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最終更新日:令和5年3月15日
強固な経営基盤を持つ鉄工所は、高い設備力、もしくは機械化できない職人技術を持つことが多い。桜井鉄工所はその両方を堅持し、大型・長尺物加工分野で存在感を高めてきた鉄工所だ。製鉄や製紙、フィルム・ガラス製造で使われるロールのほか、発電所のタービンや特殊ポンプ用のシャフトなど、大型・長尺の難削材を高精度に加工する。
加工対象物(ワーク)によっては、国内で2、3社しか一貫生産できないロールやシャフトも多く、同社の売り上げは顧客が「やってほしい」と依頼してきた特命受注が6-7割を占める。合い見積もりを経るのはわずか3-4割。櫻井伸也社長は得意分野を「ウチのテリトリー」と呼び、追随を許さない。
製紙機用のロール(直径915ミリメートル、全長6200ミリメートル)
桜井鉄工所が新たに提供を始めたのは、直径400-500ミリメートル、長さ7-8メートルの発電所設備用の大口径・長尺タービンシャフト。素材や口径にもよるが、一般的にシャフトは長さが6メートルを超えると、加工時に自重によるたわみや振れ、しなりを制御するのが難しくなり、精度を出しにくくなる。このため、大口径・長尺を得意とする同社でさえ、タービンシャフトは直径200-300ミリメートル、長さ5-6メートルまでの対応が長らく続いていた。しかし、設備投資と独自の加工技術によって長さ6メートルの壁をクリア。8メートルシャフトにおいても高い真円度と円筒度を実現した。
高精度な大口径・長尺タービンシャフトの実現は、発電所の設備設計において重要な意味を持つ。近年、発電所は効率化とメンテナンスの観点から、タービンを大型化する方向にかじを切っているからだ。シャフトの円周上に設置されるブレード枚数を増やすには大口径化、軸方向にブレードの段数を増やすには長尺化が必須となる。一方、タービンの出力が高まり、回転速度も上がるため稼働時のガタが出やすく、真円度や円筒度が低ければエネルギーがロスし、不具合も出やすい。大口径・長尺と高精度。これらの両立を実現した同社の加工技術は、エネルギーインフラの進歩を支えている。
桜井鉄工所の原子力発電所向け製品
シャフトは設備の中心にあり、周囲に部材や機器が取り付けられるため外部からは見えない。このため、不具合が起これば周辺の部材や機器を取り外す大がかりな手間が発生する。また、回転のわずかなガタが共振という形で周辺機器にトラブルを起こすこともあり、櫻井社長は「極めて重要な部品の加工を任せてもらっている」と自負する。高精度な大口径・長尺シャフトを求めるのは発電所のタービンだけではない。近年では、シエールガス採掘で使用するポンプでの採用や、風力発電の軸としての引き合いが始まり、活躍の場が徐々に広がっている。
顧客から、タービンシャフトの長尺化対応で保有設備の問い合わせが来たのは約4年前。「ちょうど新しい旋盤の導入を検討している」と答えた櫻井社長に、顧客は「じゃあ対応できるよね」と一言だった。長さ12メートルのシャフトやロールの加工に対応するNC旋盤の投資はあっさりと決まった。
「古い機械は故障頻度が高まり、交換部品も調達しにくい。稼働率や顧客への納期に影響する」と合理的に判断する櫻井社長にとって、投資は定期的に実施するもの。需要があるから投資に踏み切るのではなく、時期が来れば最新の工作機械に粛々と投資する。強固な財務基盤を持つ鉄工所にしかできない投資スタイルだ。過去10年間だけでも、旋盤を2台、研磨機、5面加工機など、1台で1億円弱や2億円といった大型工作機械の投資を続けている。設備更新とタービンシャフトの長尺化ニーズはタイミングがうまく重なった。
設備だけでは長尺製品の精度は出せないと櫻井社長
ただし、最新の設備があっても一筋縄ではいかないのがタービンシャフトの加工。櫻井社長は「工作機械は今や勝手に加工してくれるイメージがあるが、ここまでシャフトが長くなると、加工者の手先のハンドリングが必要になる」とその難しさを語る。
回転するワークに触れながら手先の感覚で圧を確認したり、ダイヤルゲージを当てて振れを見たり、砥石の圧に気を配ったり―。現場の職人が新たな設備やワークと対話を繰り返しながら加工精度を高めていった。
一方、長尺ワークを測ることができる真円度測定器も独自に開発した。測定には多くの手間や時間がかかるため標準サービスとしては展開していない。しかしトラブル時や、顧客から要求があった際に、数値として精度を明示できるようにしたことは今後、さらなる精度を追求する同社にとって強力な武器になる。
桜井鉄工所の加工物は、ロールが6割、シャフトが3割、その他が1割の比率。今後、大口径・長尺シャフトの高精度加工技術をロール加工にも転用していく考えだ。同社がこれまで得意としてきたのは、高温環境で使用する鉄鋼用の大口径ハースロールや、長尺の製紙ロール、製フィルムロールなど。いずれも設備の効率化志向によって、ロールの大型化と精度維持が求められる分野であり、耐久性向上に向け素材も年々進化している。同社では、砥石を数十種類、枚数で数百枚を常備し、焼き入れや窒化、浸炭、めっき、溶射といった処理を施した難削材を加工できる体制を既に構築している。これらの素材が大口径・長尺化しても高精度に加工できる技術の確立を目指す。
大口径、長尺製品のさらなる高精度化を目指す
また、半導体製造装置や箔といった分野のロールもターゲットになる。薄型化が進む素材では、ロールの精度確保が不可欠。面粗度が粗ければ素材に模様がついてしまうが、「ツルツル過ぎてもロールが空回りするため、要求する公差に全面を収めなければならない」と櫻井社長は解説する。面粗度が部分的に異なったり、素材を挟み込む2本で差があったりすれば、面粗度の粗い方が素材を引っ張り、ツルツルした方では素材が滑るため、極薄素材はいとも簡単に破れてしまう。櫻井社長は「他社ができないことをする」というポリシーを掲げ、繊細な素材を扱う高精度ロールを新たな“テリトリー”とする考えだ。
「顧客1社の受注は5%に抑えるのが基本方針」と櫻井社長。桜井鉄工所は特定業種や特定企業に依存しないバランス経営で、安定した設備投資を継続するための収益力を長年維持している。加えて、技能継承や人材育成においても、各種工業会の座学や、独自に契約したコンサルティング会社での研修を通じ、地道に続けてきた。新たなテリトリーの確保で収益を多様化し、財務をさらに安定させ設備と人材への投資余力を生み出す好循環へとつなげる。
設備力と技能は桜井鉄工所の両輪。どちらが欠けても継続的な発展はないと考えている。中でも常に心掛けているのは社員一人一人の成長と、仕事を楽しめる環境づくりだ。当社の仕事は大型や長尺の特殊鋼を扱うことが多く、精度もシビアでプレッシャーは決して小さくはない。
このため、社員の緊張を緩和する目的で、あえて簡単で納期の長い仕事も取り混ぜる取り組みを進めている。また30年以上も前から全館冷房を採用し、スポットクーラーを主とする通常の鉄工所とは環境面で一線を画していると自負している。社員と会社が着実に成長し続ける。これが経営者としての目標だ。
▽企業名=株式会社桜井鉄工所
▽代表取締役社長=櫻井 伸也
▽所在地=大阪府大阪市西成区南津守5-4-9
▽設立=1941年10月
▽売上高=約6億円(2020年12月期)
▽従業員=38人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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