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最終更新日:令和5年3月15日
1959年創業の日伸工業は、小物精密プレス部品の製造や組み立てなどを手がける。金属材料を常温で流動させ、3次元形状に加工する技術が強みだ。ブラウン管テレビの電子銃製造を主力としていたが、薄型テレビへの移行で電子銃市場は大幅に縮小してしまった。精密プレス技術を生かせる新たな市場として、同社は2006年に自動車部品分野へ参入。今では売り上げの約85%を自動車部品が占める。
新市場への参入をきっかけに、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)への応募や、滋賀県産業支援プラザの指導を受けながら技術者育成に注力してきた。近年は高い技術を要する製品に加えて、関連する自動検査システムへと開発の幅を広げる。
今回開発したのは、独自開発の多工程ワイドプレス機にカメラを内蔵し、プレス動作を利用して加工と同時に多孔絞り部品の穴の全数検査を行うシステムだ。IoTを組み込んだ革新的な技術で、顧客が要求する高品質と低コストを両立する。
多孔絞り部品の全数検査を行うシステム
このシステムで加工する円筒形の多孔絞り部品は、自動車の燃焼ガスを制御するセンサに使われる。燃焼ガスを吸気・排気するための小さな穴が、上面や側面などに合計18個開いている。
センサの性能向上に伴い穴の数は増加傾向にあるという。既存のプレス機は最大工数が14工程で、同部品を加工するには工程数が不足する。このため2台のプレス機を使って加工した後、洗浄や組み立てを経て、最後に人海戦術による目視外観検査をしていた。
新開発したシステムでは、グループ会社と共同開発した専用プレス機1台で加工から検査まで行う。プレス加工の最後の工程に、金型ではなくカメラを取り付けて画像検査する。暗幕代わりの箱内部では、部品の下から光を当て、小さな穴から漏れる光を撮影することで穴の有無が確認できる。多数の穴から漏れる光が重ならないように、鏡を設置して取り付ける角度に工夫を凝らした。
新システムはプラネタリウムから着想を得た。「カメラで撮影した光の形で“星座”ができていれば良品、できていなければ不良品とみなして機械が止まる。このため不良品が混ざらない」(清水貴之社長)。プレスの上下動作約1.7秒間で検査が完了するスピード感は、人手で数秒かかる目視検査とは雲泥の差だ。
穴を確認する方法はプラネタリウムから着想を得た
製品の形状はより複雑になり、感覚として従来の部品よりも約1.5倍多機能化しているという。清水社長は「複雑・多機能化する部品を迅速にプレス加工し、かつ、歩留まりが良く不良品も減らしながら人件費や生産コストなど約20%のコストダウンを成功させた」と自負する。新システムによって人海戦術の廃止と工程の削減、さらに部品の品質保証まで実現した。
もともと自動車業界のプレスメーカーは、ボディー部分など大型のプレスを得意としていた。ところが、環境対応やハイブリッド車(HV)、電動化といった流れになり、これまで自動車に載っていなかった小型部品が必要になってきた。
さらに切削加工で対応していた小型部品も、大量生産の必要性からスクラップが少ないプレス加工のニーズが出てきたという。「電子部品に近い小型部品を製造できて、金属粉やホコリがついていないきれいな状態で納品できるプレス屋は自動車業界になかった」と清水社長は解説する。日伸工業がブラウン管テレビの電子銃から新市場への転換を狙っていたタイミングとこうしたニーズの拡大期が合致した。
自動車業界では珍しいプレス技術があったと清水社長
自動車業界転換期の波に乗って業績が伸びる一方、自動化に注力する背景として検査人員の増加が課題となっていた。カメラ以外に、温度や音、圧力などのセンサを駆使して検査を自動化する「日伸センシング」と名付けた取り組みが、数年前から動きだした。
そんな折、新型コロナウイルスが猛威を振るう。2020年、コロナ禍で仕事が半減する中、「ピンチをチャンスに、パラダイムシフト」をスローガンに掲げた。人員を抱える検査体制を見直し、開発を進めていた自動検査機の導入を加速させた。多孔絞り部品の全数検査システムも、日伸センシング活動の一例だ。
多孔絞り部品は2019年から製造し、足元では月産約40万個を販売している。当初、2023年に月間25万個の販売を目指していたが、目標を上回るペースで好調に推移している。ガソリン車やディーゼル車、HVにおいて車載用燃焼ガスセンサは必須部品。「1台の車に2個搭載される部品なので、ゆくゆくは年産500-600万個は到達するだろう」と清水社長は予測する。この部品はバイクにも搭載されており、特にインドでは2輪車の規制が進むため、ターゲット市場に位置づける。もちろんカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が求められる中、排ガス規制は世界規模で制度化が進む。二酸化炭素(CO2)排出量削減のため、市場はますます拡大していく見通しだ。
今後も需要の伸びが見込まれる多孔絞り部品
同社は検査の自動化を進める「日伸センシング」を商標登録している。検査システムは本社工場(大津市)と大垣工場(岐阜県大垣市)、インドネシアのバタム工場に導入している。今後は中国の北京工場にも導入する予定で、ラインの構築を急ぐ。グローバルでの地産地消に対応する。
小径多孔付き精密絞り部品は、自動車用燃焼ガスセンサに限ったニーズではなく、医療や航空分野、家電製品などにもニーズがあると想定。幅広い分野で、プレス技術と検査システムを提案し、潜在需要を掘り起こしていく。
毎年、年間目標としてスローガンを掲げている。今年は「エンゲージメント経営」。自社製品が世の中のどんなことに役立っているのか、しっかり理解した上で仕事をしてもらうのが狙いだ。当社はかねてより国家検定取得の推進・支援や語学研修などの場を設け、自己研さんを積む仕掛けづくりをしている。
7年連続で「関西ものづくり新撰」を受賞し、2016年の「現代の名工」に選ばれた技術者も在籍するなど、人材育成の成果は出ている。21年7月には当社初の女性管理職が誕生し、女性活躍推進にも力を入れている。理論や技術を身につけて成長していく社員の集合体が会社であり、彼らの活躍が会社としての成果に結びつくと信じている。
▽企業名=日伸工業株式会社
▽代表取締役社長=清水 貴之
▽所在地=滋賀県大津市月輪1-1-1
▽設立=1959年8月
▽売上高=99億円(2021年6月期)
▽従業員=304人
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