トップページ > 広報誌・E!KANSAI > 2022年9・10月号 企業・地域の取組紹介
最終更新日:令和5年4月3日
2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。近年、SDGsは社会全体で広く知られるようになり、地域においてSDGsの視点を取り入れ、かつ地域の魅力・強みを活かした事業への関心が高まっています。
2025年の大阪・関西万博は「SDGs万博」とも言われています。関西では、2017年12月に、「関西SDGsプラットフォーム」が立ち上がるなど、SDGsの達成に向けて様々なステークホルダーにより取組が進められています。
環境・リサイクル課では、環境及びリサイクル分野においてSDGsの視点を加味し、かつ地域の魅力・強みを活かした自治体等の取組を紹介しています。
第7回目の今回は、地域企業との協業により地域の課題を起点としたビジネスモデルを創出するなど、SDGsの推進にも注力している和歌山県田辺市を紹介します。
田辺市には、古来より里山を守り、身分や性別に関係なく、何人も受け入れてきた熊野の文化がありました。これは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念に合致しています。その理念に基づいて、田辺市の提案した計画は「未来へつながるまち『田辺市』を目指して~1000年をつなぐ熊野の保全と継承~」です。
この計画では、経済、社会、環境の三つの側面をつなぐモデル事業として、「1000年をつなぐ田辺市SDGsプロジェクト」と題し、熊野古道プラスαによる観光振興や、熊野の森を守り育てる仕組みとその担い手づくり、子どもたちへの森林環境教育の推進、「たなべ未来創造塾」など地域課題の解決を通じたビジネスの創出と人材育成の取組等を提案しました。今回、これらの取組が選定されたのは、1000年以上続く熊野の保全と継承をSDGsと捉えた点や、地域の若手人材と都市部の人材が連携し、地域の課題をビジネスで解決していくという手法を特に評価していただけたと考えています。
「SDGs未来都市」選定証授与式(内閣府提供)
「1000年をつなぐ田辺市熊野SDGsプロジェクト」
はい、これまで蓄積した経験・ノウハウも活かし、市民の皆さんからのご協力もいただきながら、特色のある事業を行っています。
その中でも、注力している事業として「たなべ未来創造塾」を紹介します。
これは、真砂(まなご)市長の強いリーダーシップのもと(現在も講師として最前線で活動しています!)、様々な地域課題の解決や、世界遺産「熊野古道」や世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」をはじめとする多くの地域資源の活用に向け、企業の営利活動との共通項を探し出し、本業を活かしてできる地域課題解決型ビジネスモデルの創出並びに地域で活躍する次代のリーダー育成を目指し、2016年に創設したものです。この仕組みは、熊本大学で現在コミュニティビジネスの研究をされている、金岡教授のノウハウを応用したこともあり、田辺市と熊本大学熊本創生推進機構が主催となり、地元金融機関、関係機関等にも参画いただく中で、「産学官金」が一体となった運営体制を構築し、充実した研修カリキュラムが実現しています。
たなべ未来創造塾 運営体制図
また、受講する塾生の属性としては、地元の工務店、料理人、デザイナー、新聞記者など様々であり、垣根を超えて同じ志を持った人々が、協業するきっかけになるなど、まさにイノベーションの苗床になっています。実績としては、1~6期70名の修了生を輩出し、約70.7%(1~5期)に関しては、塾生同士あるいは、市内の様々なステークホルダーを巻き込みながら地域課題を解決する新たなビジネスを創出しています。こうした活動がまさにSDGsの推進なのではないでしょうか。
たなべ未来創造塾 演習の様子
たなべ未来創造塾ホームページ
~木を切らない林業へ~ 林業ベンチャーの新しい山づくり
たなべ未来創造塾には、2期生として参加しました。
森林組合の職員として働いていた際に、息子に「お父さんはいつ遊んでくれるの?」と言われたんです。僕からは「仕事が落ち着いたらね」と答えたんです。すると、息子は「お父さんが働かなくてもいいように、おばあちゃんからお金を借りてくる」と言ったのです。ショックでした。父親は家族のために一生懸命働くものだと思っていましたので。そこで家族との時間を持ちながら、仕事ができる業種が、田辺にはあるのではないかという発想のもと、第一次産業に行き着き2016年に林業で起業しました。
起業後、伐採面積の4割しか植林出来ていない熊野の山の現状を目の当たりにしました。そして、徹底的にリサーチしてたどり着いたのが、耕作放棄地を活用しながら、地域事業者とともに地域のどんぐりを苗木に育て山に還す、「熊野の森再生事業」です。自社・地域事業者が利益を生み出しつつWIN-WINの関係で、山の再生にも寄与する持続可能な事業です。幸い、全国的にも注目をいただきつつあり、田辺発のビジネスモデルとして、今後発信していきたいと思います。
山に植えたどんぐりの苗が木に成長していく様子(中川氏 提供)
また、たなべ未来創造塾で出会った仲間たちと連携して「あかね材(虫食い材)に光を~BokuMokuプロジェクト~」を実施しています(BokuMokuには「素朴な木」という意味が込められています)。
