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最終更新日:令和5年3月15日
ビットブレインは高度なITスキルが売り物のベンチャー企業。コンピューターの情報セキュリティ対策として投入したリモートデスクトップソリューション「SPG-Remote(リモート)」で頭角を現した。企業などのコンピューター端末に社員が遠隔から安全、簡単にアクセスしてパソコンで仕事ができる。2015年末の発売から、金融機関をはじめとする企業需要をつかみ、電子カルテなどを利用する医療分野でも注目を集める。
情報セキュリティの分野は、ウイルス対策ソフトが普及したものの、総じてみるとインターネット時代の多くの人に、ハードルが高いテーマのままだ。そこに同社がリモートアクセスの切り口で手軽な対処法を示した。
SPG‐Remoteは、セキュリティの強度が高く、しかも安価な点が魅力だ。セキュリティ強度の秘訣は、ネットワークを途中で分離している点で、これをサーバの物理層レベルで構築している。利用者は自宅のパソコンから、ビットブレインの運用する専用クラウドセンターを通じ、ここで物理層レベルで分離され、会社パソコンとつながる。
高度なセキュリティーが要求される作業のリモート接続も可能に
使い方は簡単。インターネットで会社内パソコン(PC)から画面を転送し、自宅PCでこの画面を見る。キーボードの入力信号を送り、それを会社PCが受け取り、反映した画面を自宅PCに転送する。自宅PC側はファイル、データを持たず、ファイルの転送、持ち出しなどの操作はできない仕組みとした。若干の画面展開速度の遅れはあるが、ほぼ通常感覚でパソコンを使える。
ルーターなどは不要で、会社・自宅の双方PCにアプリを入れるだけ。申し込みから最短2営業日で利用開始となる。
ウイルス攻撃はインターネットの通信手順、ネットワーク、企業の認証の入り口を巧みに利用する。その物理層分離について斎藤智示社長は、「ネットワークで一直線につながらないことがセキュリティでは重要になる。この物理層での分離はセキュリティの強度として最も高い部類になる」と説明する。
またインターネットと隔離した病院などの閉域ネットワークに対応するのが「SPG‐RemoteMedical」。閉域ネットワーク内部に携帯電話のSIMカードを搭載した専用ルーターを1台設置。その携帯電話回線を通じて、リモートのパソコンから病院の電子カルテにアクセス、閲覧・書き込みができる。
SPGリモートメディカルのシステム概要
リモート接続は個人情報の漏洩リスクが高まるため、保険会社がサイバー保険の適用対象にしたがらないのが一般的という。しかし同社製品は高いセキュリティ強度が認められ、特例的に対象になっている。
斎藤社長は起業する前、大手IT企業のエンジニアとして、中央官庁の情報システムの企画立案など、高いセキュリティを必要とする顧客を担当してきた。堅牢なセキュリティシステムについて経験豊富だ。
Uターンした郷里・福井で2015年、IT人脈の協力を得て起業。人工知能(AI)分野のビジネスに取り組み、併せて、情報セキュリティの社会課題にあらためて着目した。中小企業のPCがウイルス攻撃にあい、機密情報が漏れ、取引先から取引停止となる不幸なケースが少なくない、そうした現実への問題意識だ。
守るべき対象が不明確で、発生するリスクに対する実感を持ちにくいことなどから、セキュリティ対策への投資は優先順位が低くなりがち。「セキュリティ対策を普及させるには、生命保険や損害保険のように、特別に意識せず、導入が簡単な仕組みにする必要がある」との考えから、斎藤社長は企業のリモートワークに焦点を合わせたSPG‐Remoteを開発した。同製品は2019年末に発売。予想外のコロナ禍で、手軽なツールとして注目を集め、病院のコロナ診療などへと需要が広がった。
セキュリティー対策の普及には導入しやすくすることが重要と斎藤社長
医療分野の需要拡大を受け、同社は病院での利用に特化したSPG‐RemoteMedicalを発売した。病院は重要な個人情報を記載した電子カルテを、病院内限定の情報システムで扱う。コロナ禍に対して拠点病院は相次ぎ、隣接の駐車場などにコロナ対応の仮設棟を作ったが、電子カルテの利用は不自由だった。診療の手書きメモが仮設棟と院内を行き来する光景も見られた。
SPG‐RemoteMedicalは専用ルーターの設置など、数日の作業で利用が可能。仮設のコロナ診療棟のほか、医師らが出先で診療する際の電子カルテのアクセス、夜間救急の受け入れ態勢を敷く病院で、少人数の特殊な専門医が高頻度で病院に詰める負荷を軽減するのにも役立っている。
現在、強い引き合いがあるのが製薬分野。医薬の治験業務を担う医療機関の支援サービスの最大手、EP綜合(東京都新宿区)がSPG‐Remoteに着目し、ビットブレインとの二人三脚で普及を目指して動きだした。
新薬の治験は、製薬会社の仕様書に沿った効果があるのかどうか、人体での経過をていねいに点検することが求められる。新薬の仕様書と、医師が記した病院カルテなどの原資料を、専門の第3者モニターが閲覧・精査する「SDV」と呼ばれる重要な仕事で、病院内に設けた遮断した一室において、高い機密性の中、進められる。専門モニターが各病院に出張する労力などから、かねてSDVのリモート化が提唱されてきた。だが有効なツールが見当たらず、いまだ現場作業のままだ。
新薬開発における資料確認作業のリモート化も目指す
そこで両社は、従来のSPG-Remote Medicalをベースに、リモート接続をより厳格に管理する形に機能改良。病院、製薬会社、さらに同業の治験支援サービス会社を含めて業界で広く利用できる仕組みを目指していく。日本の医療水準は世界有数との評価があるが、製薬、特に新薬開発の治験はボトルネックとされてきた。課題解決のツールとして期待を集めている。
郷里の福井でベンチャーを立ち上げた。責任の重い仕事に取り組む日々の中で、会社の今後を考える。Uターンで感じるのは地方都市の課題。私見だが、仕事の選択肢は限られ、活性化戦略を企業誘致や観光開発に求めても、なかなかうまくいかない。これは地方に共通した悩みのように見える。
この会社は少人数でどこまでやれるかを一つの挑戦テーマとしていく。当社のようなベンチャーは東京では珍しくないが、地方都市における、ユニークなモデルになりたいと考えている。
▽企業名=株式会社ビットブレイン
▽代表取締役社長=斎藤 智示
▽所在地=福井県福井市中央1-3-1
▽設立=2015年4月
▽売上高=非公表
▽従業員=8人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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