アトツギを知財で次のステージへ!
攻めと守りの知財活用プログラム
(令和7年度 次世代経営者向け知財リテラシー向上支援事業)

総論とりまとめ(アトツギ支援者向けコラム)

近畿経済産業局では、令和7年度、アトツギ(次世代の経営者)を対象に、企業の利益の源泉である知的財産を意識した経営を学ぶ全5回の連続講座を実施し、総勢14名の近畿管内のアトツギに参加いただきました。

今回の講座を振り返り、アトツギに知財経営を学んでいただくプログラムの有効性およびその在り方について取りまとめました。このコラムが、地域の未来を牽引するアトツギ(次世代経営者)を支援する皆さまの新たな支援メニューの幅を広げる一助となれば幸いです。

1. アトツギと知財活動は相性が良い? 
 ~経営活動における知財の優先順位~

当局では、従前から経営者に対しセミナーやWEBプラットフォーム「みんなの関西ちざいば」による情報発信などを通じて知的財産の重要性と活用促進を伝えてきました。一方、多くの経営者にとって、知的財産はまだ十分に理解・活用されていないのが現状です。

この背景には、限られた経営資源のなか、資金繰り、営業活動、人の問題など日々対処すべきタスクに忙殺されている経営者にとって、 知財自体が優先すべきタスク、喫緊の課題ではないという点が指摘されています。知財活動が中小企業にとっても重要であることは理解されつつも、 実際にはどうしても後回しにされてしまうケースが多く見られます。 (弁理士 森岡智昭 氏 知財コラム「中小企業支援に必要なスキルセット・マインドセット」参照

そこで、本事業では、知的財産の重要性を伝える対象をアトツギ(次世代の経営者)に絞り、講座を展開しました。アトツギは、会社の有形・無形の経営資源を受け継ぎつつ、柔軟な発想で新規事業・事業転換・新市場参入などに挑戦し、社会に新たな価値を生み出す可能性を多く秘めています。実際に、アトツギ甲子園(主催:中小企業庁)やその他行政・自治体・金融機関等が主催するピッチコンテストにおいても、アトツギの活躍ぶりはよく知られているところです。事業承継前のアトツギは、現経営者と比べてスキルや知識の習得や新たな取り組みに割ける時間が相対的にあります。

一方、例えば新規事業のアイデア出しのメンタリングやピッチを行う際、予め想定しておくべき知財面の手当て(技術アイデアやブランドの発表前に特許や商標を出願する)の意識が希薄な場合も存在します。こういった性格をもつアトツギにとって、知財活動は優先順位を上げて取り組んでいただくべき経営活動であり、知財リテラシー向上と知財経営のマインドセット醸成がタイミングとしても効果的であると仮説を立て、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」と連携した本事業が生まれました。  


アトツギに知財が必要である理由の解説

2.アトツギに知財経営を定着させるための効果的なプログラム設計

当局は事業の実施にあたり、大きく2つの基本方針を定めました。

1つは、「自社の強みや新規事業アイデアを起点として、知財の価値を伝える」という方針です。アトツギにとって馴染みの薄い知財を、 いきなり「講座で学びましょう」と言っても、それこそ何の役に立つのか腹落ちしません。そうではなく、事業承継する自社の強み=経営資源や新規事業のアイデア自体が出発点で、 そこにはこういう知財が関係し、自社の攻めと守りに役立ちますよ、と伝える形でプログラムの構成を考えました。  


平安伸銅工業株式会社 訪問風景

もう1つは、「アトツギ×知財で繋がるコミュニティのきっかけを創る」という方針です。 アトツギに特化したコミュニティはすでに各地にありますが、「アトツギ×知財」のコミュニティは全国でもそう多くはありません。 本事業では、同じ境遇で共に知財を学び経営に活かすアトツギたちの『横の繋がり』と、アトツギを応援する知財の専門家、 さらに知財をうまく活用し成長を遂げている先輩経営者との出会いという『縦の繋がり』の2つを、「座学」「フィールドワーク(企業訪問)」「ワークショップ」を織り交ぜる形でデザインしました。 (各プログラムの概要はこちらから)

