トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 9・10月号 特集
最終更新日:令和5年4月3日
近畿経済産業局では、平成26年度から「関西スマートエネルギーイニシアティブ」という産官学金の母体を立ち上げ、関西のスマートエネルギービジネスの推進に取り組んでいます。今年度はAIやIoTを活用した地域のレジリエンス強化(災害に強い街づくり)や、来る水素社会の実現に向けた各種支援活動を展開しています。今回は特に、水素社会の実現に向けた当局の取組内容や、関西地域における動きをご紹介します。
水素は、電気を使って水から取り出すこと(電気分解)ができるのは良く知られていますが、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥、廃プラスチックなど、さまざまな資源からも作ることができます。また、燃焼させて熱エネルギーとして利用できるほか、利用の過程でCO2を出さないため、環境にも優しく、エネルギー安全保障とCO2削減を掲げる日本にとって、究極のエネルギー源となる可能性があります。
このような水素をさまざまな分野で利活用していく水素社会を構築するには、クリアすべき課題も多くあります。例えば、海外資源などから水素を大量に調達・利用するための製造・貯蔵・輸送技術や、水素発電技術、あるいはガソリンスタンドのように水素を充填できる「水素ステーション」のインフラネットワークの拡充が必要です。政府においても、「水素基本戦略」や「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、水素社会実現に向けた各種取組を行っています。
近畿経済産業局では、水素関連産業の振興を図るため、国内水素サプライチェーン構築支援事業等に取り組んでいます。具体的には、水素市場のニーズ調査や、シーズ企業の発掘、セミナーや展示会を通じた販路開拓支援を行っています。また、水素を市場へ確実に流通させていくためには、新たな要素技術や用途拡大も必要です。当局では、専門家による助言やあっせんなどを通じて、液化水素移送ポンプシステム開発や国産燃料電池ユニット開発などの具体的な技術開発支援にも力を入れて取り組んでいます。
また、関西地域では、国や様々な企業が、官民あげて実証試験を進めています。その一つとして、オーストラリアにある未利用エネルギーの褐炭から水素を製造し、日本に輸送する大規模な「褐炭水素プロジェクト」が行われています(NEDO助成事業「未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業」)。褐炭から水素を含むガスをつくり、精製・液化した液化水素を液化水素運搬船によって長距離・大量に輸送して、神戸空港島で荷役(揚荷)するという世界初の技術実証であり、低コストでCO2フリーな国際水素サプライチェーンの構築を目指しています。2019年12月11日には、川崎重工業株式会社が製造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式も行われ、技術の確立が益々本格化しています。他にも、神戸市のポートアイランドでは、将来の大規模な「水素発電所」の実現を目指し、水素をエネルギー源として電気と熱を街区供給する実証事業も進められており(NEDO助成事業「ドライ低NOx水素専焼ガスタービン技術開発・実証事業」)、関西地域において水素社会の実現に向けた取組が活発化しています。
世界初の液化水素運搬船
(出典:川崎重工業株式会社)
世界初の水素コジェネレーションシステム
(出典:川崎重工業株式会社)
水素圧縮機
(出典:株式会社加地テック)
水素を国内に供給していくためには、燃料電池車の普及にも欠かせない水素ステーションネットワークの拡充が重要です。国も2030年に国内900箇所設置という目標を掲げています。重要なインフラとなる水素ステーションには、水素を昇圧するためのコンプレッサーや、水素を蓄えておく蓄圧器、水素を冷却するプレクーラー、水素を車に充てんするためのノズルを備えたディスペンサーなど、多くの機器が必要ですが、ここでも優れた技術を有する関西の企業が多く活躍しています。
例えば、水素ガスが鋼材に吸収されると鋼材の強度が低下してしまう水素脆化という困難な課題がありますが、大阪府堺市にある株式会社加地テックは、長年の経験とノウハウ、独自の工夫を重ねながら、数々の水素脆化対策、長寿命対策、ガスリーク低減対策を実施した信頼性の高い圧縮機を製造しており、水素ステーションの普及に大きく貢献しています。
水素ステーションの構成要素
近畿経済産業局 資源エネルギー環境部 カーボンニュートラル推進室
電話:06-6966-6055