スピード感ある大胆な挑戦に踏み切るかどうかが、これからの勝敗を分ける重要な鍵となってきます。
しかしながら、我が国製造業におけるIT・データの利活用は、諸外国に比べて決して進んでいるとは言えません。例えば、ビジネスにおけるビッグデータの活用状況を日米で比較したアンケート調査によれば、米国企業は90%以上がビッグデータを「利用している」と回答した一方、日本企業は70%以上が「聞いたことがない、よく知らない」「検討したが、利用していない」と回答しています(図1)。これはプラスチック業界においても同様であり、製造プロセスにおけるIT・データの利活用が進んでいない状況です。
そこで、プラスチック業界のIoT導入を進めるために実施している「プラスチック業界におけるデータフォーマットの共通化及びシステムオープン化実証事業」について、その取組と今後の方向性について紹介します。
図1 ビックデータの活用状況に関するアンケート調査
プラスチック加工メーカーの多くは、メーカーの異なる複数の成形機を用いて製造しています。高精度な製品の製造には、成形条件情報(成形機のシリンダー温度、射出速度、計量時間等)の把握、収集、活用が重要となりますが、成形機のデータフォーマットが成形機メーカー毎に異なるため、プラスチック加工メーカーでは情報を統合して一括管理することができず、プラスチック加工メーカーの多くは、膨大な成形条件情報を手書きするなどして必要最小限の活用にとどまり、それらの貴重な情報をビッグデータとして活用できていませんでした(図2)。
図2 プラスチック業界における現状課題と「Middleware」による生産関連情報の集約化
そこで、近畿経済産業局、(一社)西日本プラスチック製品工業協会、ムラテック情報システム㈱の3者が、平成28年度「IoT推進のための社会システム推進事業」を活用し、成形機メーカー5社(住友重機械工業㈱、東洋機械金属㈱、日精樹脂工業㈱、㈱日本製鋼所、ファナック㈱)及びオブザーバーとして(一社)日本産業機械工業会、周辺機器メーカー、生産管理システムメーカーが横断的に参加し、グローバル基準の規格「EUROMAP63」に準拠した成形機のデータフォーマットの共通化、そのデータを統合するシステム「Middleware」の開発及びシステムの無償提供による、IoT導入拡大を図る事業に取り組んでいます(図3)。
図3 IoT導入事業における関係図
本事業では、成形条件情報のメーカー横断的な共通化を図るために、欧州プラスチック機械工業会及び米国プラスチック産業協会が業界の推奨標準として策定した、成形条件情報に関するグローバル基準である「EUROMAP63」を採用しています。
「EUROMAP63」では、1.成形機との通信コマンド(命令、手順)、2.データを呼び出すトークン(成形条件項目の内容)が規定されており、1.については網羅的に規定されていますが、2.については標準トークンの規定のみで、それ以外の項目は使用者独自で自由に設定できる仕様となっています。
このため、今回の「Middleware」の開発においては、「EUROMAP63」の標準トークンに加え、プラスチック加工メーカーが必要とする項目を共通追加トークンとして取りまとめ、各々の情報が取り出せるよう利用者の利便性を高める工夫をしています(図4)。
「Middleware」を導入することにより、「EUROMAP63」に準拠した成形機から得られる成形条件情報を一括して把握・収集することが可能となるだけではなく、当該情報はデータベースに蓄積され、他のシステムと連動することによって、品質・生産管理やトラブルの予知保全等、様々な活用が可能となります。
図4 「EUROMAP63」の規定内容とデータフォーマットの共通化内容
「EUROMAP63」によりメーカー横断的に成形条件情報が共通化され、Middlewareにより自動収集、記録、活用できるようになれば、プラスチック加工メーカー及び成形機メーカー等において、以下のような波及効果及び活用方法が期待されます(図5)。
図5 IoT 導入による中長期的な波及効果
写真1 関連業界懇談会(西プラ主催)
本事業の主体である(一社)西日本プラスチック製品工業協会は、同協会内に「IoT特別部会」を設置し、プラスチック加工メーカー及び成形機メーカーによる建設的な意見交換を行っています。
また、2016年9月9日に大阪で開催された「平成28年度関連業界懇談会」では、『IoTへの取り組み』をテーマとして、我が国のIoTの政策的な流れ、本事業の概要及び企業による先進的なIoT事例を紹介し、プラスチック関連企業に対するIoT導入の普及啓発に努めるなど、プラスチック業界全体としてIoT導入に積極的に取り組んでいます。
プラスチック業界のIoT導入事業が、昨年の総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 第17回省エネルギー小委員会(2016.6.21)において、「新たな省エネ政策の方向性の中の取組事例」の一つにあげられました。
これを受けて、現在、同小委員会の「工場等判断基準ワーキンググループ」において、プラスチック業界のIoT導入事業を、先進的な省エネ手段の一つとして位置づけ、このような取組を省エネ法の告示に追加することにより、IoTの活用による省エネ促進や産業高度化の取組を政策的に後押しする検討が進められています。
近畿経済産業局製造産業課では、関西のものづくりの国際競争力の強化を図るため、関西での集積が高く、また、幅広い産業分野での波及効果が期待される「部素材産業」を対象とした「近畿地域における部素材産業支援事業」に取り組んでおり、平成26年度から「不織布産業」、「プラスチック産業」、「ゴム」をモデルとして、次世代の産業を担う新素材開発への挑戦やIoTなどの先進的なシステム導入によるものづくり現場の支援などを展開しています。
今回のプラスチック業界へのIoT導入支援事業は、この「部素材産業支援」の取組の1つとして展開しているものですが、近畿経済産業局としては、プラスチック業界との連携により、本事業で開発した「Middleware」の幅広い活用の普及や(一社)日本産業機械工業会との連携による業界標準化などの体制構築を進めるとともに、IoTの活用による省エネ促進や産業高度化支援に積極的に取り組んでいきます。
近畿経済産業局 産業部 製造産業課
電話:06-6966-6022