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ジャカード織のノウハウから、光る織物 次世代自動車に照準
~大喜株式会社~

最終更新日:令和5年3月15日

大喜はジャカード織とコンピュータデザインを駆使して、自動車シート生地の製造を主力に手がける。さまざまな織機を利用するが、多様な柄・色の生地を作るジャカード織のノウハウが自慢だ。独自の織物にアイデアを膨らませ、海外の織機メーカーともコラボレーション。次世代の自動車を想定した発光ジャカード織物「LightWeave(ライトウィーヴ)」を生み出した。
この織物は文字通り、「光る」。どんな市場を創造するかは、なお未知数だが、同社にとっては、これまでなかった自社製品ビジネス。その輝きを見た人の多くが心を動かされる。そして、この取り組みに手を貸す。共鳴の輪が広がる。
海外シフトがすっかり進んだ日本の繊維産業にあって、同社は可能性を発信する。

光ファイバーをヨコ糸に

光る織物はカラミ織りの製法で作る。カラミ織りはねじりの入った2本のタテ糸を交差するように絡ませ、その一つひとつの目にヨコ糸を通し、随所に光ファイバーを使う。カラミ織りで作るのはシンプルな柄で、複雑な柄が出せるジャカード織物と複合しデザイン性を高める。

光を通したライトウィーブ
光を通したライトウィーブ

光ファイバーを通し、少ない数の発光ダイオード(LED)の光源で織物の広い面を光らせる。ただし光ファイバーは生地組織の中に織り込むと、通常は強い応力がかかり、屈曲する。光は直進する性質なので、ファイバー屈曲部で漏れ出る。先にゆくほど光が減衰し、生地の末端まで届かせることはできなかった。これに対し、ねじった糸の交差でできたカラミ織りの目は、ヨコ糸にかかる応力が小さい。光源の光が生地の末端まで届く。
光る織物を作る織機は、タテ糸の開口装置を2個持つ独自設計の仕様。織物組織で光ファイバーを絡ませたり絡ませなかったり、表の面に出したり裏に隠したり。自由度の高い表現ができる。
主な用途と想定するのは自動車の内装。自動車分野は100年に一度の大変化の局面にあるとされる。進む開発の一つが、人工知能(AI)を用いた自動運転だ。この車内空間と運転者、人間の感性との適合性や、次世代の運転シーンをどうデザインするか。一つの試みとして、東京モーターショー2019にてAIを搭載した自動運転+電気自動車が次世代向けコンセプトカーとして発表された。
車内の天井材はライトウィーヴ。自動運転の時はグリーン色、手動運転の時は紫・青と、走行モードに応じて色を変えて知らせた。計器類から目をはなしがちな自動運転で、感覚的な情報伝達を実演してみせた。

システム化、車に展開、新たな織物へ

開発のきっかけは6年ほど前。得意先から「光る織物を作りたい」という言葉を聞いた。初めは首をかしげた山本岳由社長。「次世代カーに使うと知らされ、興味を引かれた」と振り返る。従来にない織物を作りたい。その想いで自分なりに動きだしていたところだった。
山本社長が独自の織物を目指した原点。それは1992年の社長就任時にジャカード織物で必須だった「紋紙(もんがみ)」をコンピュータ化したことだ。先代(父親)が急逝し、急きょ、後を継いだ。資材購入先の会社の営業マンから、紋紙に代わる、新鋭のシステム化のための投資を勧められた。
3000万円の投資。落日ムードの繊維産業。カーテン用の織物を作り、評判はよかったが、受注が細り、借金もあった。「ここで投資すべきか」。先行きの見通しで明るさを見つけるのが難しい日本の繊維産業にあって、迷い、決心はつかなかった。仲のいい従兄弟(いとこ)で先輩の経営者に相談した。「マラソンに例えてアドバイスをくれた。逆風の坂道、みんなが苦しい、そんな時こそ勝負に出るべきだよ、タカ(岳由)ちゃん」。それで決心した。

