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流れた時だけ信号を発する給脂センサ/作業者が立ち入りにくい場所に新たな市場を見出す
~山科精器株式会社~

最終更新日:令和5年3月15日

山科精器は創業から80年以上の歴史を持つ。戦前にマイクロメータの製造からスタートし、社会の要請に対して事業の幅を拡大。現在はシリンダブロックやモータフレームなどの特殊な加工に特化した専用工作機械、注油器などの潤滑機器、熱交換器、医療機器の4分野で事業を展開する。
船舶や自動車はいうまでもなく日本の基幹産業だが、今後、大きな市場拡大は見込めない。そこで同社は2004年に医療機器の開発をスタートし、新規市場に参入した。これまでに培ったモノづくりの技術を生かした製品群は着実に実績を上げている。顧客や分野は異なってもモノづくりの基本はブレることがない。

山科精器は社会のニーズに合わせて事業を広げてきた
山科精器は社会のニーズに合わせて事業を広げてきた

電気信号で給脂を監視

山科精器の潤滑機器事業は1963年にダイキン工業から製造・販売権が移管されたことを発端にする。1965年には高圧注油器を自社開発し、潤滑機器メーカーとしての基礎を確立した。注油器は設備機械の部品の摩耗や焼き付き防止を目的に設置される装置で、同社はさまざまな業界に向けた注油器を展開。特に大型船舶のメインディーゼルエンジン向けが用途の大半を占める。メインディーゼルエンジンの注油トラブルが発生すれば、船舶の運転停止にもつながりかねない。確実に動作することが求められる極めて重要な装置を手がけている。
2020年に同社が開発した「グリース吐出センサFLS-G」はグリースポンプの給脂ミスといったトラブル回避に貢献する。グリースは潤滑油に各種の添加剤を加えて作成され、潤滑油よりも粘度が高い。潤滑油と同じくベアリングなどの機械部品の潤滑用途などに多用されている。ただ高温環境下で液化しやすく逆に低温だと固形化するなど、環境によって状態や稠度(硬さ、流動性)が変わる。

グリース吐出センサFLS-G
グリース吐出センサFLS-G

同センサは配管ラインに接続し、グリースポンプからグリースが定期的に給脂箇所に送られているかを確認する。グリースは潤滑油よりも微量で間欠的に圧送される。ポンプで加圧して配管内に送られたグリースが移動するとセンサが電気信号を送る。要は「流れた時だけ」信号を発するセンサだ。
この製品は環境の厳しい場所での使用を想定しており、最大120℃の高温にも耐える設計。もちろん水がかかる環境でも使用可能だ。粉塵が内部に侵入せず、あらゆる方向からの水の直接噴流に有害な影響を受けない防塵、防水性能の保護等級IP65に対応している。さらに電気接点は流体と接触することで腐食しやすくなるが、この製品では流体と電子部品を完全に分離し、電位差で給油を検知する独自方式を採用。接点が流体に触れないため腐食しにくく、長寿命化も果たした。
センサは直接生産に直結するものではないが、生産設備の給脂不良を早期に発見することができ、機械の予防保全や稼働率の向上につながる。また一般的に給脂する場所は作業者が入りにくい危険が伴うところが多いという。センサを取り付けることにより、外部から給脂の状況を遠隔監視できるようになり、事故など不測の事態を回避できるメリットもある。

バネのカスタマイズに独自のノウハウ

生産設備でグリースを検知するセンサは従来も存在した。原理はまったく異なり、配管の圧力差で給脂状態を確認する仕組み。不正確で〝目安〟でしかなかった。実際は給脂されていないのに気がつかず、機械部品が焼き付くケースもあったという。グリース給脂は微量にもかかわらず、過剰に太い配管を使用していることもあり、目視での判断も困難だった。
開発に着手したのは2017年。産学連携や外部とのアライアンス(協業)を得意とする同社だが、この製品は100%自社で開発した。開発には時間を要し、完了したのは2020年。最も苦労したのは、グリースの成分が“まちまち”で環境によって稠度が変化することだった。
同社は2007年にオイルフローセンサを製品化しており、フローセンサについての知見があった。加えて自社製品である注油器の心臓部にあたる容積型プランジャーポンプの技術も一部転用した。温度変化に対応するため、内部の金属部品(検出体)やコイルなど部品について試行錯誤を繰り返した。

グリースポンプにFLS-G(赤丸内)を取り付けた設置例
グリースポンプにFLS-G(赤丸内)を取り付けた設置例

半導体部品などを使わず、極力シンプルな構造にしたことも大きな特徴だ。幅58ミリメートル×高さ76ミリメートル×奥行き30ミリメートル、320グラムの小型、軽量な構造で内部には2本のコイルを配置し、その中心部に検出体を配置した。検出体はグリースの流れで動き、入り口側と出口側で生じる金属の電位差の数値を比較してアンプに信号を送る。グリースの種類や稠度によってバネの強さをカスタマイズするのがポイント。
この技術はあえて特許出願していない。「原理自体は古くからあるものだが、注油器で培ったノウハウが多い。仮に分解しても同じものはできない」と、増田竜也設計部FA設計課課長は解説する。

新たな市場形成を目指す

2020年の開発完了と同時に顧客への提案を始めた。価格はセンサとアンプ一式で10万円。製鉄所や発電所、機械加工工場など、厳しい環境下で作業者が立ち入りにくい重要かつ危険な場所での使用を想定する。従来の圧力検知型のセンサからの置き換えではなく、新しい市場の形成を目指している。すでに開発は完了したが、今後、顧客の声を聞きながら、製品のブラッシュアップにも取り組む。

大日社長はFLS-Gの自社機械製品への採用も検討する
大日社長はFLS-Gの自社機械製品への採用も検討する

工場のIoT化が進んでおり、センサは構成部品の一つとして使うこともできる。同社は専用工作機械や産業機械を手がけるメーカーでもあり、工場自動化(FA)支援の中で自社製の機械にこのセンサを装備することも考えている。一つの工場で複数台のセンサが使われることが想定され、市場に浸透すれば売り上げ拡大が期待できる。当面は「年間100台、1000万円の売り上げを目指す」と、大日陽一郎社長は力を込める。

経営者メッセージ

当社はマイクロメータの製作からスタートし、精密な加工技術やメカトロニクス技術を培ってきた。長い歴史を持つ製品が数多くあるが、将来を見据えた新分野へのチャレンジも行っている。このためにもメーカー同士、中小企業同士、あるいは地域のつながりを生かしたアライアンスに力を入れている。特にグリースセンサを含むFA分野、環境、医療分野には力を注ぐ。
モノ作りの技術をベースに新しいものにチャレンジする風土を確立させたい。技術を尊重する経営はもちろん、人間を尊重する経営を目指し、モノ作りを通じてより豊かな社会を創造していく。

企業情報

▽企業名=山科精器株式会社
▽代表取締役社長=大日 陽一郎
▽所在地=滋賀県栗東市東坂525
▽設立=1939年7月
▽売上高=27億円(2021年3月期)
▽従業員=134人

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近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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