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ハンドツール提供だけでなく作業結果の安全を担保する会社へ 社会の安全に貢献
~京都機械工具株式会社~

最終更新日:令和5年3月15日

レンチやドライバーなどハンドツール約12000種を製造・販売し、アイテム数・生産量ともに国内No.1を誇る京都機械工具(KTC)。高度な熱処理技術や、形状・形態最適化によって今なお製品を進化させ続けている。しかし田中滋社長は創業70年の中で「ハンドツールだけを作っていたのは60年」とし、直近10年で社業に変化が起きたことを明かす。新たに加わったのはデジタル分野。中でも、顧客の現場の作業精度を「見える化」するトレーサビリティーの事業が頭角を現し始めた。ハンドツールは作業者の安全だけでなく、その作業で整備した乗り物や機械の利用者の安全をも左右する。モノづくりの枠を超え、モノを使った作業に精緻な眼差しを向けて社会を守る。

10年前から製品のデジタル化を加速
10年前から製品のデジタル化を加速

効率化と品質向上、トレーサビリティーによる安全担保を同時実現

トレーサビリティーはあらゆる分野で既に重要性が認識されている。しかし、手間がかかるうえに、手書きの場合には誤記・誤読・転記ミスもあるため実際の運用は容易ではない。これらの課題にKTCが向き合い、開発したのがトレーサビリティーシステム「TRASAS(トレサス)」だ。ハンドツールほか、タイヤ溝やブレーキパッドの残量を測定するゲージにセンシングと通信の機能を取り込んでIoTの入力デバイスとし、データをパソコンやタブレット端末に送信して、作業履歴や数値データ、合否判定などを記録・管理・分析する。さらに作業手順の指示と紐づけ、現場で作業者がタブレット端末で正確な手順を確認しながら作業と自動記録ができ、効率化と品質向上、トレーサビリティーによる安全担保の3つを同時に実現する。

作業のトレーサビリティーを実現する「TRASAS」
作業のトレーサビリティーを実現する「TRASAS」

同分野では測定機器メーカーが販売したシステムも存在するが、異なるのは自由度だ。KTCは開発にあたり、自社のハンドツールに機能を組み込むことに固執しない方式を採用した。トルクを測定するデバイスは、他社製レンチにも装着し、デジタルトルクレンチにすることができる。自社製品以外を含め活用し、幅広く統合するシステムは他に存在しないという。
「トレーサビリティーを実現するために工具を全部買い替えるのは、顧客にとって良いことではない」と田中社長。「デバイスもソフトウェアもKTC専用にはしない」とユーザー視点で下した判断を説明する。顧客が自社の生産管理システムやMES(製造実行システム)につなげたい場合には接続するソフトを用意した。MESを手掛けるソフトウェア会社にも、システム開発キットとして仕様を提供している。KTCは専用化によって囲い込む戦略でなく、導入ハードルが低いサービスを提供することで、広く普及させる道を進んでいる。

ハンドツールもシステムも開発コンセプトは同じ「安全、快適、能率・効率」

金属材料技術に精通した同社だが、システム開発の当初はデジタルやソフトウェアは門外漢だった。初めて事業計画を社内で説明した時は、社員はキョトンとした表情。田中社長は「同業者も『KTCが何か変なことを始めた』との反応だった」と苦笑する。ただ、安全を担保する仕組みの必要性には強い確信を持っていた。
システムが普及し始めたのは、飛行機や鉄道車両といった輸送機。この分野は、安全性確保が重要なことはもちろんだが、産業構造的にトレーサビリティーが重要視される要因がある。機体や車両、部品を製造する会社がある一方で、日々のメンテナンスを実施するのは運行する会社だ。仮に事故が発生した場合、責任の所在を明らかにするには、正確なトレーサビリティーがカギを握る。
ニーズが顕在化する一方で、悩ましい問題も起きた。当初は顧客の要望を聞きながら設計する受注開発。「Windows以外のOSを使いたい」「スタンドアローンでなくサーバーに接続したい」と顧客の要望が多岐にわたった上、同種の輸送機であっても会社によって作業手順が違った。顧客が増えるとともに、開発現場と経営に負荷がかかり始めた。

