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最終更新日:令和5年3月15日
三木理研工業は繊維、建材向けに合成樹脂、接着剤を展開する化学メーカー。長年開発に取り組んできたマイクロカプセル技術を用いて、潜熱蓄熱材(PCM)による熱マネジメント技術の普及を目指している。機能する温度を調整したPCMの素材となる「蓄熱剤」をマイクロカプセルに封入して、寝具や住宅などに適用し、電気や燃焼ではなく、自然に存在する熱を活用して省エネルギー効果を発揮する。
2050年のカーボンニュートラル目標に向けて、さまざまなエネルギーデバイスが注目を集める中、有望技術の一つとして期待は高い。三木理研工業は小ロットでの提供を求めるラボのニーズに応え、普及に向けた重要な役割を担っている。
三木理研工業は次世代のエネルギーマネジメント技術として、蓄熱剤を封入した潜熱蓄熱マイクロカプセルの可能性を追求している。一部で始まった量産供給に加え、完成品メーカーの技術検証に協力し、ともに製品実用化を目指しているところだ。コンシューマ向けではすでに寝具で採用が始まっている。
マイクロカプセルに封入した潜熱蓄熱材
マイクロカプセルに封入する蓄熱剤の主成分は、潜熱量の大きいパラフィン類。固体パラフィンを加熱して溶ける際の融解熱を吸収し、液体パラフィンを冷却して固まる際に凝固熱を放出する相変化の原理を活用する。パラフィンは調合比率を工夫することで、融点が変えられ、蓄熱・蓄冷が機能する温度を調節できる。三木理研工業はさまざまな蓄熱材を検討し、おおよそ5度Cから60度Cの間で自在に融点を設定できるノウハウを確立している。
三木社長は「大手では難しいような細かなニーズに対応できるのが強み」と胸を張る。製品の試作や技術の検証など、応用分野を探索する段階では、こうした小ロットに対応してくれるサプライヤーは、実用化を後押しする貴重な存在だ。
マイクロカプセルについて、三木保典社長は「20年ほど前から繊維用の香りづけなどのために量産してきた」と技術背景を説明する。蓄熱剤を封入する〝殻〟としてこの技術を転用し、擦れて壊れることで機能を発揮する芳香用とは真逆の、壊れない・漏れない樹脂製マイクロカプセルを開発した。同社技術では用途に応じてカプセルの素材を変えることができ、カプセルの厚みも数マイクロメートル単位で制御が可能だ。
同社はシャツの形状記憶加工剤やシックハウス対策剤など、生活に密接する場面で、健康や環境の課題を解決する製品を供給してきた。将来を期待するPCMは、これまで柱としてきた繊維、建材の両分野に展開が可能な技術であり、すでに納入もスタート。販路開拓のアプローチも本格化している。
現在の大口需要は住宅インテリア大手の企画寝具だ。一昨年から、冷感敷マットの最上位製品に採用されており、寝苦しい夏の晩にも〝ひんやり感〟が持続するとあって消費者から好評を得ている。22年も年120トンから150トンの受注が見込まれる。
一方、本命分野として住宅建材での普及を狙う。PCMのマイクロカプセルを不織布に含浸し、ボードに貼り付けて使うことで、室内を適切な温度に保つことに役立てることができる内装部材になる。断熱性能の高い建材と組み合わせることで冷暖房の負荷を減らせ、その効果は増大する。
効果を裏付ける十分なデータは現在、準備中だが、三木社長は「エネルギー効率が大幅に良くなる」との評価を得られる見通しを明かす。三木理研工業が理事企業を務める業界団体の日本潜熱蓄熱建材協会でJIS規格化も念頭に、性能試験が進められているという。
三木社長は建材から需要の広がりに期待する
三木社長は「建材への展開が本格的に始まれば、需要量は想像できないくらい多くなる」と話し、市場の広がりに大いに期待する。量産コストとの見合いではあるが、快適な家づくりや、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー住宅)の実現にも必須の技術となる可能性を秘めており、住宅メーカーからも注目が集まっている。
三木理研工業は製品だけでなく、化学メーカーとしての社会的責任として、廃水処理をはじめとする環境対策技術の研究にも積極的に取り組んできた。業界共通の課題と考え、自社直接のビジネスにはならないものの、専門企業と連携して解決策を模索し、実用化を促進するなど「社会になくてはならない会社」(三木社長)を志し、環境配慮型のモノづくりを心がけてきた。
蓄熱剤を封止するマイクロカプセルの素材も、当初のメラミン樹脂に加え、ホルマリンを含まないアクリル樹脂も実用化。適用可能な範囲が広がる見通しだ。今後、普及を進めていく上で避けて通れないのが、深刻な海洋汚染を引き起こしているマイクロプラスチック問題だが、三木社長は「次のステージでは生分解性樹脂をカプセルに用いたい」と力を込める。〝脱プラスチック〟の技術開発に真っ向から取り組んでいく考えだ。
ゲル状の潜熱蓄熱材をパウチに封入
一方、21年度中にも、ゲル化した蓄熱剤の供給を始める。供給先でパック状にして各所に販売される。蓄熱剤パックは物流分野などで保温、保冷の技術として、すでに使われており、今後も市場拡大が見込まれている。三木理研工業では、経済産業省のものづくり補助金を活用して、すでに設備の導入を始めており、温度調整のノウハウを武器に供給先を開拓していく。
PCMは自動車や宇宙分野など各種産業分野で活用を探る動きも出てきている。三木理研工業では試作向けの供給が盛んになっており、エンジン周辺の冷却や保温などでの利用が想定されているのではないかと予測する。次世代のエネルギー関連技術として、普及の萌芽が見えつつある。
当社は昭和40年代初め、和歌山で盛んだった繊維産業向けの染色仕上げ剤で起業した。地域では最後発のメーカーだった。間もなく繊維産業は衰退が始まり、同業他社との差別化として着目したのが、住宅建材のホルムアルデヒド対策で求められた低ホルマリン接着剤だ。以降、繊維と建材を柱とし、環境にやさしい商品づくりとともに環境汚染対策の技術開発にも積極的に取り組んできた。
「技術の三木理研」の旗印の下、企業への提案を通じて、社会になくてはならない会社になりたいと、強い思いを抱いている。商品を通じて、環境や人の手に触れるものに「やさしさ」を供給し、顧客に喜んでもらう「やさしさ創造コーポレーション」を目指していきたい。
▽企業名=三木理研工業株式会社
▽代表取締役社長=三木 保典
▽所在地=和歌山県和歌山市栄谷13-1
▽設立=1967年7月
▽売上高=16億円(2021年2月期)
▽従業員=50人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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