トップページ > 施策のご案内 > ものづくり産業支援 > 関西ものづくり新撰 > 新撰エモーショナル > 株式会社ShinsSei
最終更新日:令和5年3月15日
ShinSeiは金属・非鉄金属部品加工企業として2004年に創業した。大手家電メーカー向け光学部品製造などで成長し、10年には中国に進出。08年のリーマン・ショックで打撃を受けたことを背景に、外部環境に左右されない持続可能な企業を目指そうと医療機器の製造・販売や自社商品開発へ業容を拡大した。
現在は精密加工技術をベースにしたモノ作りに加え、蛍光X線分析装置やセーフBOXなどの医療機器、オープンイノベーションを駆使した五つのプロジェクトなど多角的に事業を展開する。コロナ禍にも芦田竜太郎社長は「ネガティブになっていない」と強調。経営に必要な知識を若手のうちから身に付けさせるべく、人材教育にも力を入れている。
ハンドヘルド蛍光X線分析機「VoXER(ヴォクサー)」は2020年秋に市場投入した自社開発商品の一つだ。外径寸法が31センチ×9センチ×24センチメートルで、重量は2・6キログラム。持ち運びが可能で、場所を選ばず、高精度に金属試料を分析できる。「顧客から材料に関するクレームがあっても(持ち運びが可能な)VoXERを使い、現地ですぐに確認して回答できる」とユーザーの評価も上々。すでに鋼材メーカーや金属加工メーカー、国内外のスクラップ処理業者などに10台以上を販売している。
持ち運びが可能な蛍光X線分析機「VoXER(ヴォクサー)」
自動車や精密機械といったあらゆる箇所に使用される金属加工部品。材料が必要な基準を満たしていなければ、耐久性不足など完成部品の品質を損なう。確実な品質管理にX線検査は欠かせない。
蛍光X線分析はX線の特性を生かし、試料を非破壊で成分分析する。分析機は一般的にX線発生装置と試料から跳ね返る蛍光X線を検出する検出器(ディテクター)、受け取った信号処理を行うプロセッサーで構成。持ち運びタイプの分析機は他社製品もあるが、VoXERの強みは特殊なX線発生装置を採用したところにある。筐体に組み込んだ発生装置は取り外し可能な設計で、不具合が起きても取り換えて対処できる。ユーザー自身でメンテナンスが可能だ。
ディテクターにはシリコンドリフトディテクター(SDD)を採用し、業界トップレベルの分析精度を実現した。分析時間は数十秒と短く、大型パネルを使い、操作性を上げた一方、価格は競合他社に比べ6割程度に抑えた。
「VoXER」の測定結果表示画面
成分分析アルゴリズムはカリフォルニア大学発スタートアップ企業の技術を応用している。筐体設計やソフトウエア関連、配線などはShinSeiのモノづくりの知見を生かし、企画からわずか1年で発売にこぎ着けた。
VoXER開発はアメリカチームも含め、6人が主体となってプロジェクトを動かした。ShinSeiはもともと金属材料、コンクリート・セメント、土壌・水質、廃棄物・リサイクル、欧州の特定有害物質規制(RoHS)指令に対応する据え置き型蛍光X線分析機のアルゴリズムを有していた。とはいえ、商品企画から発売まで異例の速さを実現できたのは「研究者の若さがあったから」と芦田社長は説明する。同社の研究開発を担う社員の多くは20歳代-30歳代の若手だ。湧き上がるアイデアをぶつけ合い、それぞれが機動力を発揮することで、プロジェクトは加速した。
開発には若手社員が活躍した
現在は全社売上高のうち約8割を金属加工事業が占め、自社開発製品事業の売上高は2割に満たない。「自社開発製品の売上高比率を上げていきたい」と力を込める芦田社長。12年から精密金型開発や精密成形加工に取り組み、15年には本社近隣に研究開発拠点を設けて新規の自社商品開発に着手するなど研究開発を強化してきた。推進中のプロジェクトは五つを数え、医療機器開発では京都府立医科大学(京都市上京区)や京都工芸繊維大学(京都市左京区)などとのオープンイノベーションも積極化。リーマン・ショックなどの事業環境変化や、地政学的リスクに左右されない強固な企業を築きたい思いが背景にある。
芦田社長は利益の大半を人材と開発に投じる。各テーマの責任者に若い社員を抜てきし、経営に必要な財務やマーケティングの知識を得られるよう外部講師を招いた教育プログラムも強化してきた。VoXER商品化までの異例の速さは、こうした取り組みの成果と言える。
京都で生まれたVoXERは、日本を中心に、海外にも販売実績を作っている。国内のハンドヘルド分析機市場は、年間30億円程度と決して大きな市場ではない上、競合メーカーも存在する。競合がひしめく環境は欧米市場も同様。このためShinSeiは東南アジアなど新興国に照準を合わせる。現在、日本貿易振興機構(ジェトロ)の協力を得て、新たな販路の開拓に乗り出している。
一方、ヴォクシーの第2弾、第3弾の商品企画も進む。金属材料分析に加えて、RoHS指令対応などアルゴリズムを増やし、機能アップした製品を順次投入する考え。世界的に脱炭素化の機運が高まる中、拡大する電気自動車(EV)ニーズを見据え、芦田社長は「車載リチウムイオン二次電池の品質管理にVoXERを活用できるようになればいい」と成長の糸口を探る。
芦田社長は新工場の建設も視野に入れる
同社は社会課題や顧客の要望に合わせ、大手にはないフレキシブルさで企画から商品化までをスピーディーに実現する。医療機器事業拡大に向けては京都府内に新工場の建設も検討中だ。「今の倍の規模にしたい」、芦田社長の迅速な決断でShinSeiの事業展開はさらに加速する。
年齢や役職にとらわれず社員同士が意見を言い合える距離の近さが当社の強み。会社は一個人の所有物ではなく、個々が能力を発揮し、その集まりでコミュニティーを作って伸ばすのが好ましい。従業員全員がShinSeiの主役だ。一人の権力者に従う古いスタイルでは淘汰(とうた)される。テーマごとの責任者に若手を抜てきし、将来はホールディングス体制を目指したい。
今後、医療機器に力を注ぐ。ラマン分光分析装置など装置販売よりも、むしろ装置利用で得られたビッグデータを解析し、社会に貢献することこそが我々の使命と考える。オープンイノベーションを活用しながら、大手にはできないスピード感で時流を捉えた技術を提供し、“長生きできる会社”を目指す。
▽企業名=株式会社ShinSei
▽代表取締役社長=芦田 竜太郎
▽所在地=京都府城陽市平川西六反40-1
▽設立=2004年2月
▽売上高=非公表
▽従業員=60人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
住所:〒540-8535 大阪市中央区大手前1-5-44
電話番号:06-6966-6017
FAX番号:06-6966-6080
メールアドレス:bzl-kin-shinsen@meti.go.jp