システム投資には迷いがあったと山本社長
システム投資には迷いがあったと山本社長

大きな織物の仕事では数百万円かかる紋紙のコスト。システム化し、シミュレーションを重ね、試し織りを自在に繰り返せるようになった。自動車シートの関係者から声がかかった。
新しい顧客との仕事が軌道に乗った頃、かねて温めていたアイデア、カラミ織りとジャカード織りを融合する構想に着手した。1台の織機に開口機構を二つ備えて、伸縮性あるカラミ織りと、ジャカード織りを1枚に複合した形で同時に織る。イタリアの織機メーカーを口説き、2011年に特注で1台導入した。
複合の織物がすぐには日の目を見ることはなく、数年たった。そこへ、光る織物の依頼。製法を試行錯誤する中で、特注の織機だとうまくいった。独自の織機を生かす時がきた。ただ最初の開発機は、量産に不安定さもあった。地元の福井県工業技術センターに相談し、所有する目新しいドイツ製の織機をテストした。
テストはうまくいった。課題の解決策が見つかった。これを受け、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)に申請し、採択を得た。ドイツのメーカーに新方式の織機を特注し、2018年にこれを稼働。光る織物を世に送り出した。

ライトウィーブ誕生のベースとなった特注機
ライトウィーブ誕生のベースとなった特注機

製品化に向け、新たな連携広がる

自動車シートの分野は、この20年で品質と納期の評価が定着。国内のほぼ全社と取引し、新モデルの投入時は忙しさが増す。現在はあわただしい毎日だ。本来の仕事が忙しくなり、光る織物に投入するマンパワーはタイトだが、自社製品を一つの柱にする目標に向けて力を注ぐ。
次世代コンセプトカーの採用実績で、注目も高まった。改良のアイデアが次々、出され、接触の摩擦や衝撃に強い安全性、耐久性の工夫を急いでいる。まずはドア内張のやや小さい面積から、その後に天井材などへと幅広く展開する検討が顧客との間で進んでいる。

自動車のドアトリムにライトウィーヴを使ったイメージ画像(トヨタ紡織との共同開発)
自動車のドアトリムにライトウィーヴを使ったイメージ画像(トヨタ紡織との共同開発)

インテリアや小物雑貨の引き合いもある。地元・福井県でも福井市に協力して、夕暮れランニング用に光るたすきを作って寄贈した。電源や光源を改良する、新たな連携も進んでいる。
山本社長らが目指すのは、繊維の仕事を若手に夢のある形でつないでいくこと。機屋(はたや)は織機のパフォーマンスしだいで、アジア・ヨーロッパ勢とも勝負できると見ている。ただ染色や精錬などの周辺工程が国内でともに残る必要がある。繊維産業の工程を見渡すと、縫製はすでに海外シフトが進み、心配は尽きない。ただ最近、新たに海外の雑貨に使うジャカード織りの依頼が入ってきた。国内生産のジャカード織の品質が供給の決め手だった。

経営者メッセージ

35歳で社長に就任した時、廃業すべきか真剣に考えた。決断したのは、従兄弟のアドバイス。そこから命がけの思いで頑張った。
欧州の織機メーカーに特注の織機を頼みに行った時、たった1台作るのは無理な相談だった。しかし、熱意をもって新しい設計を説明すると、面白い機械だと協力してくれた。織機の技術が分かる者同士、思いは通じたと感じた。さらに次の織機はメーカーが、ドイツ、フランス、イタリアの3国にまたがるものになった。
若い人が繊維産業で頑張れるよう、今後も特徴ある技術を送り出したい。最近の若い人は飲み込みが早い。ただしすぐに先を読み、結論を急ぐきらいもあるように感じる。この仕事は不確定な要素が多く、変化点が多い。難しい世界ではあるが、少しおおらかに構えたほうがいい。夢を持って、ともに取り組みたい。

企業情報

▽企業名=大喜株式会社
▽代表取締役社長=山本 岳由
▽所在地=福井県坂井市丸岡町儀間16-18
▽設立=1953年11月
▽売上高=約2億円(2020年10月期)
▽従業員=23人

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近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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