アトツギを知財で次のステージへ!攻めと守りの知財活用プログラムDAY2
(令和7年度 次世代経営者向け知財リテラシー向上支援事業)
近畿経済産業局では、次世代の経営者として成長し、後継者ならではの発想で新事業を生み出し企業を成長させたいという想いを持つ中小・中堅企業のアトツギを対象に、知的財産に関する座学、フィールドワーク(企業訪問)、ワークショップを通じて、企業の利益の源泉である知財を意識した経営を体験していただくプログラムを実施しています。
ここでは、座学の一部をアーカイブ形式でコラムとしてお届けしていきます。
DAY2(2025年10月22日(水)開催)
アトツギ×知財 先輩企業訪問
訪問企業 平安伸銅工業株式会社 常務取締役 竹内 一紘 氏
はじめに
第2回では、デザイン(意匠)・ネーミング(商標)を中心に知財活用を進めるアトツギ先輩企業として、令和5年度知財功労賞「経済産業大臣表彰(デザイン経営企業)」である「平安伸銅工業株式会社」に訪問しました。 当日は、会社見学を織り交ぜながら、常務取締役 竹内 一紘氏(以下、一紘氏)に、デザインの考え方を取り入れた経営や商品開発における価値転換および「知財(知的財産権)」の重要性について語っていただきました。

創業者が全国に広げた「突っ張り棒」を3代目夫婦が価値転換
イントロダクションでは、創業者が米国製品にヒントを得て日本に広めた「突っ張り棒」でニッチトップ企業となったところから、現在3代目となるアトツギ社長・竹内香予子氏(以下、香予子氏)と一紘氏の夫婦が中心となって突っ張り棒の事業をベースにしながら「LABRICO」シリーズや「DRAW A LINE」シリーズといった新たな商品ラインナップを開発し、新市場を切り開いてきた経緯をお話しいただきました。
デザインによるイノベーションのプロセス
香予子氏と一紘氏の入社時にはすでに「突っ張り棒」の市場はコモディティ化していましたが、そのような状況の中で、「面白いアイデアで新しい価値を提案したい」と考え、自社の強みを活かしながら「こんなものがあったらいいな」というアイデアをデザイナーが形にする流れで商品開発を進めてきました。
「LABRICO」シリーズや「DRAW A LINE」シリーズはいずれも社内・社外のデザイナーと共に生まれた商品。これらはこれまでの「突っ張り棒」の主戦場であったホームセンター中心の市場とは全く異なる高価格帯のライフスタイル市場に訴求するものになり、企業として新たなポジションを確立。結果、グッドデザイン賞やドイツのRed Dot Design Awardを受賞しました。価値の転換によって価格差7〜8倍の高付加価値製品を生み出し、利益拡大につながったその経緯についてお話しいただきました。
会社の強みをどう展開していくか——「ヘイアンコンパス」と「暮らすがえ」
平安伸銅工業株式会社では、デザインの対象は商品開発だけではなく、会社としての新たな価値創造や、経営や事業戦略も含まれています。会社が目指すべき理念・方向性を示す「ヘイアンコンパス」を社員に共有しつつ、プロダクトとしての強みや知的財産はそれに紐づくものとして捉えている、というお話を一紘氏からいただきました。
「ヘイアンコンパス」では自社のMISSIONを「『暮らすがえ』の文化を作る」と定めています。また、「暮らすがえ」とはライフステージや家族の成長、季節や気持ちの変化に合わせて、暮らしに自ら手を加え、ありたい「私らしい暮らし」を実現していくことと定義。暮らしの変化の中で、「突っ張り棒」で必要な場所に必要な機能を提供できることを自社の強みとしています。
この考え方に基づき、オフィス空間、試作ラボや工房も「その時々で自分たちが今1番情熱を注げるような場所に自ら変えていっている」という話から、それを実践している現場を見学させていただきました。同社のクリエイティブな発想やコミュニケーションが促進されるフレキシブルな空間づくりを実際に目にすることで、参加のアトツギも自社のオフィスづくりのヒントを得ることができたのではないでしょうか。
意味のイノベーションと知財の関連性
