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最終更新日:令和5年3月15日
榎本金属製作所はガスコンロなどに使われる金属部品のプレス加工を手がける。1958年の創業以来、安全性と品質を追求するモノづくりに取り組んできた。
10年ほど前から開発を進めるのが、板を打ち抜く際の切断端面に発生する〝バリ〟をなくす工法「ツルツル端面処理プレス加工技術」だ。研磨などの後処理や、板を折り返してつぶすことで端面をなくすヘミング曲げ加工なしに、プレス工程の工夫で実現した。余分な素材や手間の掛かる工程を省けるため、コストダウンを両立できる。エンドユーザーの使用環境を想定して完成品に潜むリスクを観察し、より安全に配慮できる部品構造を検討。メーカーに売り込む「提案型サプライヤー」でもある。
榎本金属製作所は金属部品の製造を通じて、生活シーンの安全に貢献している。「ツルツル端面処理プレス加工技術」は、冷間圧延鋼板(SPCC)やステンレス鋼板をプレス機で打ち抜く際に、どうしても発生してしまう〝バリ〟を抑え、切断した端面をツルツルに仕上げる独自の工法だ。
プレスでツルツル端面を実現した各種部品
主に家庭用ガスコンロのグリル周辺などに採用されており、榎本秀樹営業部部長は「台所の炊事では、コップや皿を洗いながら、ガスコンロでフライパンを扱うこともあるだろう。ふやけた手でバリの残った端面に触れてしまうと、通常よりもけがをしやすい」と説明する。自らが消費者の使用環境を想像し、安全に配慮した完成品づくりの一翼を担っているという部品メーカーの矜持(きょうじ)を見せる。一方でバリは、機器内部のハーネス(電線)を切る原因にもなる。人の安全だけでなく、製品の故障を引き起こさないためにもバリレス加工は欠かせない技術となっている。
プレス打ち抜きで発生するバリは、研磨などで後処理するのが一般的だが、プレスのみで〝バリレス〟を実現する工法もこれまで、さまざまなアプローチで実用化されてきた。〝平押し法〟のように板を打ち抜く前後にいくつかの工程を入れる工法や、打ち抜いた部分を180度折り曲げてつぶすことで切断面をなくすヘミング加工などが知られる。
通常のプレス後の断面(左)とツルツル端面処理加工技術の断面(右)
ただ、いずれも工程が多くなったり、余分に素材が必要になったりするなどのデメリットが存在していた。同社は金型や治具の工夫と、打ち抜き速度の調整など、加工プロセスの開発で、発生するバリを無害なものにして隠すバリレスを実現した。打ち抜き加工のみの場合、シンプルにプレス2ショットで端面をツルツルの状態にできる技術を確立している。
榎本金属製作所が、バリレス加工技術に取り組み始めたのは10年ほど前からだ。当時、完成品メーカーの海外生産移転や中国、東南アジアの現地加工業者の台頭があり、金属プレス業など国内のサプライヤーは厳しい経営環境に直面していた。
榎本仁社長は「中国との差別化を図らないと生き残れない」との思いから、海外ではできないモノづくりと、海外に生産移管しにくい完成品への採用を狙う方針を打ち出した。自社の品質と技術を磨く中、取引先のガスコンロメーカーから、持ちかけられたのが、製品の安全性向上を目的としたバリレス部品の供給だった。
従来から取り組んでいたものの「メーカーの安全に対する意識が変わってきた」(榎本社長)ことを受けて、プレス加工のみでバリレスを実現する技術の開発を本格化。いくつも開発用の金型を作って試し、数年を経て、独自工法として「ツルツル端面処理プレス加工技術」が完成した。持ち前の挑戦心に火が付いて、粘り強く開発に取り組んだこともあり、榎本社長は「金型費を結構使った」と苦笑する。
榎本社長は海外技術との差別化に乗り出した
同社の技術は、他のバリレス工法に対しても競争力が認められている。採用の一例が燃料電池ユニットだ。水素社会実現を目指して普及促進のため、メーカーは大きな目標を掲げてコストダウンやサイズダウンに取り組んでいる。配線が密集する機器内部の金属部品について、従来のバリレス部品に比べて、板金の使用量が少なく、小型化も図れるとして同社の技術が採用され、製品進化の一助となった。
榎本金属製作所は、安全を実現する部品を供給していくために、工場全体としての品質への意識向上が不可欠と考えている。製品安全の考え方を社内に徹底させるため、品質を守るために各人が守るべき〝ルールブック〟を作って共有。「行為保証」と呼ばれる品質活動に取り組み、日々の管理者による品質パトロールや、作業者への安全意識浸透を通じて、製品安全を自社の文化として定着を図っているところだ。
工場全体で品質向上に取り組んでいる
社内の意識改革に加えて、データに基づく品質管理にも気を配る。生産技術部では変化点の早期発見に努めており、機械の稼働状況から安定生産に細心の注意を払って不良の発生を抑制している。
量産前の工程検討は念入りに行っており、場合に応じて顧客メーカーに加工法の変更を積極的に提案している。さらに、完成品のティアダウン(分解)を行い、バリレスをはじめとする自社技術を使って、より製品の安全性を高められそうな部品を探索。直接、メーカーを訪れて優位性を提案するケースもあるという。技術提案に自社の強みを見いだしており、今後も続けていく考えだ。「できるだけ海外に完成品の生産が移転しない製品(への採用)を狙っていく」(榎本仁社長)との戦略は一貫している。
引き続きバリレス工法の進化にも挑戦している。大学の協力を得て、技術検討を進めるなど、製品安全かつコスト競争力の高い新技術の獲得に向けて余念がない。
「ツルツル端面処理プレス加工技術」は製品の安全を実現する技術だ。進化させるために挑戦を続けていく。完成品メーカーの海外生産移管が相次ぎ、部品を供給する金属加工業は厳しい環境にある。独自の技術を持たないと生き残れないだろう。海外に生産を移管しないような完成品に焦点を据え、メーカーが何を望んでいるのかを想像して提案するようにしている。
当社が提供できるのは技術と品質だ。品質面では不良を削減するため、遠藤メソッド(兵庫県加古川市)が提唱する「行為保証」を実践している。加工から検品・出荷の箱詰め作業まで、ルールを作って日々取り組んでいる。これからも全社一丸となって品質第一の風土づくりを目指していきたい。
▽企業名=株式会社榎本金属製作所
▽代表取締役社長=榎本 仁
▽所在地=大阪府岸和田市新港町10-3
▽設立=1978年7月
▽売上高=非公表
▽従業員=32人
近畿経済産業局 地域経済部 産業技術課
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