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スプレーだけで研磨加工特性を改善する「MAGI-Poly(マジポリ)」
~株式会社クリスタル光学~

最終更新日:令和5年3月15日

クリスタル光学は半導体やディスプレーのほか、電気自動車(EV)用バッテリーなどの製造装置向け精密部品の製造・加工を主力としている。最近は航空・宇宙産業や光無線通信技術にも関わり、将来は医療分野への参入も計画する。
他社にはまねのできない超精密加工を武器に展開し、高度化する顧客の要望に合わせて工具や治具の開発も続けてきた。ただ、そこには顧客業界の動向に影響されやすいという課題もあった。このため不況に強いと言われるストックビジネスへの参入を目指し、2016年頃から開発に取り組んだのが研磨用スプレー「MAGI‐Poly(マジポリ)」だ。既存事業と並行しながら、大学の“知”を活用した新たなイノベーションを起こしている。

新市場開拓を進めるMAGI‐Poly
新市場開拓を進めるMAGI‐Poly

手軽に扱え、パッドの特性変えず研磨性能向上

マジポリは一般的な仕上げ研磨工程で使う研磨パッドの表面に塗布するだけで、研磨能率や仕上げ面粗さなど研磨性能を向上する。多孔質や不織布、スエードなど研磨パッドはそれぞれ表面の微細な構造が異なり、作業に応じて使い分けられる。マジポリはこれら研磨パッドの表面に研磨液との親和性に優れた薄膜層を形成。ワークに対して作用する砥粒数を増加させ研磨特性を高める。研磨パッド本来の物理的特性を変えないことが特徴だ。

研磨パッドの表面に塗布するだけで研磨性能を向上
研磨パッドの表面に塗布するだけで研磨性能を向上

手軽に扱え、使用条件にもよるが効果は約120時間以上持続する。薄膜層を剥がして再スプレーすることで効果はさらに維持でき、ドレッシングで元の状態に戻すこともできる。
研磨作業に用いる研磨液は液中に砥粒が分散している。濡れ性が高く、パッド表面になじむほど、長くとどまり、効果を発揮する。一方で研磨パッドが回転すると遠心力が発生するため、砥粒をいかに飛ばさず保持できるかが研磨特性を向上するカギとなる。同社はマジポリの塗布によって、親水性を示す砥粒との接触角が小さくなり、付着力を示す滑落角が大きくなって遠心力に耐えることも実証している。
塗布する際の膜厚は20マイクロメートルを推奨している。吹き付け量が多くなり過ぎると砥粒が入る微細な孔が埋まり、研磨能力に影響を与える。砥粒が入る孔を保ちつつ表面にマジポリ層を形成するところがポイントだ。ただ20マイクロメートルはあくまで目安。実際にはワークとの組み合わせで研磨条件が変化するため、最適な膜厚の追求には使用者側の条件出しが欠かせない。「平面研磨の場合、実研磨前に“ならし研磨”を行うため、多少ムラがあっても均一化できる」と桐野宙治専務。一時はマジポリと併せて均一に塗布する装置開発も検討したが、マジポリの完成度を高めることに集中した。

業界の保守的な要素が開発の足がかりに

2010年、レアメタル・レアアースの価格が急騰した。通常1キログラム500円が同2万円まで跳ね上がったものもあった。当時、ディスプレー業界ではガラス研磨の砥粒にセリウム酸化物(セリア)を使っていたが、急激な価格の上昇により使用をやめざるを得なくなるなど、大きな影響があったという。
こうした背景からセリアの代替に酸化ジルコニウムが使われるようになる。さらに研磨性能を向上するパッドの開発も進められた。研磨パッドをエポキシ樹脂に代えれば、酸化ジルコニウムでも研磨能率が向上することが早期に見いだされたが、エポキシ樹脂製パッドは普及しなかった。研磨業界が大きな変化を嫌ったからだ。
研磨はパッドの回転数や砥粒の濃度、種類を変え実験を繰り返し、条件出しを行う。一度決定した条件は加工が変わらない限り継続されるのが通例。マジポリはこうした保守的、守旧的とも言える性格をニーズとして逆手に取った。作業者が慣れ親しんだ研磨パッドの表層に薄膜層を形成するだけで研磨特性を向上する機能を付与するコンセプトを打ち出し、開発に取り組んだ。さらに同社の技術顧問を務める東京大学名誉教授の谷泰弘氏の存在も大きかった。製品化には谷氏が保有する特許が不可欠だった。

MAGI-Polyは誰でも扱える手軽さを目指した
MAGI-Polyは誰でも扱える手軽さを目指した

その上で「誰でも扱える手軽さを一番に考えた」(桐野専務)。ガラスレンズメーカーでは、10年以上のベテラン技術者しか出せなかった仕上げ面粗さが入社1、2年目の若手でも出せるようになった。「(ベテランの立場がなくなるから)売ってもらっては困ると冗談を言われた」と桐野専務は笑う。

ニッチ分野中心にBtoCも視野に、ラインアップ拡充も

研磨工程は多種多様で、幅広い企業や業種・業界で行われる。その中でマジポリはニッチ分野、職人の世界を狙う。「研磨職人は自分の条件出しに自信を持っている」(川波多裕司技術開発部チームリーダー)ことに加え、「季節要因も関連し、効果が数値化されていない」(桐野専務)だけに、受け入れられやすいと見ている。勘や経験に基づく経験則の多い研磨作業を平準化でき、今以上の結果につなげられるからだ。ただ、効果は実証されているが、販促活動はこれから。2020年からのコロナ禍で展示会への出展がままならなかったことが響いた。
反転攻勢をかけるため現在、販促ツールの作成に取り組んでいる。これを基に国内市場を開拓する。中国などへの海外展開も視野に入れているが、まずは日本での実績づくりを優先する考えだ。ターゲットは中小規模で研磨にパッドを使う業界。BtoBが中心になるが、BtoCの展開も検討する。BtoCは自動車ボディーを磨く「ポリッシング」に使えるとみており、今後、自社のグループ企業でテストする考えだ。ほかにも活用の場面は想定しているが、市場調査を進め、段階的に取り組んでいく。併せて使用者の声をフィードバックしながら、品質向上、製品ラインアップの拡充も進める。

経営者メッセージ

研磨企業として世界のトップを目指すと桐野社長
研磨企業として世界のトップを目指すと桐野社長

航空・宇宙産業が拡大すれば必要なレンズの数は計り知れない。この分野にも当社は関わっており、こうした将来を見据え、日本を代表する研磨企業として世界のトップを目指す。
これには人材が不可欠だ。自分は磨き職人で、視野が狭くなりがちだった。これからは機械を使い製造・加工ができなければ、最高の製品は生み出せない。資格取得などもサポートし、「職人は作るな、技術者を作れ」を実践していく。
「常に自分と時代の一歩先を見つめる」のが当社の社訓。最高の検査装置・機器は10年先に勝ち残るための大きな武器になる。当社にしかできない加工は数多く、独自技術にも“攻めの投資”を重ねてきた。こうした姿勢は今後も変えないつもりだ。

企業情報

▽企業名=株式会社クリスタル光学
▽代表取締役社長=桐野 茂
▽所在地=滋賀県大津市今堅田三丁目4-25
▽設立=1985年4月
▽売上高=37億円(2021年8月期)
▽従業員=180人

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近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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