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最終更新日:令和5年3月15日
マルヤテキスタイルは繊維の生地シートにさまざまな特殊加工をして、新たな意匠性、機能性をもたせるのが得意だ。「布の七変化」をキャッチフレーズに生地の風合い、印象を変える。初めの本業は衣料生地製造のうち、精錬の準備工程と製品梱包(こんぽう)の仕事を手がけ、その後、特殊加工に進出し、徐々に存在感を放つようになった。
特殊加工の一つ、超音波パンチング(孔開け)は広幅の各種シート材を加工する初の技術で、品質、生産性を備える。衣料をはじめ、自動車シート、インテリアなどの分野で従来にない機能性と意匠性から有望視される。
少数精鋭で経営をけん引する八木晴美社長はユニークな開発型企業としての活躍を目指す。
この超音波パンチングは超音波発振器をベースに、独自の加工ユニットとして、振動子、増幅器、材料の界面に振動を伝えるホーン、そして金型を用いる。柄のついたロールの上に生地を通し、1秒間に2万回の超音波振動を生地の界面に伝え、摩擦熱で孔を開ける。織物や編物などさまざまな広幅の生地シートを効率良く加工できる。
加工したパンチング孔の拡大画像
最大の魅力は孔からほつれないことだ。開けた孔は、孔の周縁が薄く溶けて固まり、加工孔の表面は平滑度が高く仕上がる。これにより動的な摩擦力に対する強さと耐久性を備える。また金型の工夫しだいで同時に立体的な意匠性も加工できる。それらが孔開けと同時に1工程で済む。塩化ビニール樹脂(PVC)など他素材のシートの孔開けでも、仕上がりがいいと評価された。
繊維生地の従来のパンチング加工は、刃物で押し切りする方式が使われる。織物や編物などの繊維生地は孔開け部からほつれるため、加工対象は、不織布、合皮などの表面加工した生地に限られる。
そして同社の超音波パンチング設備は、加工で出る抜きくずを、簡便に回収する粘着シートの工夫も入れてある。抜きくず回収の手間を省力化したのも特筆点だ。
この技術のヒントはある失敗からつかんだ。超音波を使う生地の加工法には以前からピンソニック加工がある。ミシン針の動きのように超音波をあてて生地を熱融着させ、図柄を描いたり、2枚の生地を融着で接合させたりする。「ある時、設定を失敗して生地に穴があいた。それがきっかけだった」と八木晴美社長。
他社の生地パンチング加工の現場で、押し切り加工時に生地と併用する紙材の抜きくずの除去に手こずっているのを知っていた。超音波パンチング加工の発想が膨らんだ。それが長い試行錯誤の始まりだった。
「失敗からヒントをつかんだ」、と八木社長
ピンソニック加工機械のメーカー、他の超音波関連の技術を持つ国内メーカーを訪ねまわった。しかし、どこに相談しても「広幅に適用するような加工は無理だと言われた」(八木社長)。もともと超音波の技術的ノウハウを持たない。社員らと手探りで、発振器の出力を強くすることや、界面に伝えるホーンを削って微調整などをして最適な形を探った。金型を互い違いに並列配置する手法なども独力で考案。こうした間に、外部から繊維加工技術の専門人材として田中厚三氏(現開発ディレクター)も加わり、7年程度かけて基本形ができた。
パンチング加工の設備
近年は福井県工業技術センターの助力を得て インピーダンスアナライザーや レーザドップラ振動計を用いた解析など、超音波加工の波形を科学的に分析。品質高度化の道筋にめどをつけて大学とも連携した。2021年度の経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業に申請して採択を受け、2023年度末までの開発計画をスタートさせた。自動車シートなど厚手の生地に高精度の孔開け、高度な意匠性を加工する技術を確立する。
さっそくゴルフウエアなどスポーツ衣類で採用が進んでいる。産業用では今後、自動車シートで夏季の冷房効率を改善する技術として期待されている。運転シートの背もたれ部、クッション部に送風機を入れ、運転席前面からのエアコンの冷風がパンチング孔を通じて流れ、運転シートが短時間で冷える。効率的なエアコン利用につながり、省エネルギーに貢献する。顧客の技術評価が進んでおり、ニーズに合わせて技術の高度化に反映させていく。
もともと同社は建築が家業の八木晴美社長が転身し、斜陽と周りが危ぶむ繊維分野に参入して立ち上げた。取引先の会社で手がける中東の民族衣装「トーブ」の生地の製造工程のいくつかの工程を受け持った。そこで各工程を自然に学びながら、生地の特殊加工に独自のアイデアを養い、着実に独自技術を具体化していった。
先だって開発した「3Dデジタルジャガードエンボス」も市場の評価が高い。これは特殊な彫刻のロールで生地を加工し、見る方向によって柄が変化する万華鏡のような立体模様を表現する。ロールは凸面ではなく、凹面にしているのがミソ。熱可塑性の合繊の生地が、凹面に入り込み、熱の作用で複雑な柄に形成される。ジャカード織機で作るのと同様の柄を、比較的手軽に表現できる。
高評価の3Dデジタルジャガードエンボス
これは八木社長が、万華鏡で孫と遊ぶ中で思いつき、独自の彫刻の方法で実現させた。通常より高温で加工するために、樹脂とゴムの独自のブレンドで作ったロール材も考案した。また生地にシワをつける加工も自慢の技の一つ。特殊加工の同業他社と比べ、同社は独自技術を含め加工のラインアップが豊富で、いくつかの加工を重ね合わせた提案もできる。
当社は比較的若い社員が多く、定着率がいい。これまでは私が先頭に立ち開発してきたが、今後は社員らの創意工夫の力をもっと引き出していきたい。若手中心のグループでデザインのプロジェクトも始めた。中小企業は一つの技術、独自の設備からどれだけ多様な枝をつけて、それを伸ばしていけるかがカギになる。
周りからは斜陽産業と見られた繊維産業で、闘志を燃やして取り組んできた。梱包業の会社と見られてきたが、最近は特殊加工で名が通ってきている。超音波パンチングの技術は事業化のスタートラインに立ったところだ。商売として展開しつつ、この3年で技術を更に昇華させていく。3Dエンボス加工など独自技術を重ね合わせ、他社では生み出すことの出来ないデザインや風合いを世に送り出したい。
▽企業名=株式会社マルヤテキスタイル
▽代表取締役社長=八木 晴美
▽所在地=福井県坂井市春江町金剛寺1-3-2
▽設立=1985年4月
▽売上高=約2億5000万円(2021年3月期)
▽従業員=30人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
住所:〒540-8535 大阪市中央区大手前1-5-44
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