後半は、平安伸銅工業株式会社のヒット商品「LABRICO」「DRAW A LINE」を手に取りながら、一紘氏と顧問弁理士であるK&T特許商標事務所の北野修平氏のクロストークを実施。商品誕生の秘話や、知的財産権を意識しだした経緯、その活用方法、そして経営者としてデザインと知財に向き合う心構えについて示唆をいただきました。
具体的に、コモディティ化した商品である突っ張り棒から新たな商品へ「意味のイノベーション」を起こすプロセスについてもご紹介いただきました。突っ張り棒の新たな用途、利用シーンを考えると、その先に必然的な「形」のデザインが見える。その結果、守るべき「意匠」が見えてくる。競合他社の模倣についても形状だけではなく商品コンセプトの模倣までを想定し、他社ならどう真似するかまで考え抜き、関連意匠や部分意匠まで戦略的におさえるというお話は、デザインと知財を一連のものとして捉える考え方として非常に参考となるお話でした。
そのほか、税関での水際対策の効果や、「似ている」と思った商品が出てきたときには適切に警告することで、結果はどうあれ抑止力になるといった権利の活用方法などもご紹介。一方で、「なんでもかんでも権利化してはコストばかりかかる。だからこそ、市場規模や開発投資の規模も踏まえてここぞという部分を権利化する。コストをかけるべきところかどうかはやってみないとわからないが、最後に『知的財産権が必要』と判断を下すのは経営者自身」と、次世代経営者であるアトツギたちに投げかけました。
北野先生からも、コアとしておさえるべき意匠から、関連意匠、部分意匠の使い分けを実際の商品を手にしながら、ご説明いただきました。
北野先生は同社の社員向け研修として、全6回の知財教育連続講座を実施しています。経営者だけでなく社員も巻き込んで知財教育を行うことで、知財を社内の文化にし、普段の業務にしみ込ませることができ、その結果同社では今では当たり前のように「新商品ができたから商標・意匠をおさえたい」と従業員が自主的に動けるところまで来ている、とお話がありました。
メディア戦略——地域メディアを起点とするブランド構築
終盤では、代表の香予子氏が登場し、受講者の関心事である「新たな販路に広げる際に考えるべきPR/メディア戦略」についてコメントをいただきました。
「LABRICO」「DRAW A LINE」といったヒット商品の裏には、会社や商品にフォーカスされるきっかけとなったメディアの存在は大きいという前提で、香予子氏はSNS活用とは異なるメディア戦略として、「地域の小さなメディアからコツコツと」と受講者にお話されました。
単発の大きな露出に頼らず、地域の情報発信メディアと信頼関係を築き、小さな掲載実績を重ねることで、それがブランドの信頼となり、やがては大きなメディア掲載に繋がる。こういった循環がさらなるブランドの信頼へと繋がる、とのこと。また、伝統的なメディアへの掲載は自社の採用面などで安心感を与える役割を果たしている点についても示唆いただきました。
自社のコアとなる強みの部分こそ、知財として権利化することが大事
最後に締めくくりとして、一紘氏から受講アトツギの皆さんにむけメッセージを送っていただきました。
「自社のコアとなる強みの部分こそ、知財として権利化することが大事。そこを軽んじていると、せっかく頑張って商品を生み出したとしても他社の模倣で台無しになってしまう。権利としておさえるべきところをおさえたうえで、その効果を最大限に活用してほしい」と語り、アトツギたちが先輩企業からの熱いメッセージを受け取った瞬間でした。
意匠権の活用〜デザインと知財〜
K&T特許商標事務所 パートナー弁理士 北野 修平 氏
※北野 修平氏による講義動画を後日公開予定です。
はじめに
平安伸銅工業株式会社の企業見学を終えた後の本講座は、知的財産権の中でも特に「意匠権」に焦点を当てた内容に。第1回での北野先生による知的財産入門の全般的な話から一歩踏み込み、実例として平安伸銅工業の製品「LABRICO」などを題材にしながら、意匠権についてわかりやすく、かつ丁寧に講義いただきました。意匠権の基礎知識から実践的な運用方法、さらには保護効果や権利行使の具体例までを解説した講義内容となっています。是非ご覧ください。

改めて立ち返る、自社の「儲けの柱」は何ですか?
