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環境に優しい消火剤に対応し、霧状化と放射音低減を両立させた静音形噴射ヘッド
~株式会社コーアツ~

最終更新日:令和5年3月15日

火災の際、水で消火できない環境では、粉末やガスを用いるのが定石だ。コーアツは1951年の創立以来、ガス系消火設備一筋に歩んできた。この分野のパイオニアとして業界をけん引する。製品は主にデータセンターなどで活用され、機器や装置を守り、社会を支えている。
消火設備は万が一の備え。使われないことがベストだが、常に安心して業務に携わるための“お守り”、“見張り番”的な役割を担っている。だからこそ、日々の技術力・開発力の向上が欠かせない。この積み重ねが新しい消火剤に対応する静音形噴射ヘッドの開発につながった。日常生活でコーアツの製品を目にする機会は少ないが、デジタル化が進む現在、この存在価値が高まっている。

音量は約100デシベル達成、大口径や壁面取付タイプは初製品化

新消火剤対応静音形噴射ヘッドは、消火ガスの放射設備に使われる。コーアツはヘッドから360度の方向に放射する「天井取付タイプ」と、直線状に放射する「壁面取付タイプ」をラインアップ。両タイプとも新たなハロゲン化物消火剤として注目される「FK‐5‐1‐12」に対応した。FK‐5‐1‐12はオゾン層破壊係数がゼロ。フッ素系ガスと異なり、オゾン層を壊さず、地球温暖化の防止につながる高い環境性能を持つことで注目を集める。

新消火剤対応静音形噴射ヘッド天井取付タイプ
新消火剤対応静音形噴射ヘッド天井取付タイプ

常温では液体で存在するFK‐5‐1‐12を噴射ヘッドで細かな霧状に放射、拡散する。消防法で規定されるガス放射量をクリアし、さらに従来のガス系消火設備で130デシベルほどだった放射時の音を、車のクラクションレベルの約100デシベルまで抑えたのが大きな特徴だ。
天井取付タイプは配管の口径サイズに応じた20A、25A、32A、40Aの4モデルをそろえる。中でも大口径の40Aは同社が世界に先駆けて開発に成功した。口径が大きく、ガスの放射量が多くなり、設置数を減らせる。導入コストはかかるが、設備全体のコスト削減につながる。一方の壁面取付タイプは主に床下などのスペースへの設置を主眼に置く。FK‐5‐1‐12を霧状に、しかも直線的に放射でき、なおかつ静音性を確保した世界で唯一の製品となっている。こうした機能面だけでなく、他社にないコンパクトでスタイリッシュなフォルムも注目を集める。

高度な技術・開発力と使命感が結実

静音形噴射ヘッド開発のきっかけは、2010年にさかのぼる。この年、一つの論文が発表された。そこには、音の大きさがハードディスク駆動装置(HDD)や精密機器に影響を及ぼす趣旨の内容が記されていた。影響があると指摘された音の大きさは110デシベル。消火設備が発する音もこれに含まれていた。
HDDや精密機器が使われるデータセンターなどでは、以前からガス系消火設備が用いられてきた。しかし、ガス系消火設備が発する音は飛行機のエンジン音を間近で聞くのに匹敵する130デシベル。関係するメーカーとして静音対応の必要性を感じた。「消火性能を維持しつつ音を抑え、機器や装置に障害を発生させないようにしたい」(藪下真大技術部門開発グループリーダー・部長)との思いで、すぐ開発に着手した。
消火ガスの放射量を維持したまま、静音性を高める。これは相反する要求だ。構造の抜本的な見直しが必要だった。藪下部長らはまず、窒素ガスに対応する静音形噴射ヘッドの開発に照準を合わせ、2010年、製品化にこぎ着けた。この後、窒素ガスの機構を応用してフッ素系のハロンガスやHFC用ヘッドの開発を進め、次々とラインアップに加えた。新たな消火剤FK‐5‐1‐12に対応するヘッドの開発はこの経験をベースにスタートした。しかし、ここに新たな壁が立ちはだかった。
従来のガスは、常温でも気体として存在するため、そのまま放射できる。しかしFK‐5‐1‐12は常温では液体。放射する際に細かい微粒子にして霧状に拡散しなければならない。これをヘッドで行うとどうしても音が大きくなる。音を抑えようとすれば、霧状にならず消火能力が不十分となる恐れがある。消防法で規定されるガス放射量をクリアし、霧を細かくして音を抑える。この全てを満たす技術の確立はたやすくなかった。

