トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 2022年5・6月号 企業・地域の取組紹介
最終更新日:令和5年4月3日
近年、企業間におけるオープンイノベーション(以下、OIという)の取組が注目を集めています。近畿経済産業局では、関西に所在する国の支援機関に呼びかけ、社会課題解決に向けたイノベーション創出を支援する組織「関西・共創の森」を創設し、社会課題の解決を目指す企業や大学・研究機関等の技術シーズ・ニーズの発掘から、研究開発、実用化・事業化までの切れ目ない支援を展開しています。
また、経済産業省では、国の認証制度として、低炭素社会実行計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できる「J-クレジット制度(温室効果ガスの排出削減量・吸収量を認証する制度)(※)」の活用を推進しています。
今回、J-クレジット制度を活用した低・脱炭素ソリューション事業を開始した大企業(岩谷産業)と、業界初のサプライチェーン連携が可能なCO2排出量可視化クラウドサービスを展開するスタートアップ企業(ゼロボード)のOIの取組についてご紹介します。
(※)J-クレジット制度とは
省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。本制度により創出されたクレジットは、カーボン・オフセットや財・サービスの高付加価値化など、様々な用途に活用できます。J-クレジット創出者のメリットとしては、ランニングコストの低減、クレジット売却益の活用などが、また、J-クレジット購入者のメリットとしては、環境貢献企業としてのPR、製品・サービスの差別化などが挙げられます。
創業1930年(法人設立1945年)の大阪・東京に本社を置く産業・家庭用ガス専門商社。LPガス、カセットこんろを中心とした総合エネルギー事業と、水素など創業以来の産業ガス事業を基幹として、それらから派生した機械、マテリアル、自然産業など幅広い分野で事業展開。
設立2021年8月24日の東京に本社を置くGHG(※)排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」の開発・提供、ならびに電力や環境価値に関するコンサルティングを提供するスタートアップ企業。2021年9月21日に前身である株式会社A.L.I. Technologiesから「zeroboard」の事業譲渡を受け、サービス運営を開始。
(※)GHGとは
Greenhouse Gasの略称で日本語では温室効果ガスと言います。主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスがあります。
○協業の秘訣は、新たな価値を一緒になって共創していくパートナーシップ型の連携を構築すること
○部署の垣根を取り払った、社長直轄のOI専属組織を設置し、スピード感の早いスタートアップ企業にも対応
○既存の企業文化やビジネスにとらわれることなく、協業によりOIを加速化
○他者にない圧倒的な技術力や商品力が大企業との対等な関係を構築するカギ
○大企業の文化を理解した上で、取り組むことが重要
当社は、創業以来、安心安全を最優先に考え、お客様に絶対の自信をもって商品・サービスを提供するため、自前主義のビジネスモデルを構築してきました。当社の強みはまさにこのビジネスモデルにあったのですが、新たな考えや取組が世界中で急速に広がっていく中で、自前主義だけでは時代のスピードに追いつけず、また他社との差別化も難しくなるなど、企業としての生き残りをかけ、新たなイノベーションを巻き起こす体制づくりが課題としてありました。
そこで、2020年の創業90周年を機に、社長直轄の組織として、異業種・異分野の企業との協業による事業創造と企業価値向上のために「未来創造室」を設置しました。未来創造室は、複数ある既存事業に属さない独立した組織であり、若手中堅社員で構成されています。未来創造室を立ち上げたことで、将来を見据えた新たなテーマや課題に対し、既存事業にとらわれることなく自由な発想で取り組むことができ、かつ社長直轄の迅速な意思決定が可能になったことで、当社のイノベーションが加速化していくことを目指して活動しています。
当社は、2021年8月に設立したスタートアップ企業で、業界初のGHG排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」を強みに、上場企業を中心としたパートナー企業などと連携しながら、企業の脱炭素経営をサポートするサービスとして展開しています。
気候変動が社会に与える影響や、グローバルに推し進められる様々な気候変動対策が今後さらに強化されていくことを考えると、あらゆる企業にとって環境配慮型経営への移行、とりわけCO2排出量削減へ向けた取組は待ったなしの状況になっています。しかし、それらの経営努力をコストとしてしか認識できないのであれば、その活動は持続可能なものにはなり得ません。
当社では、CO2排出量の削減が企業価値の向上につながる仕組みを、さらに生活者を巻き込んだソリューションを展開することで、サステナブルな社会の実現を目指しています。そして実現のためには、多くの企業や自治体、金融機関などの皆様と連携し、ともに成長しイノベーションを起こしていくことが大きなカギになると考えます。
当社では、全国の製造工場にて、油燃料からLPガスやLNGへの燃料転換によるCO2削減の取組を数多く行ってきました。その中で、中小企業では削減したCO2排出量の有効活用、大企業ではCO2排出量の可視化やさらなる削減に向けたソリューションのご要望がありました。そこでこのたび、企業の低・脱炭素経営をトータルサポートする、国のJ-クレジット制度を活用した「Iwatani J-クレジットプロジェクト」の創設、ならびに「CO2排出量の算定・可視化サービス」の協業に向けて株式会社ゼロボードと基本合意を締結しました(2022年1月20日発表)。