冒頭では、第1回「知財入門」でも繰り返し強調された問い「あなたの会社の『儲けの柱』は何ですか?」で始まりました。「儲けの柱」への投資を優先し、その柱を知的財産権で守ることが経営戦略の根幹。無駄な権利取得を避け、明確な保護対象に集中することでリソースを有効活用できます。知財を攻め・守りに活かす戦略を考える際に、この問いに立ち返ることの重要性を改めて意識させられました。
意匠権は自社商品を守る強力な保護手段
意匠権の保護範囲は「デザイン+物品名」の形式で登録され、登録意匠に似たデザインを、「意匠に係る物品」に似た商品に無断で使用することを禁止する権利。同一または似たデザインが同一または似た物品に無断使用されることを防ぎます。権利行使としては、差止請求(侵害の停止、在庫廃棄、生産設備廃棄)、損害賠償請求などが可能で、悪質な侵害には刑事罰も科されます。損害賠償は過去に遡って請求も可能であり、「知らなかった」では済まされない点が著作権との大きな違いです。ただし、同じデザインでも物品が異なれば権利は及ばないため、保護範囲の設定が重要との話がありました。
講義では、保護範囲を考える際の「類似」の判断基準についても詳しく紹介。ボールペンと万年筆は類似で、乗用車と乗用車のおもちゃは非類似など、わかりやすい例示を交えながら、「用途・機能の共通性」という判断基準についてお話いただきました。また、「形態」による判断では、需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて判断されますが、この際、類似性の判断基準は専門家による細部を見るような視点ではなく、実際の「需要者」(商品を買う一般消費者)の視点で行われるため、デザインの微細な違いよりも全体の印象が重要で、これが意匠権の保護範囲の曖昧さを生みつつも実務上の柔軟性をもたらしているとお話がありました。
権利表示や警告書、通知書を活用して侵害者と交渉。最終的には訴訟も視野に入れる
実践面では、意匠権の権利表示をカタログやウェブサイトに明示し、侵害者に対して警告書や通知書で交渉を行い、最終的に訴訟に踏み切るケースも紹介。
一方、実務上は訴訟に踏み切るとなると莫大な時間と費用がかかるため得策でないケースも存在するため、和解やライセンス契約による解決という道も大いにあり得るという学びを得ました。
中国からの模倣品輸入は税関差止め手続きで実際に阻止可能
講義ではさらに踏み込んで、海外から自社の模倣品が入ってきた際に取るべき対応についても紹介されました。海外輸入に対しては税関での輸入差止め制度を活用し、港や出航地を特定して監視・阻止が可能です。実際に中国からの模倣品を税関で差止めに成功した事例も併せてお話をいただきました。
さいごに
全体を通じて、意匠権は「形あるものを守る強力な知的財産権」であり、侵害のおそれを把握しやすいので権利活用が容易な権利。関連意匠や部分意匠も含め適切に活用すれば競合他社の模倣を踏みとどまらせ(戦わずして勝つ)、権利侵害を効果的に防ぐことができるツール。類似品が出てくるのは仕方ない、と諦める前に、一度考えてみてほしい、という北野先生からのメッセージで講義は締め括られました。
商標権の活用〜ネーミング、ブランディングと知財〜
クロスリンク特許事務所 代表弁理士 山田 龍也 氏
はじめに
クロスリンク特許事務所 代表弁理士 山田 龍也 先生を講師にお招きし、「商標権の活用〜ネーミング、ブランディングと知財〜」と題し、ネーミング~ブランディングに取り組む際に考えるべき商標権の活用を中心に講座を開催しました。
アトツギのみならず中小企業がネーミング、ブランド戦略と商標権の活用を学ぶ際に知るべき内容が散りばめられた講義です。ぜひご覧ください。

