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最終更新日:令和5年3月15日
日榮新化は粘着フィルム材料の総合メーカーとして、日々“新化”を続けている。表面基材、粘着剤、剥離紙(剥離フィルム)の3層構造からなる粘着フィルム技術を生かした製品開発に取り組み、印刷会社向けなどBtoB分野を中心に販売してきた。1957年創業の同社は粘着分野では後発だったため、生き残る術を考えた。行き着いた答えは顧客の要望に応じた粘着製品を開発するカスタムメードへの特化だった。以来、ほぼすべてがBtoB製品で、カスタムメード製品は売上高の約80%を占める。顧客の要望に応える商品をスピーディーに開発し続ける中で、BtoC向けの端緒となる「ハルシックイ」シリーズが生まれ、新分野進出への手応えを得た。
「ハルシックイ」シリーズ製品
「ハルシックイ」は漆喰(しっくい)を同社のコーティング技術でフィルム化し、粘着シート化した貼るタイプの漆喰シート。漆喰は消石灰を主成分とする自然素材で、国内外で古くから外壁材などとして用いられてきた。不燃性や消臭性、調湿性、揮発性有機化合物(VOC)除去、抗菌・抗ウイルス性、安全性など多様な機能、特性を有する。ただ建築材料として使用する場合には、厚く塗る必要があり、施工性や水分と反応して硬化するのに時間がかかるなど難点があった。
「ハルシックイ」は薄い粘着シートにしたことで、漆喰独特の風合いや機能性を維持しながら、施工が劇的に容易になった。粘着面には同社が開発した特殊な粘着構造「マトリクス技術」を用い、無数の凸面を設けている。これによって生じる縦横に走る極細の溝から、エアー、ガスが抜ける。粘着シートやフィルムを貼り付ける際に気泡をかみ込んでしまうトラブルを防いで、貼り損じをなくし、施工時間を大幅に短縮できる。
「効果を伝えやすかった」と話す清水社長
2018年3月の発売から2年、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めたことで、「ハルシックイ」の抗菌・抗ウイルス性能が脚光を浴びた。主成分の消石灰(水酸化カルシウム)は水分と反応して強アルカリ性(pH11以上)となり、ウイルスや菌を不活化する。清水寛三社長は「ウイルスや菌を不活化するメカニズムが明確で、消費者に効果を伝えやすかった」と語り、ハルシックイの抗ウイルス特性を普及拡大につなげた。
「ハルシックイ」開発のヒントは関西ペイントが開発した漆喰塗料「アレスシックイ」にあった。日榮新化では、漆喰を塗装できるようにしたアレスシックイを見てその性能に感心するとともに、塗る作業に手間がかかる問題を解決してさらに簡単に施工できるよう粘着シート化に取り組んだ。
ハルシックイの構成
フィルム基材上に塗料「アレスシックイ」を塗布して試作したが、当初は表面の薄い漆喰層が乾いて硬化するとひび割れして粉々になってしまった。「どうにかして粉落ちしないようにできないか」という課題に対し、同社がそれまでに蓄積してきた化学に関する知見と特殊コーティング技術をフル活用して工夫を重ねた。漆喰層にさまざまな添加材(剤)を混ぜ込んで試行錯誤を繰り返した結果、シート全体がしなやかになり、粉落ちする心配のない製品が生まれた。
漆喰層にアレスシックイを使用しているため、発売を前に関西ペイントにあいさつに赴くと、応対した関西ペイントの役員は「我々にはシート化する発想はなかった」と驚きを隠さなかった。その場で、ハルシックイを両社それぞれが販売することも決まった。
日榮新化がハルシックイを商品化できたのは、常に粘着シート技術を生かせる新製品を探し求めていたのに加え、アイデアを形にする技術、多品種少量生産をスムーズに行える生産体制などが整っていたことに要因がある。4代目として2014年に就任した清水寛三社長は大学卒業後2年間粘着シートメーカーで修業した経験を基に、日榮新化の営業、製造、人事などあらゆる社内システムを革新してきた。創業者から引き継がれている「新しいことにチャレンジする社風」と、自らの代で構築した社内システムがうまくかみ合って、初めてのBtoC製品が生まれた。
ハルシックイは当初、玄関やげた箱内に貼り付けて消臭材としての使用を想定した商品を展開していたが、新型コロナウイルス感染が拡大した2020年には抗ウイルス製品に対する消費者の関心が急速に高まり、製品種類を広げて約2億円を売り上げた。展示会に出品すると、ネット通販や小売店など約300社から引き合いがあった
さまざまな販路を模索する中で、課題も浮かび上がった。壁紙に使用してもらおうと住宅メーカーなどに話を持ちかけたが、効果持続期間が180日と短いことがネックとなり、採用には至らなかった。漆喰部分を厚くすると期間は延びるが、今度は製造が難しくなる。そこで長期間使用する箇所ではなく、まずは効果が持続する期間内に気軽に使ってもらえる場面を想定した展開にかじを切った。
ハルシックイの用途
同社には新しいことにチャレンジする社風が根付き、顧客ニーズに即した新製品を次々に開発してきた。ハルシックイに関しても、清水社長は「使いやすさをアピールし、BtoC展開を広げていきたい」と矢継ぎ早に製品展開を進めている。すでにBtoC製品だけでも約20種類を開発、「HALLO(ハロウ)」シリーズとして、階段手すりなど手の触れる場所に貼り付けられる「抗ウイルス感染対策テープ」やマスクを二つ折りに収納する「抗ウイルス消臭マスクケース」など多彩な商品を発売している。
清水社長は「抗ウイルス対策を前面に押し出してきただけに、新型コロナ感染が収まってくると急に売れ行きが鈍るのが悩みの種」と苦笑いするが、ハルシックイは抗ウイルス性以外にも多様な機能を有しており、消費者を引きつける製品展開には無限の可能性がある。各機能を生かせる用途に使いやすさを付加した新製品を投入していくことはもちろん、製品を基にしたサービス展開も視野に入れながら、ハルシックイを核とする事業を広げる。
粘着フィルムという狭いフィールドの中で、小ロットでカスタマイズできる分野に特化して、常に新しい技術や製品の開発を続けてきた。一言で粘着フィルムといっても、工業材料、印刷材料、広告材料、インテリア向けなど用途は多岐にわたる。これまでにつくった製品種類は1万4000点に及び、さらに新製品開発を常に意識し、毎年800種類以上の新製品開発を目標に掲げている。そのために営業・技術担当が顧客を同行訪問し、顧客の要望を聞いてすぐに製品化、工場もフレキシブルに多品種少量生産できる体制を構築している。新製品を素早くつくり、お客さまの反応を見て、さらに改善していくサイクルを重ねていきたい。
▽企業名=日榮新化株式会社
▽代表取締役社長=清水 寛三
▽所在地=大阪府東大阪市若江東町6-1-33
▽設立=1967年7月
▽売上高=約86億円(2020年3月期)
▽従業員=321人
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