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最終更新日:令和2年5月1日
電力・自動車・航空機など様々な分野で製品が壊れないよう設計するためには、材料の限界を知るための「材料評価」が必要となります。日本国内初の独立系民間試験会社として、1947年に創業した株式会社神戸工業試験場(以下KMTL) は、これらの材料が一定の基準を満たしているかどうかを、種々の観点から試験して数値化し、解析や評価を行っています。
同社においては現在、海外を含めた産官学との連携による様々な取組を進めており、今回はその取組を紹介します。
日仏政府関係者を交えての記念撮影
経済産業省では、海外の政府や航空機メーカーと覚書を取り交わすなど、航空機分野で海外との関係強化を進めています。近畿経済産業局でも、2020年2月、海外交流ミッションとして、日本企業とともにシンガポール及びマレーシアを訪問し、現地の企業や関係機関と連携に向けた協議を行うなど海外機関との関係構築を進めてきました。
その中で、KMTLと、フランスの国営研究機関Cetimとの間での業務提携が合意に達し、2月12日、シンガポールのエアショーの場で協力合意書の調印式が行われました。この両者の業務提携により、航空機の部品製造に関わる日本のサプライヤーが受けるメリットは非常に大きくなるものと期待されます。
例えば、欧州航空機大手Airbus社や仏航空機エンジン製造大手Safran社はCetimと関係が深いことから、両社との関係が希薄な我が国の航空機産業にとって、CetimとKMTLが接点となることで、欧州系航空機のサプライチェーン参入への可能性が拡大します。
また、欧州系メーカーの品質証明の「認定」取得がこれまで参入障壁となっていましたが、KMTLはCetimからの試験技術の移転を受けることで、Airbus社やSafran社の認定取得を目指しています。実現すれば、日系企業製品の品質証明が日本国内で可能になり、開発・製造のスピードアップにつながります。
更に、現在国内で対応できる試験機関が少なく、国外で行う必要がある歯車(ギア)の耐久性評価試験の技術を、Cetimから神戸工業試験場へ移転させることを検討しています。ギアの評価は、航空機業界のみならずEV化が進む自動車業界や電力業界などからも強いニーズがある試験評価であり、幅広い産業への波及効果が期待されます。
エミック社高見社長(左)とKMTL鶴井社長(右)
KMTLは、関西地区の自動車業界や航空宇宙業界のサプライヤーに向けての振動試験の受託業務拡大を目的として、エミック株式会社と業務提携契約を締結しました。これにより、両社が誇る技術や事業基盤のさらなる強化だけでなく、本提携を通じて協力関係を深化させ、KMTLが得意とする「高温環境下における材料試験」とエミックが得意とする「振動試験」を互いに補完することで持続的な成長を目指します。具体的には、2020年1月にKMTL播磨事業所の敷地内に恒温恒湿槽を組み合わせた振動試験機4台を備える兵庫受託試験センターを開設しました。重電関係の耐震試験、電気自動車関連で増加傾向にある蓄電池の振動試験等に対応するとともに、振動試験後の破面解析等、KMTLが得意とする損傷調査を行い、「なぜその振動で壊れたのか」という顧客ニーズに対しても、ワンストップで答えることが可能となりました。
プラント運転中における配管や圧力容器などの破壊事故の原因究明のためには、破断面の観察が重要で、フラクトグラフィ(破損した物体の破面を観察し、破壊原因や破壊の機構の情報を得る手法)と呼ばれる学問分野で取り扱われます。高度な専門性が求められますが、このような専門性を有する人材不足が産業界において深刻な問題となっています。
一方でAI、特にディープラーニングの研究分野も成熟しつつあり、画像認識の分野などでは非常に高い分類精度を実現しています。このディープラーニングの技術を破断面解析に適用することで、解析初心者へのサポートが可能となり、これらの諸問題を解決するブレークスルーになると考えられます。しかし、このようなシステム構築は多くのデータ量を必要とすることから、KMTLと横浜国立大学、労働安全衛生総合研究所は「フラクトグラフィとディープラーニングの融合研究コンソーシアム(通称FraD)」を立ち上げ、これらの問題解決に取組んでいます。最終的には、破断面画像から起点の方向を推定する機能(起点推定)を追加したAIを、クラウドなどを通じて損傷解析に関わる技術者や研究者に提供することを目指しています。
近畿経済産業局 産業部 製造産業課
電話:06-6966-6022