商標権は取ったら終わり、ではない——事業へ結びつけて考える
冒頭、「商標登録をして、事業上どんなメリットがありましたか? 単なる自慢やSNS投稿だけで終わらせていませんか」と、グサッと刺さる山田先生の問いかけから講座が始まりました。そこからさらに、事業を伸ばす商標とは? 何のために商標登録をするのか? 有効に活用する方法は? といった問いかけが続き、それらについて考え、学びを得る講座の開始となりました。
知財の中の商標——商標の特殊性
最初のパートでは、「商標の特殊性」として、商標とその他の知財(特許・実用新案・意匠)の違いについてお話がありました。特許・実用新案・意匠は創作性に価値があり、新しさに価値がある一方、商標は「標識(非創作物)」であり、独自性(識別力)が命。使えば使うほど価値が出て信用が蓄積される、「信用を貯める壺」のようなもの、と表現されました。
両者は法律上でも大きな違いがあり、権利期間が有限なうえに古くなれば登録料が上がっていく特許・実用新案・意匠に対し、商標では登録料はほぼ一定で、半永久的に使い続けられる(何度でも更新できる)と説明され、こういった違いを理解したうえで複数の知的財産権をバランス良く活用することが重要と説明されました。技術面は特許、デザインは意匠、ブランドは商標で自社商品やサービスの信用を得て、得た信用を商標に蓄えていくという発想には、参加のアトツギも腑に落ちた様子でした。
ブランディングツールとしての商標
次のパートでは、「ブランディング」のための商標の考え方を紹介。山田先生からは、「商標は登録(護る)で終わり、ではなく、その前の自他分析やコンセプトも含めた作るプロセス、登録後の商標を育てる(使って発信する)プロセスも含めてブランディングの一環として取り組む」といったお話がありました。
このパートでは、中小企業が取り組むメリットの大きいブランドづくりについても言及。コーポレートブランド(社名など)、プロダクトブランド(各商品ブランド)の間にファミリーブランド(商品シリーズ)の階層があり、特にブランディングに注ぐことができるリソースの限られる中小企業においては、投資効果の高い、他分野へのブランド展開も可能なファミリーブランドづくりに取り組んでみてはどうか、という提案がありました。
また、ブランドの再構築ともいえる「リブランド」についてもそのメリットや注意点を含めた紹介があり、まさに家業のリブランドに関心の高いアトツギにとっては非常にためになる内容でした。
攻めのツール・ネーミングについて
続いて紹介されたのは「攻めのツールとしてのネーミング」。商品の強みのアピール、他社商品との差別化など売上アップの効果と認知度アップの効果を得られるネーミングについて、実際に売上や認知度アップに寄与したネーミングの事例を交えながらお話がありました。
山田先生は、ネーミングとは「繊細な言語化」と表現。顧客の立場に立って、イメージとのズレがないか、自己満足になっていないか、商品の内容が伝わっているかといった複数の視点でネーミングを熟考することが大事と説明されました。
また、受講するアトツギにも多かった BtoB 企業にとってのネーミングの考え方についてもお話がありました。 BtoB 企業の商品やサービスのネーミングを考える際、より「機能・導入メリット」や「合理性」、「イメージ先行よりも信頼感」を訴求するといった工夫は、決して関係のない話ではない、と気づかされました。
さいごに
山田先生の講義を通して、受講したアトツギは、自社のネーミング・ブランディングを改めて考え、商標を事業の成長に直結する重要な「攻めのツール」として捉え直した様子でした。
当局ホームページ 次世代経営者向け知財リテラシー向上支援事業