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最終更新日:令和5年3月15日
土地の高低や建物などの位置、地表のさまざまな情報を取得する「測量」。エムアールサポートは3Dレーザースキャナーとドローンを駆使した新たな測量技術で、長く変わることのなかった建設・土木業界に新風を吹かせている。
同社が展開する「測量美術」は3Dレーザースキャナーとドローンで作り出した3Dデータから道路の補修工事に必要な情報を取り出す。道路のわだちや亀裂の深さ、マンホールの位置、横断歩道の塗装の幅などもPC上で解析できる。しかも現地の測量にかかる時間は従来手法より圧倒的に短く、画像作成までの工程は操作も容易。障害者雇用の拡大にもつながる技術として業界以外からの注目も集める。
国土交通省はICTの活用拡大によって建設現場の生産性を向上させる「i-Construction(アイコンストラクション)」を推進している。建設機械の自動運転など実現に向けた技術的なアプローチはさまざまだが、道路の舗装修繕に特化した同社の「測量美術」も現場に変革をもたらす新たなシステムとして注目を集める。
測量美術は3Dレーザースキャナーで得た地表の3Dデータと、ドローンで撮影した画像を組み合わせて、構造物やマンホール、わだちの深さ、位置など多くの情報を持つ高精細なCAD画像を作り出す。画像はレンズ由来の歪みを取るオルソ補正がなされており、このCAD画像を解析することで旧来の測量で得られるデータをデジタル的に取得する。
計測時の現場状況
測量のために道路を通行止めにする必要がなく、作業者にとっても安全に短時間で作業ができる。従来、20人で20日ほどかかった測量作業も4人の1チームで1日。PCにデータを取り込んでしまえば、2-3カ月かかっていたデータのとりまとめも「4秒で出せる」(森誉光取締役ICT事業統括責任者)。さらに横断歩道で使う塗料の量、点字タイル、マンホールの数などを計算することで資材調達時の無駄の削減も可能だ。
3Dレーザースキャナーで取得するデータには歩行者や自動車、遮蔽(しゃへい)物がノイズとして記録されてしまう。画像化しても物体の形は不鮮明で、道幅のスケールも曖昧になるため、これだけでは使えなかった。同社は画像を鮮明にするため、ドローン撮影による鳥瞰(ちょうかん)画像を組み合わせた。さらにノイズを除去するため“芸術”の要素を取り入れたのが、同社技術の独創性だ。除去する“色”を指定していく簡単な作業でノイズのない画像データの作成を可能にした。
ノイズのある旧来のスキャンデータ
独自技術によってノイズを除去した3Dデータ
色の指定はタブレット端末に表示した画像上で対象をタップするだけ。スマートフォン向けアプリの操作性を取り入れることで専門知識を持たない人も作業できる仕組みを実現した。この操作性の高さにより、障害者の雇用拡大に貢献しており、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の視点からも注目を集めている。
また、新たに確立した「快速レジスト法」は既存の3Dスキャナーにアタッチメントを取り付けるだけで、従来40分ほどかかっていた計測を1分40秒に短縮する。作業の省人化、効率化が図れ、人手不足の業界に貢献する技術として進化を続ける。
エムアールサポートは建設工事の施工管理業務請負業を前身に、草木茂雄社長が2010年に設立した。測量業に業容を拡大したのがきっかけだ。2012年には、業界でもいち早く3Dレーザースキャナーを導入した。
測量に従事する傍ら、作業の効率化を思案していた森取締役はこの3Dスキャナーの活用を考えた。入社以前はスマートフォンのアプリを作っていたという森取締役。ソフトウエアの開発には自信があった。加えて美大出身で美術展にもたびたび出展する芸術家でもあり、単なる画像処理にとどまらない、コンピューターとアートを融合する技術アプローチにも明るかった。
森取締役はアートの融合に新技術を見いだした
3Dスキャナーによる多点計測で精緻な3D画像を作成し、現実の測量作業と同じデータを得られるようにする-、完成のビジョンは明確だった。3Dスキャナーでデータ取りをするベース技術は13年に確立した。ここからICTに軸足を置いた独自の測量技術の開発が加速し、「測量美術」は17年に完成を見る。ただ、ここに至るまではトライアンドエラーの繰り返しだった。3Dスキャナーの設定一つにしても、撮影ピッチやレンズの回し方など無限とも言える組み合わせがある。これを「一つ一つ検証し、最適解を見つけ出した」と森取締役は胸を張る。16年からはドローンを取り入れ、より精緻な画像データの作成にも道筋を付けた。ここには大きなブレークスルーもあった。
