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最終更新日:平成29年11月1日
近年、日本だけではなく世界的にブームとなっている抹茶。その抹茶を点てるのに欠かせない道具といえば茶筌です。奈良県生駒市高山町で生産される高山茶筌は全国シェア90%以上を占めています。今回は国の伝統的工芸品でもある高山茶筌の3製造業者を訪問しました。
室町時代中期、高山領主の次男・宗砌が茶道の創始者、村田珠光の依頼によって作ったのが始まりとされ、以来、一子相伝の技としてこの地で伝承されてきました。
茶筌は、小刀で60~200本に細かく割った原竹を、湯の中で温めながら、穂先が徐々に薄くなるように削り、穂を曲げ、穂の両角を1本おきに面取りし、編み上げながら製造します。流派と用途により120種類にのぼる茶筌があり、それぞれに微妙に作り方が異なり、その全てを指先の感覚で作り上げた茶筌は消耗品で、使い使われ醜くなる消耗品でありながらその曲線の美しさに美術品のように目を奪われます。
まず最初に、室町時代中期から一子相伝の技として500年の伝統を引き継いできた竹茗堂24代目当主の久保左文さんを訪ねました。
かつては花嫁修業の一つでもあった茶道ですが、不況、技術の海外移転や女性の社会進出等から茶道人口が減少してきたことにより、高山茶筌の売上も年々減少してきました。
そのような中、伝統をただ守るだけではなく、高山茶筌を産業として継続、さらには発展させるために、パリの「ジャパンエキスポ2014」やニューヨークの「NY NOW 2015」でも茶筌の製作実演等を行うなど海外にも茶筌を広める活動を行っておられます。元々、フランス人をはじめヨーロッパの人々は日本の文化に親しみを感じる傾向にあること、ちょうど抹茶がブームになっていたこともあり、手応えをつかんだといいます。
一方、国内でも新たな取組を始めておられます。皆さんは「茶道」と聞くと「格調高く敷居が高い」というイメージがあるのではないでしょうか。久保さんは茶道を難しいものと思っている人たちが、それ等を払拭しお茶に親しみをもってもらえるように新しい茶筌や茶碗、もっと気軽にお茶を飲むことを提案する商品、例えば抹茶に限らず、コーヒーやココア、ミルクティー等を気軽に楽しく撹拌し泡立てられる柄が長くなった黒竹茶筌マドラー等を提案しています。
久保さんは「種を蒔かないと芽が出ない、花も咲かない。」「色んな所で色んな種を多く蒔き去っていきたい。」とおっしゃっています。現状を嘆いて何もしないのではなく、茶筌を広めるためにこれからも様々なことにチャレンジするという久保さんの思いを心強く感じながら竹茗堂を後にしました。
次に訪れたのは茶筌職人の中で最年少である久保駒吉商店の久保建裕さんです。
久保さんは、先祖代々受け継がれてきた茶筌作りを絶やしたくないという思いでこの世界に足を踏み入れました。茶筌の世界に入ってはや15年ですが、それでも未だ久保さんが最年少です。
高山茶筌の産地組合である奈良県高山茶筌生産協同組合の組合員20名のうち、青年部として活動している若手職人は8名です。伝統的工芸品の産地では後継者不足が課題ですが、ここ高山茶筌の産地も例外ではなく後継者不足が大きな課題です。
茶筌の工程は約8工程あり、1工程を習得するのに2~3年、最初から最後まで製作できるようになるには10~20数年かかります。組合で職人を育てようという話もありました。難しいことが多いようですが、組合の若手職人同士は仲が良く、以前は門外不出だった各家の秘伝の技術を互いに教え合う等により対応しているとのことです。
最近ではSNSやデパートのイベント等で色糸茶筌(通常は黒糸でかがるところを色糸でかがる)といったカラフルな茶筌を紹介し、人気を得ています。人気が出ると生産量を増やす必要がありますが、家族で対応できない分を外注に頼ると品質管理の徹底が難しくなり、簡単には生産量を増やすことができないとのことです。
生産を増やしたくても、人手がない、原料の竹で品質の良いものが少ないといったジレンマを抱えながらも、「竹が茶筌になるところを見るのが嬉しい。」、「茶道文化に携わっていることに誇りを感じ、これからも以前と変わらぬ同じものを作り続けていきたい。」と語ってくれた久保さん。茶筌職人の中では最年少ですが、秘める思いは誰よりも熱いと感じました。
最後に和北堂の谷村丹後さんを訪ねました。
谷村家は江戸時代に徳川幕府によって名字を与えられた茶筌師13家のうち、現存する三家の一つで、代々高山茶筌の秘技を一子相伝で受け継いできました。谷村さんは、サラリーマン、店舗経営等を経験した後、28歳で家業を継ぎ、約10年前に「谷村丹後」の名前を継承されました。職人として茶筌を作るだけではなく、個人事業主としては経営のことも考えないといけないとの考えから、いきなり茶筌の世界に入るのではなく、サラリーマンや店舗経営の時代に経営者の感覚を培ったということです。
谷村さんの工房でも、現状以上に生産しようとすると、原材料となる竹や職人を増やす必要があります。茶筌は、夜間に作り技術流出を防いだ名残から現在でも茶筌作りは夜間に行われるため、あまり作業をしない昼間にお抹茶体験・製作体験や実演を行い、全体の収入をあげる試みを始めました。
2016年にはHPを立ち上げ、外国人観光客にも対応できるように英語のHPも作りました。今では様々な国から観光客が工房を訪れるそうですが、特にヨーロッパの観光客は伝統工芸を尊重する傾向が強いと感じるとのことです。
また、世界的抹茶ブームで抹茶への興味が高まっている中、SNSでも情報発信をしておられます。
それに加えて、奈良県高山茶筌生産協同組合の専務理事でもある谷村さんは、組合が高山竹林園の指定管理者になったことから、それを活用して高山茶筌の知名度を上げる取組も考えておられる等、今後国内外に対して高山茶筌の素晴らしさが発信されていくことに期待が高まります。
年々原材料となる良質の竹が少なくなっている等、簡単には解決できない問題はありますが、今回訪問した事業者は、皆さん個々の取組は違えど、これからも高山茶筌の伝統を未来へと繋いでいこうという思いに変わりはありませんでした。茶筌がもっと身近なものになるように、皆さんも気軽にお茶を点てて飲んでみませんか。
近畿経済産業局 産業部 製造産業課
電話:06-6966-6022