近年、木材価格の低下や林業事業者の減少により、枝打ちがされず、枯れ枝が残ったスギやヒノキに害虫による食害が増加しています。こうした食害された木材は強度や品質に問題はないものの、見た目が悪いことから「あかね材」として安い価格でしか売れず、伐採も進まないという悪循環に陥っています。そのため、たなべ未来創造塾の仲間たちが中心となって、チーム「BokuMoku」を結成し、素材の良さを活かしつつ、付加価値をつけた商品開発に取り組んでいます。
チーム「BokuMoku」もそうですが、たなべ未来創造塾というのは、新たな気付きや人と出会えるようなワクワクする空間です。今後も、塾の仲間たちと連携して、田辺市の地域課題の解決に貢献し、かつSDGsの促進にもつながるような取組を楽しくやっていきたいと考えています。
2期生の中川さんの取組を紹介しましたが、各支援機関様のサポートのおかげもあり、近年、塾生の皆さんが地域への誇りを持って、ローカルイノベーターとして、点から線、そして面へと広がり大きな力となって、ビジネスの視点から地域課題に取り組み、着実に成果を出しています。
(田辺市への移住者が、昨年度98名と過去最高を記録しました。塾生のローカルイノベーターとしての取組が、少なからず貢献していると思います)
このような点を評価いただき、たなべ未来創造塾を核とした田辺市の地方創生は、2021年シティプロモーションアワードで金賞並びに特別賞(人材育成賞)を受賞しました。
シティプロモーションアワード授賞式の様子
(シティプロモーションアワード ホームページより
「熊野古道プラスαによる観光産業の活性化」を紹介します。田辺市にとって、世界遺産である熊野古道が大きな観光コンテンツであり、これまでは熊野古道歩きを目的としたインバウンドが多数訪れていました。しかし、コロナ禍の影響によりインバウンドが激減し、今後新たな客層の開拓が必要となる中、その土地ならではの歴史や文化を楽しむ「低山トラベル」や、紀伊半島の自然資源を活かした新たなツアー造成等に取り組み、観光産業の回復とさらなる活性化を図っていきたいと考えています。また、ポストコロナ、大阪・関西万博を見据え、引き続きインバウンドの再訪に向けた情報発信や、受け入れ環境の整備にも取り組んでいく予定です。
さらに、地域企業と連携した持続可能な社会の創り手づくりの取組として、現在、教育委員会及び田辺市熊野ツーリズムビューローと連携し、従来の熊野古道の歴史や森林に関する学習に、木工体験、植林、間伐等の森林でのフィールドワークといった体験学習を組み合わせた「森林環境教育プログラム」を開発しています。もちろん、プログラムの中では、塾生たちのクリエイティブな取組も巻き込んで行っていく予定です。最初は、市内の小中学校を対象とした学校教育プログラムとして実施していきますが、将来的には、市外の小中学校を対象とした教育旅行として展開するとともに、一般の観光客やインバウンドの方々にも参加いただけるような魅力のあるエコツアーにしていきたいと思います。
世界遺産「熊野古道」で有名な田辺市ですが、豊かな自然がもたらす各種食材も大きな魅力の一つです。そこで「田辺の豊かな食材を活かした食事をしたい!」という皆様からのご希望にお応えするため、田辺観光協会が「紀州田辺のあがら丼」を2007年から始めています。「あがら」とは田辺市などの紀南地方の方言で「私たち」という意味で「当地の旬の食材を使った私たちの自慢の丼」という想いで名付けられました。
また、来年(2023年)3月25日・26日に「第61回全日本花いっぱい田辺大会」が開催されます。花いっぱい運動は、花を通じて社会を美しくすることや人々の気持ちを豊かにすることを理とした運動で、戦後間もない時期に長野県松本市から始まり全国に広がった取組です。
田辺大会では、「花咲かそう!街咲かそう!人咲かそう!」を大会テーマとして、大会2日間で、記念式典や記念植樹、花まつりやステージイベントなど盛りだくさんな内容となっておりますので、是非この機会をお見逃しなく田辺市にお越しいただき、熊野古道、あがら丼も体験しながらご参加ください!
株式会社中川の中川さんが取材の中で「たなべ未来創造塾は、新たな気付きや人と出会えるようなワクワクする空間です。塾生の仲間とは、入学年次の垣根を越えて、いつでも集まることができ、困った時、アイデアが欲しい時は、力を貸してもらっています。」とおっしゃっていたのが印象的でした。
たなべ未来創造塾事務局を担当されている、田辺市たなべ営業室の鍋屋さんから「予算も限られている中、塾生にとって、魅力的でいつでも気軽に立ち寄れるような場になることを目指している」とおっしゃっていましたが、きっと塾生さんにとって、思い切って自らが描いたビジネスモデルにチャレンジできる、頼りがいのあるプラットフォームになっているのではと思いました。
さて、取材日のランチで、あがら丼を頂きました。「当地の旬の食材を使った私たちの自慢の丼」というコンセプトとおり、鮮度の高い食材を使われており、あまりの美味しさに、あっという間に平らげてしまいました(笑)。次回プライベートで訪れた際は、違う種類のあがら丼を是非頂きたいと思います。
お忙しいところ取材に応じていただき、ありがとうございました。
あがら丼(一例)
紀州田辺のあがら丼・あがら飯(田辺市観光協会ホームページ)
和歌山県田辺市 位置図
近畿経済産業局 通商部 国際課ホームページ(関西SDGs貢献チャレンジ)
近畿経済産業局 資源エネルギー環境部 環境・資源循環経済課
電話:06-6966-6018