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最終更新日:平成29年5月1日
関西経済が持続的な成長を続けていくためには、GDPの約75%を占めるサービス産業の生産性向上が不可欠となっています。
なかでも、サービス産業分野におけるIT利活用は、業務の効率化、付加価値の向上に資することから、産業界から大きな関心を寄せられています。
そこで、近畿経済産業局では、平成28年度にIT等を活用した食関連サービス事業者の生産性向上に関する調査を実施しました。調査では、関西に強みがある一方で、サービス産業の中で労働生産性が最も低いとされる食関連サービスを対象に、アンケート・ヒアリングによりIT等の利活用の実態を把握するとともに、その有効性について検証しました。
飲食サービス業の従業員1人当たりの付加価値額(労働生産性)は165万円で、全業種の中で最も低いとされています。
サービス業で生産性向上を目指すためには、従業員1人あたりの生産性を上げることが必要です。「サービスの生産性」とは、以下の図で示される式で表すことができます。すなわち、サービスの生産性を向上させるためには、「効率の向上(時間や行程の短縮等)」を行うか、「付加価値の向上(提供するサービスの価値を増大させる等)」、もしくは「革新ビジネスの創出」をすることが必要となります。また、AIやロボット、IoTを利用することにより、効率の向上及び付加価値の向上の双方に経営改善の好循環を及ぼすことが可能となります。
アンケート調査(アンケート対象:食関連サービス事業者115社)の結果においては、食関連サービス事業者の約4割がIT等を活用したサービスを導入したいができていない状況にあることが分かりました。その要因としては、ITを活用できる能力の高い人材が不足していることや、ITを使ったサービスの情報・知識不足、システム開発・提供会社と導入事業者が求めるサービスのミスマッチが挙げられました。
他方で、IT等を活用したサービスの導入により、売上や労働生産性が向上したとする声も多く、今後導入が進めば食関連サービスの業界において大きな経済波及効果が生まれるものと期待されます。
アンケート及びヒアリング調査を通じて発掘した先進事例を3つ紹介します。
ベーカリー「パリーネ 大阪狭山店」では、パン自動認識システム「BakeryScan」を導入しました。BakeryScanは、トレイ上の複数のパンの種類と値段をカメラで一括認識することができます。また、登録したパンが他のパンの形状と似ていても、AI技術を用いて繰り返し学習することで精度が上がり、間違えることが少なくなります。新人スタッフでもパンの種類と価格を覚える必要がなく、即戦力になります。
BakeryScan導入前は、顧客から「パンの袋詰め作業をするスタッフが現金も扱うのは不衛生だ」という声があり、解決方法が見つからず困っていました。BakeryScanの導入に合わせ、顧客自身が精算機に代金を投入する「セミセルフスタイル」のレジを採用することで、顧客が機械で現金を精算する間、スタッフはパンの袋詰め作業に専念することができるようになりました。スタッフが直接現金に触れることがなくなり、衛生面を気にする顧客の声にも対応することができ、顧客満足度の向上にもつながっています。
ドクター・オブ・ジ・アース株式会社では、産地直送野菜の卸売業を展開しています。元来産地直送の野菜は、確実な日時に小ロットの注文をしたい飲食店と、出荷時期の確定が難しいが大ロットで出荷したい生産者との間でミスマッチが起こっていました。「のら産直システム」では、同社の社員が実際に食べて「おいしい!」と思った野菜を作るこだわりの野菜生産者約3000名のネットワークの中から、飲食店等が産直野菜を小ロットから容易に発注できる仕組みをつくり、効率の向上を図りました。
また、同社は実店舗を所有する青果店でもあることから、生産者に対し、野菜1つ1つに値段設定などをアドバイスするなど、アナログでのコミュニケーションを大事にしていることも、大きな特徴です。今では、固定ファンがつき、販売後すぐに完売する農家も続出しています。
ロイヤルクリスタルカフェ銀座では、Bluetoothを活用したキューブ型コールベル「ヌードー」を導入したことによって、スタッフの行動の効率化と顧客サービスの向上を実現しました。労働生産性も15%程度増加したそうです。
ヌードーはキューブの5面にそれぞれ「お水」「片付け」「会計」「呼び出し」「次の料理」の文字が書かれています。顧客がヌードーを倒し、伝えたい要求が書かれた面を上に向けることによって、店員のリストバンドにその情報が届きます。通常は顧客から呼ばれて初めて用件を知り、サービス提供の為に一度戻らなければならないところ、店員はリストバンドで何番テーブルが何を欲しているのかをあらかじめ確認することができるため、顧客の待ち時間は約半分になり、顧客満足度の向上にも繋がりました。
産業部サービス産業室
電話:06-6966-6053