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奈良筆の魅力を伝える
~奈良筆の産地で女性として初めての伝統工芸士訪問~
担当課室:製造産業課

最終更新日:平成30年2月1日

文字を書く道具として形を変えることなく、長い歴史を経てきた筆。今回は奈良筆の産地で女性として初めて伝統工芸士となった田中千代美さんを訪問しました。

田中さんのお店「奈良筆 田中」は、「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産にも登録されている「元興寺」をはじめ数多くの観光スポットが点在する奈良の旧市街地「奈良町」にあります。

田中さんは一人で店を切り盛りされ、店内に入ると大小様々な筆が所狭しと並び、書道の筆以外にも、リップブラシ等の化粧筆も置かれています。

奈良筆の歴史

奈良の筆作りの歴史は今から1200年程前、空海が唐に渡った時に筆作りの方法を極め、日本に帰った後、その技法を大和国の住人に伝えたことにはじまります。江戸時代には多くの職人達が奈良に暮らし、奈良筆を世に送り出し、書家をはじめ様々な人々に愛用されていたと伝えられています。

奈良筆との出会い

店内の様子

店内の様子

伝統工芸の世界では、代々家業としてその技術・技法が継承される傾向にありますが、田中さんは違います。専業主婦として過ごされていましたが、「田中さんの奥さん」と呼ばれることに抵抗を感じ、自分の存在を認めてほしいと、家で出来る仕事を探していた時に、奈良県が実施する工芸品職人の育成事業を知りました。様々ある奈良県の工芸品の中で、筆であれば自分にも出来そうだと思い、そこで1年間学んだことが、奈良筆との関わりの始まりでした。

卒業後は、奈良筆の製造メーカーでパート勤務として約5年間働き、さらに技術を習得した後、自宅で工房を立ち上げました。

奈良筆ができるまで

筆の材料となるリスやイタチの毛

筆の材料となるリスやイタチの毛

分業により作り上げられる伝統的工芸品もありますが、奈良筆は一人の職人が材料の仕入れから筆の仕上げまでを行うことが特徴です。

まず、筆に応じて原料となる十数種類の動物の毛を巧みに組み合わせてより分け、灰でもみ、毛を寄せます。水に浸し、形を作り、混ぜ合わせ、芯を作り、上毛を巻き、それを乾燥させ麻糸で根元を焼き締めて穂首ができあがります。筆軸に穂首を接着し、穂首の形を整えて銘を刻むと完成です。

全部で12の工程がありますが、筆の良し悪しはなんといっても材料となる動物の毛の選別にかかってきます。ヤギ、ウマ、シカ、イタチ、リス等の毛の中から筆匠の目で選び抜いた獣毛のみを入手し、奈良筆を作り上げますが、原料となる毛を用途別に分類し、毛先の良い物を選別する毛組の工程を取得するのには10年かかり、約35年従事している田中さんでさえも、この毛組の作業が一番難しいとおっしゃられています。

奈良筆の魅力を伝えるために

田中千代美さん

田中千代美さん

最近では材料となる獣毛の入手が難しくなる一方で、化学繊維の筆がホームセンターや100円ショップで購入できるようになりました。

書家を中心に高い評価を得ている奈良筆ですが、一般の人々が筆を使う機会は減少し、奈良筆を取り巻く状況は厳しいです。そのような中、田中さんは奈良筆のことを知ってもらうためにホームページを立ち上げ、実演や筆作り体験の活動にも取り組まれています。

最近では、奈良町という観光名所の立地を活かし、旅行会社の体験サイトでも紹介してもらい、観光客に筆作り体験をアピールされています。また、小学校での筆作り体験活動も、他の伝統工芸士の方々と協力して行われています。

田中さんの一番の悩みは、後継者がいないことです。「奈良筆職人になりたい」という問い合わせを受けることもあるそうですが、技術を伝授することができたとしても、奈良筆の現状を考えるとなかなか受け入れることができないそうです。そのような厳しい状況ですが、数多くの人に奈良筆のことを知ってもらい、需要が拡大することで、若い人達が伝統工芸奈良筆の職人として活動していくことができる方法を模索されています。

終わりに

日常生活の中で筆を使う機会は少なくなりましたが、筆による書や絵等には独特の持ち味があります。皆さんも筆で書をしたためてみませんか。

掲載関連情報

企業名
奈良筆 田中
所在地
奈良市公納堂町6
電話番号
090-8483-4018

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近畿経済産業局 産業部 製造産業課

電話:06-6966-6022

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