本事業の4つのプログラム構成を示す図

3.アトツギにとって必要な知財リテラシーとは?
 ~本事業のプログラムと成果~

今回のプログラムでは、会社規模、業界、取引先(BtoB/C)も様々な企業のアトツギが参加するなか、 最後まで一人の脱落者も出すことなく全5回のプログラムを終えることができました。 最終回では講座での学びを自社事業に落とし込むかたちで、「知財活動の最初の一歩」として自社に持ち帰って取り組む知財活動を発表いただきました。


DAY5 発表の様子

受講後にとりまとめたアンケートでは、8~9割の参加者がプログラムの内容について「非常に満足」「ほかのアトツギにも勧めたい」 「来年度の開催があれば何らかの形で関わりたい」とのポジティブな感想を寄せていただき、次のステップとして、 当局の知財伴走支援事業への参加意向をいただいた企業も生まれました。なかには、アトツギが能動的に今回の講座で知り合った講師に連絡を取り、 自社の相談をおこない、最終的に商標権取得という成果を挙げた方も生まれ、その行動力・決断力に驚かされました。

プログラム全体の満足度(最終)93%が「非常に満足」

他のアトツギにも勧めたいか 100%が「勧めたい」

来年度の関与意向 92%が「可能」

こういった事例が生まれた背景には、「経営を軸に知財を語ることができる知財専門家」や「知財経営で成長を遂げている経営者」を講師に招いたことも関係しているのではないかと考えられます。

以下に、「知財に対する意識や考え方の変化」を伺ったところ、寄せられた感想の一部を掲載させていただきます。(個社が特定されないよう一部改変してあります)

<参加前と比べて、知財に対する意識や考え方に変化があれば教えてください>

  • 当社の儲けの柱に改めて気づいた
  • 知財は零細企業、弱者としての戦い方に必要な戦略の一つだと感じた
  • 新しいチャレンジやプロダクトを作る際には必ず知財の面を意識しようと感じた
  • 事業のどの段階で特許・意匠・商標を押さえるかという視点で考えられるようになったのが一番の変化
  • 自社には商標くらいしか関係ないと思っていたが、知財というテーマが事業を考える中で意識すべき一つの必須項目として私の中に加わった
  • 特許戦略や商標(ブランドマネジメント)を見直すことで、今後の自社の事業戦略を思い返すきっかけとなり、事業の方向性の解像度が上がった
  • 知財でマネタイズする事が仮に難しくても、意識は十分に変わったと思う 知財という手段と目的をしっかりと考えながら今後も進めていきたい
  • 参加前、父は「仕事を中断してまで…」とあまり乗り気ではなかったが、内容を毎回伝えた結果、知財戦略にも前向きになっていただけた

4. 地域の未来を牽引するアトツギに、もっと「知財」で成長してもらう

今回の講座は当局としても初めての試みでしたが、アトツギのポテンシャルはもとより、アトツギに知財を学んでいただく意義と有用性について改めて気づかされるプログラムとなりました。

アトツギは創業の地に根差し、地域を牽引する企業の次期経営者になっていく貴重な存在です。その価値を再認識し、 現在、近畿地域の自治体においてもアトツギ支援が盛り上がっています
兵庫県宇治市京都信用保証協会京都信用金庫など)。

こういった各地の取組と連携し、最も知財リテラシーのニーズが高まるタイミングで学びの場を提供することで、より高い事業の成長支援が行えるのではないかと考えています。 また、本講座の開催期間中に、アトツギを支援しているものの、これまで知財とは大きな関わりがなかった支援機関と意見交換を行い、知財の勘所を掴んでいただく機会となりました。 既にアトツギを支援されている機関の方にも知財の重要性を認識いただき、今後、ご自身のアトツギ支援の中に、知財面は知財支援の専門家にパスする 『知財リレー人材』として活躍いただけるようにしたいと考えています。

DAY1の様子

当局としても今回のプログラムを次につなげ、今回講座に参加いただいたアトツギがさらに一歩上の知財活用に歩を進めていただく、 あるいは後進のアトツギに対し、知財について学び、活用する重要性を伝えてもらう形で『アトツギ×知財』のコミュニティを広げ、 ひいては地域産業を担う企業の成長に寄与できることを願っています。

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