本事業の特徴は、当社とゼロボードの強みを持ちより、当社のお客様に対し、それぞれがサービスを提供する、対等な「パートナーシップ型」の連携で取組を進めている点です。
当社が行う「Iwatani J-クレジットプロジェクト」では、加入したお客様が削減したCO2排出量を当社が取りまとめ、J-クレジットの認証申請を行うため、お客様は認証手続きの手間やコストをかけることなく制度に参加できます。CO2削減量に応じて当社のサービスを対価として還元し、余剰のCO2削減量を環境価値にすることで、中小企業などでのCO2削減活動をより一層推進することができます。
世界的な脱炭素化の流れの中、上場企業を中心にCO2排出量の算定・開示は避けて通れないものになりつつあり、中でも、サプライチェーン排出量や商品ごとのカーボンフットプリントは、企業内外の膨大なデータ集計が必要となることから、多くの企業がその算定に課題を抱えていました。そこで当社では、CO2排出量の算定作業など煩雑な仕事を一気に解決するソリューションとして、企業活動やそのサプライチェーン由来のGHG排出量を、国際基準であるGHGプロトコルの分類に基づいて算定・可視化できるクラウドサービス「zeroboard」を2021年9月より開始しました。
今回の岩谷産業との協業をはじめ、事業開始から約半年で上場企業を中心に100社程度の企業とご契約をさせていただいています。
世の中の脱炭素ニーズが高まる中、お客様からカーボン・オフセットに関するクレジットの問合せが多くなっていました。ボランタリークレジットや非化石証書、グリーン電力証書など様々な取組がありますが、当社事業を活用したクレジット創出ができ、かつ「信頼性が高く」、「温対法で活用可能」、「一定の流通量がある」などの利点を有するJ-クレジット制度に着目しました。
中小企業が環境価値提供に協力してもらえるかなどの不安もありましたが、今後の時代の流れから必ず機運は高まってくると考え、取組を進めました。さらに、ゼロボードのCO2排出量の算定・可視化サービスと当社事業を組み合わせることで、より多くのJ-クレジット創出にも繋がると考えました。
産業エネルギー部がJ-クレジット制度を活用した新事業の構想を進めている時、未来創造室では更なる脱炭素関連事業を創れないか情報収集をしていました。着目したのは、脱炭素を進める上でどの企業もまずは自社の排出量を把握する必要があるということでした。ゼロボードの「算定・可視化サービス」は、当社の脱炭素商材と相性が良く、お互いの強みを補完し合い、win-winの関係性構築に繋がると考え、当社がLP(Limited-Partner)出資をしているVC(venture capital)企業に相談をして、ゼロボードをご紹介いただきました。
当社でも岩谷産業のことは前々から知っていました。お声掛けをいただいた時には、岩谷産業との協業を通じて、Scope1(※)の削減ソリューションの拡充、また、当社がまだ進められていなかった中小企業への幅広い展開ができると考え、大きなチャンスであると思いました。
未来創造室としてOIの取組を始めた当初は、スタートアップ企業と連携するにしても、レイターステージにいる企業との連携をイメージしていましたので、設立間もないゼロボードとまさか協業させていただくとは想像もしていませんでした。
なぜ、ここまでスピード感をもって協業にまで至ることができたか、一番大きな要因は、ゼロボードの「算定・可視化サービス」が当社の既存事業と相性が良く、また、渡慶次社長の想いに共感し、一緒に事業に取り組みたいと思えたからでした。
ゼロボードは当社のIwatani J-クレジットプロジェクトをより拡大する、また脱炭素商材の拡販をするうえで、欠かせない存在であり、経営層が「まずはやってみれば良い」と未来創造室の活動を後押ししてくれたことも大きな要因だったと思います。
私(渡慶次氏)自身、元々は大企業の出身で、大企業の意思決定に時間が掛かることはよく分かっていました。そのような中で、当社のようなスタートアップ企業に対し、短期間で基本合意まで進めていただいたことは驚きと感謝しかありません。
一方で、当社のGHG 排出量算定クラウドサービスは、当時は競合他社のいない唯一無二のサービスであり、スタートアップ企業に求められる他社との差別化が明確であったことも強みになったと思います。
まずは、Iwatani J-クレジットプロジェクトをより拡大させると共に、ゼロボードと一緒になって世の中の脱炭素化に貢献していくことです。将来的には、J-クレジットの創出だけにとどまらず、「環境価値」を提供できる低・脱炭素ソリューションビジネスに発展させていきたいと考えています。
当社のOI事業としても、今回の協業は、多くの社員にインパクトを与えたと感じています。目の前の営業活動に取り組むとともに、将来の事業創造や企業価値向上のため、スタートアップ企業との連携が今後の生き残りをかけた大きなカギになると思います。
未来創造室の設置にともない、大阪本町に「交流スペース」を開設しました。今後、外部企業との新事業検討会や当社商品をご愛顧いただいているユーザーを集めた商品開発など様々なイベントを開催し、OIを創出するスペースとして活用していきます。
大企業の中でも、サプライヤーからの排出量がメインとなるScope3の削減ソリューションを拡充していくことが求められています。当社としてはその強化を図っていく予定です。
また、現在は上場企業から展開を進めていますが、今後は、脱炭素ソリューションプロバイダーや自治体、金融機関と連携してエコシステムを構築し、中小企業も巻き込んだ脱炭素社会の実現に向けて加速化させていきたいと考えています。さらに将来的には、地域の家庭にまで当該サービスを展開し、地域脱炭素の実現にも貢献していきたいです。
近畿経済産業局 地域経済部 地域連携推進課
電話:06-6966-6013
近畿経済産業局 資源エネルギー環境部 エネルギー対策課
電話:06-6966-6051