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最終更新日:令和5年3月15日
金属素材と化学プロセスの両方の知見が求められる金属表面処理薬剤は、大手・中堅企業がしのぎを削る。上位5社の中で唯一、上場企業や上場企業のグループ会社ではない異色の存在が、業界3位の貴和化学薬品だ。「もう少し錆びにくく」「もう少し滑らかに」、顧客の声に応え、拡大した薬剤ラインアップは約300種。田中健治社長は「気が付けば、“他社はめんどうでやらない”という障壁ができていた」と振り返る。
しかし築いた牙城で守勢に入る気配はない。2018年に市場投入したのは新たな薬剤ではなく、薬剤を自動測定・補給する装置だった。「化学屋にしかできない」(田中社長)装置で、顧客の濃度管理作業や品質バラつき解消に挑む。
ニーズに答えるうちにポジションが決まったと、田中社長
業界で事業規模上位の薬剤メーカーが手がけるのは、製鉄会社の処理鋼板や自動車のボディーなど薬剤を大量に使用する分野。一方、貴和化学薬品が得意とするのは工作機械の筐体や自動車部品、建設機械、スチール家具などで、多品種少量ニーズの市場を確保している。多様な金属表面処理ラインを見続け、共通する課題として同社が着目したのが、薬剤濃度測定・補給の作業だ。
開発した金属表面処理用自動薬剤濃度測定補給装置(スマートコントローラー)は、薬剤槽につなげたチューブから自動で薬剤を採取し、濃度の過不足を判断して調整する。遊離酸度や全酸度、促進剤、pH、酸消費、鉄イオン量などの測定によって、各種薬剤の濃度を割り出す。
脱脂や防錆、塗料との密着性向上などの塗装前処理や、潤滑性を高める冷間鍛造前処理などの薬液処理ラインは、各槽で段階的に化学反応を起こしている。田中社長は、「薬剤の性能に加え、現場で濃度や温度、時間を丁寧に管理しないと狙い通りの化学反応が起きない」と指摘する。
手補給との濃度推移比較
現在は、人が薬液槽から定期的にサンプリングし、中和滴定などの方法で濃度測定し、必要に応じて調整する手法が一般的。作業者の注意力や熟練度で多少のバラつきが出てしまうのが実態だ。さらにバラつきは経時変化によっても起こる。操業時間や処理内容、加工物の大小にもよるが、薬剤濃度の測定・補給は通常、1日あたり1-3回。インターバルが長いため、補給直後は濃度が規格値上限の“濃いめ”、補給直前は規格値下限まで“薄め”になるか、時に規格値を割り込み濃度不足で不良が発生する。
一方、スマートコントローラーは1時間に1度、濃度を適正化するため、これまでよりシビアな規格値でベストポイントを維持でき、「濃度に起因する不良は理論的にはゼロになる」(同)。さらにデータが自動で蓄積されるため、トレーサビリティーでも効果を発揮。作業者が危険な薬液処理ラインに近づいて採取する必要がなくなり、1日で1-3時間ともされる手間も省くことができる。
スマートコントローラーの開発に着手したのは約10年前。金属イオン量を測るセンサーや、電位差を測るORP電極など汎用センサーを組み合わせて濃度を測定する手法の開発を試行錯誤し始めた。しかし、薬液は多様で、種類によってピークの出方が異なる。どのセンサーを組み合わせ、何を測定するか。出た数字を濃度として従来の手分析のどの数字に読み替えるか。果てしない検証の繰り返しだった。「おそらく装置メーカーにはできない」。田中社長は薬剤を扱う自社が手がけた意義と誇りをにじませながら、「しかしめんどうくさい作業だった」と破顔する。
スマートコントローラー本体
一方、「濃度を知ることができても、信号を出してポンプを動かし、薬剤を補給する制御のノウハウがない」。田中社長が「どうしたものか」と考えあぐねていた時に知ったのが、めっき業界で使われている薬剤の測定補給装置だ。製造しているのは、めっき薬剤大手の石原ケミカル。田中社長は「めっきラインでは主に金属イオン量のみで濃度を測定するが、装置構造はおそらく同じになるはず」と踏んだ。測定したい項目の資料とセンサーを持ち込み、装置の製作を依頼して共同開発にこぎ着けた。
強力なパートナーを得てスマートコントローラーを形にした。しかし「実は、鳴かず飛ばずで、最初の1年は売れなかった」と田中社長は明かす。もともと、測定・補給作業に着目したのは手間削減ニーズがあると予測したからだった。貴和化学薬品の薬剤販売スタイルも売り切りではなく、担当者が定期的に顧客の現場に出向き、納入した薬剤があらかじめ決めた濃度や温度で使われているかのチェックに時間を費やしていた。営業技術社員と顧客の社員の手間の一挙解消を狙った開発だった。しかし手間の削減だけを強調した営業では、顧客から「間尺に合わない投資」と判断された。ただ、約1年後、潮目が変わった。大手企業から、トレーサビリティーや、前後工程とIoTでつなぐ一元管理などを目的とした受注が相次いで入り始めた。装置自体は開発当初と比べ大きく変化したわけではない。「時代の変化で装置の意味合いが変わった」ことに田中社長は驚きを隠さない。
スマートコントローラーの納入は大手企業を中心に40台に達した。導入意欲の強さから、田中社長は「急激にモノづくりが変化している」ことを肌で感じ取っている。今後の課題は、同社の従来の顧客基盤層である中小・中堅企業に装置のメリットを理解してもらい、導入につなげることだ。「間違いなく競争は激化する。我々も、顧客も共に生き残らなくてはならない」と意を新たに、提案営業の強化を進めている。
一方、皮肉にも、早々と装置の意義を高く認めたのは同業者だ。「やはりプロだから、その価値にすぐ気づく」と田中社長は苦笑する。金属表面処理薬剤の大手メーカーも測定・補給自動装置を市場に投入してきた。ただ、焦りは見られない。「装置は項目の選定や、素材と後工程を考慮した濃度基準値設定など、顧客にフィットする仕様に詰めていく必要がある」(同)。その“めんどうくさい”作業は、貴和化学が薬剤ラインアップ拡大で長年にわたり培ってきた得意分野だ。大手企業が規格化した装置で対応できる分野では競合するケースはあるが、カスタマイズを要する分野の装置需要は圧倒的に多い。
スマートコントローラーの設置例
また、許可をもらった顧客と装置のデータを共有し、薬剤や工程の改善を提案する取り組みも既に始まっている。「新たな薬剤の提案はもちろん、時系列データを見ることで傾向値がつかめてトラブルも回避できる」と田中社長は手応えを語る。表面処理薬剤の種類や顧客業種が多様な貴和化学薬品には、豊富なデータが集まり、将来の技術の広さと深さが増すことになる。
データで改善提案する仕組みや体制は整った。ただ、装置をより広く普及させたり、データをより深く活用したり、環境対応型の薬剤を開発したりするなど、我々がすべき事は多い。
現状、約70人の人員を5年内に1.5倍に増やす目標を掲げており、M&Aや同業他社との協業も視野にいれ強化していく考えだ。取引先や社員など関わる全ての人が継続的に発展する会社が目標。顧客とともに、次世代にふさわしいものづくりを目指したい。
▽企業名=貴和化学薬品株式会社
▽代表取締役社長=田中 健治
▽所在地=大阪府吹田市垂水町2-20-25
▽設立=1953年4月
▽売上高=約27億円(2021年9月期)
▽従業員=70人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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