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最終更新日:令和5年3月15日
ジェイテックコーポレーションはクラボウの技術者だった津村尚史社長が1993年に立ち上げた。創業当初は住友電気工業と共同で各種自動細胞培養装置の開発販売を手がけ、2005年大阪大学のナノ加工計測技術を基に放射光施設用のX線ナノ集光ミラーの実用化に成功した。
現在はこのオプティカル事業と創業当時から手がけるライフサイエンス・機器開発事業の2本柱で事業を展開する。大阪大学や理化学研究所など産学連携による共同開発で、ニッチながら最先端の分野に切り込む。50人の社員のうち16人が博士号を持つのも強み。2018年には東証マザーズ市場に上場。そのわずか2年半後の2020年9月には東証1部に市場変更した。
3次元大量細胞継代培養技術「J-iSS(ジス)」は、iPS細胞を立体的に高品質・高効率・低コストで培養する。「継代」とは培養した細胞の一部を採取し別の容器に移すことで、2019年に継代作業の新手法として実用化に成功した。
iPS細胞は培養容器に付着しながら増殖する。培養には酵素による剥離や、酵素除去のための遠心分離など煩雑な工程が求められ、作業者の熟練度によって異物が混入してしまうなど再現性が悪いという課題があった。課題が認識されていながらも何十年と変わってこなかった作業だが、同社の技術が変革をもたらした。新手法は閉鎖した空間で工程が進むため、作業者の技量を問わない。再現性も高く、広く浸透しつつある。
「J-iSS」は3次元回転浮遊培養装置「CellPet(セルペット)3D-iPS」と、物理的にスフェロイド(細胞塊)を小片化して増殖を促す「CellPet FT」で構成する。
3次元回転浮遊培養装置「CellPet 3D-iPS」
「CellPet FT」でスフェロイドを一定サイズに小片化し、「CellPet 3D-iPS」の容器をそのまま使って、スフェロイドを物理的に金属メッシュフィルターに通過させる。容器には細胞懸濁液を入れ、空の容器とメッシュを介して接続する。上下を入れ替え、細胞が沈降し終えるのを待ったうえで、容器の内筒を自動制御で押し引きし、細胞を一方方向にメッシュに通して小片化後の細胞懸濁液を取り出す。細胞塊によって使用するメッシュの開口サイズが異なり、内筒を押し引きスピードの条件について最適化する必要がある。単純なようで難易度の高い工程を担う。
スフェロイドを一定サイズに小片化する「CellPet FT」
回転浮遊培養と小片化・分散工程を繰り返し、iPS細胞も3次元形状のまま増殖することができるのも特異技術の一つ。2つの技術を組み合わせることで継代培養の総作業時間は約20分と、従来の約6分の1に短縮できた。さらにこのシステムで1億個のiPS細胞が得られることも分かった。
同社のライフサイエンス・機器事業の歴史は長い。1994年にモノクロナル抗体作成用の細胞のために大型の細胞培養装置を開発。次々とお客様のニーズに応える形で各種装置を開発していった。もちろん当時は再生医療やiPS細胞などは存在しなかった。再生医療が注目されるのは2000年以降のことだ。
「J-iSS」の開発は2005年、15年前に遡る。同社はこの年から独自で細胞の浮遊制御技術の開発に着手した。一方、同時期に産業技術総合研究所も回転培養技術の開発に取り組んでいたことから、共同研究をスタートした。この成果として確立したのが円筒型容器を回転させて細胞を立体的に培養する画期的なシステムだ。
3次元細胞を製造する独自技術「CELLFLOAT(セルフロート)」がベース技術になった。円筒形のシリンジ(注射筒)内を細胞が懸濁された培養液で満たし、常時容器を回転させると容器の内側には上向きの流れが生じる。その流れによって生じた浮力が細胞にかかる重力と釣り合うことにより細胞は浮遊し続け、この状態で培養が進められる。
3次元細胞を製造する「CELLFLOAT」がベース技術
従来のディッシュ(シャーレ)による培養は細胞への栄養や酸素の供給が不十分だった。インペラーで攪拌する方式もあるが、刺激が強すぎて細胞が破壊される懸念があった。この方式は、津村社長が「細胞にやさしい技術と評価していただいている」と話すように、回転により生じた穏やかな流れによる培養環境を実現でき、3次元培養によって粒度の揃ったスフェロイドを得られる。また閉鎖系のシステムになっており、異物の混入を低減できるなどのメリットもある。
2014年には戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)に採択され、iPS細胞の3次元培養に関する研究をスタートした。計画終了後も、サポインの資金だけでなく、AMED(日本医療研究開発機構)の競争的資金を獲得。横浜市立大学医学部と共同で、革新的なヒト弾性軟骨デバイスを用いた頭頸部弾性軟骨欠損疾患に対する新規治療法の開発にも取り組んでいる。
すでに革新的な技術ではあるが、市場においてはこれから求められていく技術でもある。再生医療の普及を見越してさらに大量のiPS細胞を効率良く培養できる製品の開発を進める。
この「J―iSS」は、回転浮遊培養装置を180万円、小片化・分散装置を380万円に設定した。従来の同社の細胞培養装置はおおがかりなもので、基本はカスタムメードで高価だった。「汎用化して普及させたい」との思いがこの価格に込められている。複数の大学・研究機関や企業に提案しており、すでに大学・研究機関を中心に10件以上の実績ができている。この実績をもとに企業にもさらに攻勢をかける。
津村社長は価格を抑えて普及を狙う
ライフサイエンス・機器開発事業の顧客は100%が国内。海外が80%を占めるオプティカル事業とは好対照だ。ただライフサイエンス・機器開発事業も海外からの引き合いが多くなっている。中国や米国に展開すべく、準備を進めているところだ。大型の培養装置と比べ、「J-iSS」はほぼメンテナンスフリー。扱いやすく、培養時間を大幅に短縮でき、得られる細胞数も多い。ライフサイエンスの進歩が加速する。将来は「年間100セット、海外比率50%を目標に、ライフサイエンス事業の核のひとつにしたい」と津村社長は意気込む。
当社は設立当初より一貫して「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する」経営理念のもと、失敗を恐れず誰よりも早く挑戦し結果を追い求めている。
柱のひとつである自動細胞培養装置では、長年、産業技術総合研究所と研究開発を進めてきた。独自の3次元浮遊培養技術をもとに、今後の需要拡大が期待される再生医療分野やiPS細胞向けを対象に成果を出せた。ライフサイエンス分野は各種の培養装置が提案され、次々と新しい技術やサービスが誕生している。この変化にいち早く対応し成長し続け、細胞培養関連機器のトップ企業を目指す。
▽企業名=株式会社ジェイテックコーポレーション
▽代表取締役社長=津村 尚史
▽所在地=大阪府茨木市彩都やまぶき2-5-38
▽設立=1993年12月
▽売上高=約8億円(2021年6月期)
▽従業員=45人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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