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最終更新日:令和5年3月15日
境川工業は産業機械に組み込む熱交換器を手がける。ニーズに応じた特注生産の熱交換器を乾燥機や工業炉、ボイラーなどさまざまなメーカーに供給しており、これらのエンドユーザーの業種も多岐にわたる。中でも現在、引き合いを集めるのが二次電池の製造ラインで使われる乾燥機。世界的なクルマの電動化を背景に急速に需要が高まる。
本体の小型化を目指す乾燥機メーカーはより高効率でコンパクトな熱交換器を求める。この要請に応えたのが「高効率ステンレス熱交換器放熱フィン」だ。独創的なアプローチでフィン形状を工夫し、従来比15%の能力向上を果たした。革新的な熱交換器によって、最先端の電池生産プロセスが進化する。
境川工業が開発した「高効率ステンレス熱交換器放熱フィン」は、伝熱管(チューブ)と放熱フィンとの密着度を考えられる極限まで高め、生産性などを犠牲にすることなく、熱交換器の高効率化を実現した。
新開発の放熱フィンを採用した熱交換器
熱交換器メーカーにとって高効率化・コンパクト化は常に検討し続ける技術課題だ。フィンチューブ式熱交換器の性能は、伝熱管と放熱フィンとの密着度や密着形状などによって大きく左右される。密着度を高めるには、チューブを広げる方法やフィンとチューブをロウ付けする方法などが考えられるが、大きな工程変更を伴い、コスト増や生産リードタイムが長くなるなどの弊害もあった。
そこで同社は放熱フィンの形状に着目して、伝熱管との密着度を高める新しいアイデアをひねり出した。詳細は「企業秘密」だが、「(チューブが通る)穴の径と(チューブと接する)〝立ち上がり〟部の形状を工夫した」(眞田博之社長)。
ただ理想的な形状にたどり着いたものの、ステンレスの薄板をこの形状に成型するのは極めて難しかった。通常の加工では歪みや破断を招いてしまう。特にプレス成型は社外に委託していることから、「金型の工夫に加えて、協力会社における工程見直しが不可欠だった」と眞田社長は振り返る。
伝熱管とフィンとの接触部分を工夫した
解決を図るため、委託先の全面的な協力を得た。ともに取り組み、幾度もの試行錯誤を重ねた末、量産にも成功した。境川工業の工場では従来の熱交換器と同じ工程で新形状のフィンが組み付けられる。需要が急増する中、たとえ革新的であったとしても、生産能力に影響を及ぼすような工程の変更は受け入れ難い。熱交換器そのものの工程を変えず、フィン形状の改良のみで、高効率化をなし得たことの意義は非常に大きい。
眞田社長は「常にお客さんからは、コンパクトな熱交換器が欲しいと言われ続けてきた」と話す。新たなフィンを搭載した熱交換器は、エネルギー伝達効率を従来比15%高める実力がある。これにより装置メーカーから求められる能力に対して、熱交換器を小型に作ることが可能だ。
もちろんこの成果は熱交換器を組み込む産業機械のコンパクト化やコスト抑制などに波及する。乾燥機などを利用するエンドユーザーにとっても、日々のエネルギー利用効率が高まり、エネルギーコストの削減、さらには地球環境にも優しい生産ラインの実現につながる。
常に“よりコンパクト”が求められると眞田社長
熱交換器のフィンにはアルミニウムなどさまざまな素材が使われる。今回、腐食に強いステンレスを用いたのは二次電池の製造ラインで使われる乾燥機向け熱交換器への適用を前提にしたからだ。ステンレスフィンの熱交換器は、この素材特性から、腐食ガスの雰囲気で使われることが多い。リチウムイオン電池の電極やセパレーターフィルムの製造装置などでは欠かせない条件だ。
二次電池の需要は車載用を中心に急伸しており、新たな製造ラインの立ち上げが世界各地で相次いでいる。電池メーカーが国際競争に勝ち抜くためには、生産ラインの構成がコンパクトであることも優位性に大きく寄与する。
エンドユーザーの使用環境は把握できないが、境川工業が製作した熱交換器は、製造設備に組み込まれて国内外に出荷されており、世界中の電池生産ラインで相当数が稼働していると見られる。高効率熱交換器が評価されれば、さらなる需要増が見込めると期待は高まっている。
境川工業は2021年3月、本社近隣地に第2工場を稼働した。生産能力の増強が狙いだ。順次、設備の導入や増員を進める。受注の勢いに現状、陰りは見えない。早くも「第2工場では足りなくなる」(眞田社長)との見通しもあり、旺盛な需要にうれしい悲鳴を上げているところだ。
3月に稼働した第2工場
当面は二次電池製造ライン向けで手いっぱいだが、今回、開発したフィンはステンレス素材以外でも展開でき、さまざまな産業機械向け熱交換器への応用の可能性に富んでいる。
ボイラーに組み込めば、能力を落とすことなく、ボイラー本体を小型化できる。伝熱面積を小さくすることにより、オペレーターに必要とされるボイラー技士等の資格要件の緩和にもつながる。溶剤回収装置に組み込めば、省エネルギー化の実現可能性も高まる。
さらに営業提案の〝武器〟にもなる。これまで装置メーカーから要求された仕様に対して最適な熱交換器を素早く選定して提案してきた。付加価値の高い高効率熱交換器を選択肢に持ったことで顧客に複数の提案が可能になる。眞田社長は「2、3案からベストを選んでもらえる」と胸を張る。
同社のモノづくりは、眞田社長が「品質面でのクレームはない」と自負するように品質への保証を〝セールスポイント〟にしている。今回開発した高効率熱交換器も社内に備えた能力試験装置で評価したほか、大阪府立大学の協力を得て能力結果を検証。さらに大阪産業技術研究所の協力で各種試験や分析を行った。革新的な熱交換器を「安心と信頼をともに提供する」、眞田社長は力を込める。
当社はガスの温度を昇降させる熱交換器を得意としている。独自開発の「熱量計算プログラム」を使うことで、能力などの条件を提示してもらえば、最適な熱交換器を素早く提案できる。能力試験装置も持ち、品質保証の体制も万全だ。熱に関する困りごとや、問い合わせに丁寧に対応することをモットーとしており、迅速な回答を心がけている。
製造部門は熟練者の技能に支えられており、一部に自動化設備による品質の向上にも努めている。受注が急増しているため、2021年3月に第2工場を稼働し、生産能力を高めた。今後、増員や、さらなる拡張も構想している。これからも満足いただける製品を通じて社会に貢献していきたい。
▽企業名=境川工業株式会社
▽代表取締役社長=眞田 博之
▽所在地=大阪府堺市美原区大保210-1
▽設立=1948年1月
▽売上高=約10億円(2020年12月期)
▽従業員=48人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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