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製紐技術が生きる/繊維の技術で軽くて曲げられるミリ波通信向け導波管を実現
~株式会社米澤物産~

最終更新日:令和5年3月15日

米澤物産は細幅繊維を得意とするメーカーだ。織り、編み、ひも状に組む製紐(せいちゅう)と3種の工法を駆使し、工業品用の『ファブリックパーツ』に仕上げて供給する。現在、ブラインドカーテンの資材で金属やプラスチックの羽を組み付けるラダーコードと操作ひもは国産製品のトップシェアを誇る。
同社は新規ビジネスとして情報通信分野向けのフレキシブル導波管に挑んでいる。伝送時のデータ損失を抑えたいミリ波以上の周波数での使用を想定する。繊維の加工産地、福井県が生み出した技術で、この事業化に同社が協力の手を挙げた。
通信ケーブルは同社にとって未知の領域だが、持ち前のチャレンジ精神とファブリックパーツの実力で歩を進める。

地域が生み出した技術の事業化に参画する米澤物産
地域が生み出した技術の事業化に参画する米澤物産

樹脂芯材を銅箔糸で被覆、既存ケーブルの短所を補完

フレキシブル導波管の基礎は福井県工業技術センターが開発し、2014年に発表した。柔軟性のあるフッ素樹脂で作った角形の管を芯材にし、銅箔で管の周りを覆う。この被覆がポイントで、フィルムが積層された銅箔を糸状にスリット加工して、組みひもにした。これにより柔軟性があり、曲げても電波の伝送損失が小さい特性を発揮する。直進性が強いミリ波の電波を品質良く伝送する手段として、5(第5世代)以後の通信基地局や宇宙分野、スーパーコンピューターの配線などのハイテク分野で需要が想定される。
導波管の素材は金属が使われている。装置の内部で自由な角度に曲げることはできず、重さもかさむ。フレキシブル導波管は伝送損失値で光ファイバーよりやや劣るが、強く曲げた際にも伝送性の変化が小さい。電波を通す管なので接続施工が比較的容易だ。機器設計の自由度も向上する。

設計自由度の向上に寄与するフレキシブル導波管
設計自由度の向上に寄与するフレキシブル導波管

通信線路の技術はそれぞれに一長一短がある。同軸ケーブルは電気、光ファイバーは光、フレキシブル導波管は電波を媒体にする。媒体の特性から、通信距離は光ケーブルが優位にある。一方、屈曲性は同軸ケーブルとフレキシブル導波管が優れる。同軸ケーブルは速度、容量に限界があるとされ、接続性に優れるフレキシブル導波管に軍配が上がる。
フレキシブル導波管は2020年に国内外の大学や研究機関にサンプル供給を始めた。10センチメートルから3メートルまでの製作実績だが、現状の設備では10メートル程度まで製作が可能だ。「同軸ケーブルや光ファイバーとの競合ではなく、補完する存在。この特性は高い評価を得ている」と米澤稔喜社長は手応えを示す。

製紐のノウハウ、専用設備つくり製法を確立

実用化に向け福井県工業技術センターはオリンパスと共同研究体制を組み、2017年にそろって成果を発表した。米澤物産はこの発表資料をきっかけに、製紐の知見を生かして情報通信分野の開拓を担当したいと、名乗りを上げた。2019年、製品化を目指す3者の共同研究が始まった。県工技センターとオリンパスは最先端の医療分野を見据えて伝送ロスの少ないフレキシブル導波管技術の開発を続けており、米澤物産は情報通信分野で事業化。需要のすそ野を広げる役割を中心となって担う。

米澤社長は製紐の知見を生かそうと名乗りを上げた
米澤社長は製紐の知見を生かそうと名乗りを上げた

基本技術の移転を受け、米澤物産は通信ケーブル用で製紐する専用設備の開発から事業化に着手した。2020年に60ギガヘルツ帯の周波数でフレキシブル導波管のサンプル出荷を開始。2021年には製造装置を改造し、通信や車載のミリ波レーダー用を想定したV帯(50ギガ-75ギガヘルツ)、E帯(60ギガ-90ギガヘルツ)、また建物内のローカル5G用などを想定したR帯(21・7ギガ-33・0ギガヘルツ)の開発に取り組んでいる。
フレキシブル導波管の製造は、スリットした60本余りの銅箔糸を使って、ひも状に組んで被覆する。それぞれの糸は張力を一本一本、精度良く制御して組み上げる。この際、通常の繊維と異なり、銅箔の糸は伸縮性がないため、デリケートな扱いが求められる。
フレキシブル導波管は利用する周波数帯の電波長によって適した芯サイズがある。各サイズによって最適なテンションがある。このコントロールで微細なしわなどがなく、緻密な被覆のフレキシブル導波管となり、性能が出る。「課題と研究の繰り返し。ようやく最近安定してきた」(米澤社長)。
同社は設備の新鋭機を積極的に導入するほか、工場内は自作の設備が多い。製造装置を含めた総合的な技術ノウハウが、新領域に挑戦するベースとなっている。

コネクタ仕様の標準化が普及のカギ

現在、認知度を広げる活動を展開中だ。電気通信関連の展示会に積極的に参加するのと併せて、電子技術産業協会(JEITA)が事務局を務める「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」に事業の初期段階から参加した。このコンソーシアムにはオブザーバーで総務省、経済産業省、地方自治体、関係団体が参加しており、高速・大容量通信に関する技術動向の情報収集に重要な場となっている。こうした活動で関係のできたミリ波関連技術に関わるメーカーや商社など複数社と、販売協力体制を構築する準備も進んでいる。

展示会にも積極的に参加(2021年11月開催のMWE2021)
展示会にも積極的に参加(2021年11月開催のMWE2021)

産業利用には技術の標準化が重要だ。フレキシブル導波管に用いるコネクタは現状、既存品を用いており、容易な接続性を十分に生かせていない。専用コネクタを開発するにあたって標準規格をどうするべきか。研究者や技術者との交流を通じて道筋を探っている。
一方、現状の5Gは、既存技術で対応が進んでおり、狙っていくのは『ビヨンド5G』だ。高速・大容量のニーズがより高度化するのに伴い、屈曲性、接続性の容易さ、これら要素を兼ね備えたフレキシブル導波管の特性がより際立つと見ている。
ただビヨンド5Gも技術の主流をめぐる開発競争はすでに激しい。競合する技術とすみ分けながら、特徴ある技術の足場をつくる模索が続く。「フレキシブル導波管で取り組んで3年。次の3年が勝負どころになる」と米澤社長は表情を引き締める。

経営者メッセージ

当社は2021年で創業70年を迎えた。これまでに培った技術を、時代とともに進化させ、今後もニーズに応え続けていく。「出来ない理由より出来る方法を考えよ」という考えを元に、決して最初から諦めることなく、常に挑戦し続ける姿勢が信条だ。
社内も若返りを進め、現在の社員平均年齢は37歳。これは繊維製造業の中では若い方だろう。ワークライフバランスを考え、従業員の多能工化を推進、適正な人員配置を工夫し、近年の残業は平均で月3時間に抑えている。これも業界ではかなり低い数字だ。仕事も私生活も楽しく、コア技術をしっかりと継承し、柔軟な発想でモノづくりをおこなうプロ集団が米澤物産だ。

企業情報

▽企業名=株式会社米澤物産
▽代表取締役社長=米澤 稔喜
▽所在地=福井県福井市八重巻中町1-13
▽設立=1952年10月
▽売上高=約12億円(2021年9月期)
▽従業員=65人

このページに関するお問い合わせ先

近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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