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小型高精度の微差圧計、半導体業界のニーズに応える、MEMSセンサー採用で高品質を実現
~株式会社山本電機製作所~

最終更新日:令和5年3月15日

山本電機製作所は、わずかな圧力差を計測できる微差圧計のリーディングカンパニーだ。主力製品の「マノスターデジタルセンサ QDP33」は、2021年4月に業界最低圧の10パスカル以下の測定が可能な新型機を投入。低微差圧をより高精度に測定したいという半導体製造装置メーカーからの難しい要求に応えた。
微差圧計はクリーンルームの陽圧管理や設備、装置内部の圧力管理などに用いられる。医療、原子力、食品、住宅など必要とされる分野はさまざま。こうした市場で着実に実績を積み重ねてきた。「世の中に無いなら、自分たちでつくろう」-、先代社長から受け継ぐ意欲的な気風で、海外市場も視野に入れながら成長戦略を描く。

10パスカル以下の測定を可能に

QDP33は、受圧部に微小電気機械システム(MEMS)センサーデバイスを搭載することで、小型、高精度化した。筐体は高さ30ミリ×幅30ミリ×奥行き30ミリメートルという手のひらに載る大きさ。デジタル表示機能やセンサーデバイス内蔵という特徴も備えた10パスカル以下を高精度に測定できる微差圧計は業界初となる。

10パスカル以下を高精度に測定できるQDP33
10パスカル以下を高精度に測定できるQDP33

一般的な微差圧計は測定時、どうしても0.75~1パスカル程度の誤差が生じてしまう。一方、新型のQDP33が実現した10パスカル測定では、誤差による影響はわずか0.1~0.2パスカル程度。より真値に近づけられる。
近年の半導体技術の急速な発展に伴い、半導体製造装置にはより高精度な微差圧の計測が求められるようになった。今回の製品は、このニーズに十分に応える性能を実現した。

校正室の整備によって高精度な検査を実現

山本電機製作所は1961年に初めて微差圧計の国産化を果たし、国内業界を牽引してきた。微差圧計は従来、「アネロイド型」と呼ばれる方式が一般的。過去には半導体製造装置向けも、ゴム製のダイヤフラム(圧力を感知する膜)を搭載したこの方式が使われていた。ただ、さらなる低微差圧を高精度に測定し、筐体も小型にしたいといった半導体業界の要求が高まり、同社では2000年代前半からMEMSセンサーデバイス方式への切り替えを検討し始めた。
当時、微差圧計用MEMSセンサーデバイスは海外から調達するしかなかった。しかし、製品の核心部分を海外メーカーに委ねれば、供給不足になった際に製品が作れなくなる。山本博和社長は「自分たちでやるべきではないか」と決意した。

外部環境に左右されないよう山本社長は自主開発を決めた
外部環境に左右されないよう山本社長は自主開発を決めた

MEMS研究が進んでいる大学を探し、2010年秋に東北大学との共同研究を始めることになった。だが、不幸にもこの半年後に東日本大震災が発生。研究室がある仙台市も甚大な被害を受けた。もちろん研究開発どころではなくなったが、諦めはしなかった。社会が日常を取り戻す中、取り組みを再開し、試行錯誤を重ねた。そして2018年ごろ、「QDP33」の量産に至った。
ただ、当時の計測性能は、最も低くて50パスカル程度までしか対応できなかった。このため顧客からの要望を受け、さらなる低微差圧への対応を進めていくことになる。
微差圧計は、測定する差圧の数値が小さくなると、その測定結果が正しいかどうかを証明することが非常に難しくなる。そこで社内に独自の校正室を整備した。温度や湿度だけでなく、緯度の違いよる重力差まで考慮に入れ、微差圧計の調整を進められるようにした。山本社長は「ドアの開け閉めすら影響するほど、精密な制御が必要。特別なトレーニングを積んだ技術者でないと作業できない」と、難しさを説明する。校正室内に入って数分間は静止し、空気の流れを抑えてから作業に取りかかるなど、繊細さを身に付けた技術者の育成が、品質を左右する。

社内に整備した校正室
社内に整備した校正室

こうした独自の開発・検査体制の整備が大きく貢献し、ようやく10パスカル以下に対応した新型機の発売に至った。現在は計量法校正事業者登録制度(JCSS)の認定取得も目指しており、顧客が求める品質要求へ、さらに対応する考えだ。

医療向けなどにも提案強化

現在、ガスタービンエンジン周辺機器事業も手がけるが、売上高の6割は微差圧計事業が占めている。主力の半導体製造装置向け以外にも、食品や住宅など空気の管理が必要な現場で、同社の微差圧計が広く活躍する。民生品分野ではコーヒーの焙煎機にも使われる。医療分野では新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、患者を隔離する陰圧室向けとしてもニーズが高まる。米国の疾病対策センター(CDC)のガイドラインに準拠するクリーンルームや陰圧室の室圧測定にも対応し、米国からも問い合わせが寄せられているという。10パスカル以下に対応するこの新型機はこうした分野へさらに積極的に提案していく方針だ。
2021年3月期の売上高は約21億円。今後は海外販売も強化する考えだ。とはいえ米国や欧州では地場メーカーが強く、海外市場参入のハードルは高い。現場の設備更新のタイミングを狙い、販売代理店を通じていかに販売を伸ばせるかが課題となる。

オフィス内に緑地スペースなどを設けて働きやすい環境を実現
オフィス内に緑地スペースなどを設けて働きやすい環境を実現

同社は、創業者で現社長の父である故山本肇氏が成長の基盤をつくった。ただ急成長ゆえに、職場環境の整備が十分とはいえず、息子である山本社長は改革の必要を感じていた。そのため本社では現在、リラックス効果が高い森林のような緑地スペースや、議論しやすいデザインの会議スペースを設けるなど、働きやすい環境を積極的に整備している。
モノづくりの品質が高くても、交渉力やチャレンジ精神が足りないと、せっかくの努力が十分に生かされない。社員の能力を最大限に引き出しながら市場ニーズを的確にとらえて、次の高みを目指す。

経営者メッセージ

足元の事業は好調だが、いつまでも続くかどうかは分からない。だからこそ社員全員が輝き、努力できるような会社にすることが大事だ。また、どれだけ良いモノを開発しても、それを社内や客先にうまく伝えられなかったら意味がない。そうした思いから、「明るく、楽しく、面白く。愛あるヒト・モノ・会社を共に創ろう」という企業バリューを定めた。社員に対しては、単なる結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスをしっかり評価するようにしている。今後も開発体制を強化しながら、海外展開も視野に入れて事業拡大を進めたい。

企業情報

▽企業名=株式会社山本電機製作所
▽代表取締役社長=山本 博和
▽所在地=兵庫県神戸市長田区西尻池町一丁目2番3号
▽設立=1971年7月
▽売上高=約21億円(2021年3月期)
▽従業員=134人

このページに関するお問い合わせ先

近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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