スキャン画像とドローン画像を重ね合わせる作業は従来、目視による手作業。ずれの発生は避けられなかった。そこで森取締役はドローンが撮影時に記録するGPS情報に目を付けた。撮影画像上の“色”には座標情報が載っている。これを解析して機械的に利用すれば、スキャナーの点群データと照合して正確な向き、位置の自動的な重ね合わせも可能になる。
ただ求めるデータを抽出できるCADソフトすぐには見つからなかった。3Dスキャナーの設定と同様に、さまざまなソフトを試した。そして「ただ1本、必要な情報を吐き出すソフトを見つけた」(森取締役)。
3Dスキャナーとドローンで作成する精緻な画像。これに“色彩”を加え、あらゆる測量データをPC上で得られる独自技術「ハイブリッド点群」が完成した。
3Dスキャナーは新たな事業の骨格を作り上げた。「社長にとって開発投資は清水の舞台から飛び降りるような決断だったはず」と京都に所在する企業らしい例えをしながら森取締役は笑う。ただ、現場経験豊富な社長のもと、実地でテストを重ねられたことが開発成功のカギだった。様々な現場を見てきた草木社長の見る目は厳しい。これまでにダメ出しを受けたアイデアは数知れず。どれも使えない理由に納得がいった。逆に「社長に評価されれば、通用するという自信があった」(同)。
近年、「STEAM」教育が注目されている。科学(Sience)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)を統合的に子供たちに学習させようという教育手法だ。Artsには言語など広く人文教育を含む見方もあるが、従来の「STEM」教育に芸術などを取り入れ、より創造的な発想ができる人材の育成を目指すものだ。エムアールサポートの「測量美術」はこのSTEAM的考え方が根底にあった。「アートを入れると見える化できるものがある」と森取締役は言う。
同社は2018年、ベンチャー発掘を目的とする京都市の「京都市ベンチャー企業目利き委員会」でAランク認定を受けた。以降もさまざまな賞を受け、2020年には測量美術が国土交通省の「i‐Construction大賞」優秀賞を受賞。国交省のホームページにも舗装修繕のロールモデルとして紹介された。こうした背景もあって、大手建設関連企業からの相談、依頼は引きも切らない。「研究室を見せてもらったり、情報交換したりと交流も増えた」(同)。
同社が取り込んだ芸術のアプローチは事業の道筋の“見える化”にもつながった。10年近く磨いてきた測量美術の開発は試行錯誤の連続。国交省のかけ声で建設現場のICT化は進むが、大手であっても同様の測量技術を一朝一夕で実用化するのは難しい。
すでにエムアールサポートは道路補修工事をターゲットにした3D測量とデータの提供に事業の軸足を完全に移している。測量美術にかかる機器、ソフトの操作方法などは詳細にマニュアル化し、ライセンス販売事業も手がける。新しいモノに対する自治体のハードルは高いが、障害者雇用、コロナ禍における就労支援にもつながる技術として認知度は高まってきた。
誰もが全く同じ仕事に就くことができる
測量事業は軌道に乗っている。来春には京都嵐山に新本社が完成する予定だ。現在の本社は研修センターとして活用する。大手建設業者と組んでデータを提供する新規ビジネスの準備も進む。2022年4月からは街中の小規模土木でもICTの活用が進められる。効率化は入札において加点ポイントになる。同社に強い追い風が吹く。「まずは国内市場。まだ“知る人ぞ知る”技術であり、浸透を図りたい」と森取締役。一方でインフラ整備はどの国においても課題であることから、将来の海外市場の開拓も視野に技術に磨きをかける。
測量美術は誰もがデータを扱えるようにした。これにより専門知識、技能という境界がなくなった。自社の技術を顧みて、採用においても「こういう人に来てほしい」と言わなくなった。この効果は大きく、学生、介護に従事する人、さまざまな人が希望してくれるようになった。建設・土木は不人気と言われるが当社の面接には女性を含め何十人と来てくれる。人材の裾野が広がっている。
さらに当社の技術は障害者雇用にも貢献する。皆が同じ仕事をし、同じ収入を得られる。自治体では就労支援で注目を集め、これまでと異なる部署が窓口になって社会福祉とインフラ整備の施策が融合し始めている。皆が一丸となれば、面白い社会ができるはずだ。(森
誉光 取締役ICT事業統括責任者)
▽企業名=株式会社エムアールサポート
▽代表取締役社長=草木 茂雄
▽所在地=京都市右京区嵯峨天龍寺広道町7-9
▽設立=2010年6月
▽売上高=1億4300万円(2021年5月期)
▽従業員=12人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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