強い確信を持って田中社長は事業を進めた
強い確信を持って田中社長は事業を進めた

「黎明期だからマーケティングリサーチに徹しよう」、田中社長は引き下がらず事業を推進した。その後、知見蓄積が一定の基準に達したところで、システムの整流化に乗り出した。輸送機の種類ごとや、原子力保守といった特殊インフラ案件など、それぞれに骨組みをつくりパッケージ化し、そこに細分化したニーズをブロック的につくったものを組み込む。現在のトレサスが出来上がった。
KTCは、ハンドツールの開発コンセプトに「安全、快適、能率・効率」を掲げている。田中社長は「実はこれは優先の順番。快適であっても安全でなければダメだし、どんなに効率的でも安全でなければ意味がない」と断言する。同社のハンドツールの特徴の1つに、“壊れかた”がある。JIS 規定値以上の負荷をかけ、破損時に破片が飛び散らないかを研究したり、万が一壊れてもハンドツール先端が落下せず、下方での事故を防止する構造を考案したりするなど、安全設計を究めている。
「システム開発も同じ」。田中社長は、異分野参入がこれまでのコンセプトと同一軸にあることを説明する。開発当初こそ戸惑いの反応が起きた社内だが、「いまは全員がその意味と必要性を共有してくれている」と笑みをこぼす。

電子タグやウエアラブルデバイス 組み合わせ技術で広がる可能性

KTCのトレーサビリティーシステムの納入事例は受注開発の時代を含め約60件。整流化とパッケージ化でブラッシュアップした「トレサス」に限定しても既に20件を超える。近年では、大手カー用品専門店が、トルク管理のデバイスと点検記録簿アプリを採用。タイヤ交換時のホイールナット締結トルク値を測定、自動記録することで作業ミスを防ぎ、従来実施していたダブルチェックを不要にして時間短縮を実現した。また、大手タイヤメーカーは、IoTを活用した次世代タイヤマネジメントシステムとしてトレサスを活用。タイヤ点検台数の増加や点検ニーズの高まりなどを背景に、タイヤ溝深さ情報の自動入力で点検作業の厳格化とスピードアップを進めている。

次世代のタイヤマネジメントシステムとして採用された
次世代のタイヤマネジメントシステムとして採用された

さらに、飲料メーカーから、日々のプラント解体・洗浄作業のトレーサビリティーで相談なども舞い込む。ハンドツール販売でつながっている顧客と異なる企業でもKTCが認知され始め、市場拡大の可能性が高まっている。
この商機を逃さずKTCは、クラウド化を進めるなどトレサスをさらに充実したものにしようとしている。また、田中社長は「例えば電子タグの活用。ハンドツールやネジ・ボルトにつければ、位置情報を認識し軌跡から作業をより厳格に管理することも可能だ」と開発の方向性を示唆する。ウエアラブルデバイスを用いて作業者の体調までをも紐づける開発も検討を進めているという。「コストバランスもあるが、組み合わせ技術で出来ることは無限にある」。ハンドツールを提供するだけでなく、作業結果の安全を担保する会社として歩み始めたKTCの開発意欲は、より高いものになっている。

経営者メッセージ

信頼性高いハンドツールと、作業トレーサビリティーシステムの提供で、社会全体の安全レベルを劇的に変えるのがKTCの目標だ。製造や整備の不良に起因する乗り物の事故や、資格を持たない人による整備、データ改ざんなどはいまだ後を絶たない。トレーサビリティーが解決の有効手段となることは間違いないと確信している。我々は、モノづくりに立脚している会社だが、額に汗して製造したモノにどういった付加価値を与えられるかを考え、新たな道を切り拓いた。今後、電気や制御に強い人材や、システムアーキテクトの採用を増やしてトレサスを進化させ、社会の安全に貢献したい。

企業情報

▽企業名=京都機械工具株式会社
▽代表取締役社長=田中 滋
▽所在地=京都府久世郡久御山町佐山新開地128
▽設立=1925年8月
▽売上高=約73億円(2021年3月期)
▽従業員=273人

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近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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