アトツギを知財で次のステージへ!攻めと守りの知財活用プログラムDAY4
(令和7年度 次世代経営者向け知財リテラシー向上支援事業)
近畿経済産業局では、次世代の経営者として成長し、後継者ならではの発想で新事業を生み出し企業を成長させたいという想いを持つ中小・中堅企業のアトツギを対象に、知的財産に関する座学、フィールドワーク(企業訪問)、ワークショップを通じて、企業の利益の源泉である知財を意識した経営を体験していただくプログラムを実施しています。
ここでは、座学の一部をアーカイブ形式でコラムとしてお届けしていきます。
DAY4(2025年12月10日(水)開催)
知財リテラシー深化 IPランドスケープ・FTO調査〜新規事業を始めるその前に 市場開拓に役立つ知財調査入門〜
株式会社クオンツ・コンサルティング シニア知的財産アナリスト(特許) 原田 雅子 氏
第4回講義では、株式会社クオンツ・コンサルティング/シニア知的財産アナリスト(特許)の原田氏を講師に迎え、知的財産を「権利」としてではなく、「経営資源」としてどのように捉え、活用していくかについて学びました。IPランドスケープ・FTO調査に馴染みのない方でも、経営や事業の視点からその重要性や意味を理解できる構成となっており、アトツギにとって実践的な示唆が多く含まれていました。

無形資産が企業価値を左右する時代
講義の前半では、知財・無形資産への投資が必要とされている背景として、昨今の企業価値を構成する要素が大きく変化している点が示されました。アメリカの上場企業では、時価総額の大半を無形資産が占めている一方、日本企業では依然として有形資産の比率が高い傾向にあります。この差は、技術力の有無というよりも、「期待値」や「将来性」がどのように評価されているかの違いによるものです。
無形資産には、特許や意匠といった知的財産だけでなく、ブランド力、顧客との関係性、企業理念、人的ネットワークなども含まれます。知財は単独で存在するものではなく、こうした要素と結びつくことで、企業の価値を支える基盤になることが強調されました。
知財は守るためだけでなく、活用するためにある
原田氏は、知財の役割について「守り」と「攻め」の両面から整理しました。特許を取得することはゴールではなく、事業の差別化や交渉力の強化、信頼獲得のための手段の一つに過ぎません。知財を持っていることで、取引先や金融機関、投資家からの見え方が変わり、事業展開の選択肢が広がります。
また、知財は社員のモチベーション向上にもつながります。自社の技術や取り組みが権利として評価されることで、組織全体に誇りや一体感が生まれるという点も印象的でした。
知財活用は、一足飛びに完成するものではありません。講義では、企業の成長段階において必要となる知財戦略が変化していくことを、ビジネスと知財戦略の二つの軸で紹介いただきました。ビジネスのステージが進んでいくに伴い、知財面ではコア技術の特許化から始まり、優位性の確保、特許網の構築や将来性の認知、さらに他社との交渉力の向上、模倣品の排除へと、段階的に進めていく考え方が示されました。特に重要なのは、開発初期から他社権利を意識する姿勢です。製品を市場に出してから問題が発覚するのではなく、早い段階で権利侵害などのリスクを把握することが、事業を守ることにつながります。
IPランドスケープがもたらす「見える化」とFTO調査の重要性
講義の後半では、特許情報を整理・分析し、事業戦略や技術戦略に活かす手法として、IPランドスケープが紹介されました。IPランドスケープにより自社技術に関連する技術の出願の多い国や出願数推移、分野ごとの出願数などを可視化することで、自社の立ち位置や競合他社の動き、可能性のある市場などが客観的に見えてきます。講義では家具業界のリーディングカンパニー3社を題材にし、各社の戦略の違いが例示されたことで、アトツギたちがより身近にIPランドスケープを感じることができました。
特に印象的だったのは、IPランドスケープが「正解を出すための資料」ではなく、「議論のたたき台」として有効だという点です。経営者や関係者が同じ情報を共有することで、意思決定の質が高まります。
他にも、アライアンスや共創における注意点にも触れられました。新しい価値を生み出すためには、外部との連携が不可欠ですが、その際には役割分担や利益配分、知財の扱いを事前に整理しておく必要があります。曖昧な契約は、後のトラブルにつながりやすく、事業の足かせになることもあります。
また、FTO調査(他社権利侵害の有無を確認する調査)の重要性も強調されました。FTO調査は、新製品の開発や事業化を進める際に一度行えば十分というものではなく、企画、開発、改良といった各段階で継続的に確認していく必要があります。
特に展示会や新製品発表の場は企業の信用や事業継続に直結する場面であり、自社製品が他社の権利を侵害していないか、慎重な対応が必要とされるタイミングであることを学びました。
IPランドスケープやFTO調査を通じて、知財が単なる権利保護にとどまらず、自社のリスク回避、あるいは技術や事業戦略を見通し、事業を安定的に前に進めるものになり得ることが示され、アトツギたちも学びを得た様子でした。
知財を「専門領域」に閉じないことが、次の経営につながる
今回の講義を通じて印象的だったのは、知財が決して専門家だけのものではなく、経営そのものと深く結びついているという点でした。特許権や商標権を「取るか取らないか」という発想にとどまらず、事業の差別化や信頼の獲得、将来の選択肢を広げるためにどう使うのか。その視点こそが、これからのアトツギに求められている姿勢だといえます。
無形資産の価値が重視される時代において、知財は企業の強みを言語化し、外部に伝えるための重要な手段になります。自社が何を大切にし、どこで勝負しようとしているのか。その問いに向き合うきっかけとして、今回の講義は多くの示唆を与える内容でした。
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