佐々木社長は静音の重要性から開発を強力に推進した
佐々木社長は静音の重要性から開発を強力に推進した

試行錯誤を繰り返し、ヘッドの各部分の設計寸法や形状をミリメートル単位で調整を重ねた。試作品は数十個にも及んだ。ようやく先が見える段階に到達するまでに5年の歳月が経過した。霧状に拡散し、消火に耐える放射量を確保できるまでにはさらに3-4年。こうして天井取付タイプは完成した。さまざまなサイズのヘッドがあるが、音の大きさは約100デシベルを達成。ガス消火設備はヘッド周りでしか静音性を高める対応ができない。「必ず開発に成功し、製品を提供したい」(佐々木孝行社長)という使命感が結実した。天井取付タイプで培った技術は、FK‐5‐1‐12に対応する世界で唯一の壁面取付タイプの実用化という副産物も生んだ。

技術を追求する中で壁面取付タイプも実用化した
技術を追求する中で壁面取付タイプも実用化した

潜在需要大きく、販売強化で社会生活守る

FK‐5‐1‐12は環境負荷を軽減する。さらに絶縁性能が高く、電子機器に害を及ぼさないことから、データセンターなどでは消火作業後の汚損を低減し、迅速な機能復旧が見込める。環境に優しく、今後の活用が進むとみられるだけに、同社でもFK‐5‐1‐12対応ヘッドの開発は急がれていた。しかし約70年に及ぶ経験とノウハウを持つコーアツでも、窒素ガス対応のヘッド開発から約10年の歳月を必要とした。それだけ高度な技術力・開発力が必要だった。

データセンターへの設置イメージ
データセンターへの設置イメージ

窒素ガスやフッ素系ガスをカバーする静音形噴射ヘッドをラインアップし、さらにフッ素系ガスの代替消火剤となるFK‐5‐1‐12にも対応した。これを受け、同社は販売を強化する。音の影響をきっかけに開発した製品だけに、「データセンターなど音が影響する施設をターゲットに営業を展開する」と佐々木社長は力を込める。コロナ禍で急速なデジタル化が進み、「データセンターの需要はさらに高まることは間違いない時代になった。潜在需要は非常に大きい」(同)。機器や装置を守ることは、社会生活全般を守ることにもつながるだけに、活躍の場面をさらに広げていく方針だ。

経営者メッセージ

10年という時間はかかったが、静音形噴射ヘッドの開発に成功した当社の技術力はもちろん、携わったスタッフはナンバーワンだと誇りに思う。70年の経験から業界をリードしてきた中で培った技術力や営業力、施工力もあるが、最終的には“人材力”が一番の強みだ。
今後も変化の時代になることは間違いなく、今のままの消火設備を提供していけばいいとは考えてはいない。さらなる静音性の追求以外にも、工夫を凝らし、その時々の環境に応じた製品を常に開発・提供して新たな世界の開拓につなげていく。それには人材力が不可欠で、実現できる体制は整っている。ただ、そこに安住しない。全社一丸での取り組みも欠かせず、組織力の強化に努めていく。

企業情報

▽企業名=株式会社コーアツ
▽代表取締役社長=佐々木 孝行
▽所在地=兵庫県伊丹市北本町1丁目310番地
▽設立=1951年2月
▽売上高=111億円(2021年9月期)
▽従業員=255人

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近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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