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最終更新日:令和3年6月17日
新聞の広告で、手編みの服飾品の内職を募集していたので、家計の足しにしたいと考え、応募した。募集した会社からは、幼児用の服、靴下、手袋といった取扱商品とそれらに対して契約者に支給される加工賃について説明されるとともに、生地や糸等商品作成のための材料、それらの作成に関するマニュアル、作成者としての社内登録、といったものにかかる費用を契約者が負担することについても説明された。
費用負担についてはずいぶんと高額である印象を受けたが、取扱商品が高級志向をうたっていること、加工賃もいい条件であったこともあり、まず試しにやってみようと思い、1ヵ月分の材料費を含めた15万円を現金で支払った。その際、説明を受けた内容やクーリング・オフに関する記載のある書面を受け取った。
契約から15日の間に、靴下と手袋を5点ずつ、服を3点納入し、合計で3万円の加工賃を会社から受け取った。そして、次の商品作成にとりかかったが、育児等の家庭の事情と自身の体調不良が重なり、内職を続けることができない状態になった。そのため、契約から15日経過した日に、契約時に渡された書面に記載されたクーリング・オフを会社に申し出た。
申し出後、すぐに会社から連絡があり、クーリング・オフを認めると言われたが、数日後会社から再度連絡があり、「当社は、厳密な受注管理体制により高い品質を維持し、顧客企業から信頼を得ている。あなたが今回クーリング・オフを主張したことで、納品する商品の調達に関して予定が大幅に狂い、その調整のために様々な出費を強いられた。その部分をあなたにお支払いいただく。」と言われた。
一般的にクーリング・オフとは、契約がなかったことになり、お金も全額返金してもらえると思っていたのだが、このような損害を賠償する責任まで負わなければならないのだろうか。
「内職を提供する」として、ハガキの代筆やパソコンの作業等の業務に従事することで収入が得られると勧誘され、その業務に必要とされる機器や指導マニュアル、登録等の諸費用を負担する契約を結ぶことを特定商取引法では「業務提供誘引販売取引」と規定しています。
このような取引を消費者、特に無店舗で業務を行う個人と契約しようとする事業者には、契約を締結するまで、及び契約を締結したとき、それぞれに契約の内容を記載した書面を消費者に交付する義務が発生します。
業務提供誘引販売取引では、契約締結時に書面を交付された日から20日を経過するまでの間、消費者は書面で契約を解除(いわゆるクーリング・オフ)することができます。(特定商取引法第58条)
クーリング・オフをした場合の効果ですが、書面でクーリング・オフする旨の通知を発した時点で、効果が発生します。その場合、業務に必要な物として事業者から購入した商品があれば、その引き取りのために必要な費用は事業者の負担となります。
なお、このクーリング・オフに伴って事業者が負った損害賠償や違約金については、消費者に請求することはできません。また、消費者が損害賠償や違約金を負うように契約書面上で取り決めたとしても、その取り決めは無効となります。(特定商取引法第58条第1項)
よって、本件の場合も、特定商取引法に基づき期間内に書面でクーリング・オフの通知をしているのであれば、損害賠償の請求に応じる必要はないと考えられます。
今回紹介したクーリング・オフの効果は、特定商取引法でクーリング・オフが規定されている他の取引(訪問販売(書面受領後8日)、電話勧誘販売(同8日)、連鎖販売取引(同20日)、特定継続的役務提供(同8日)、訪問購入(書面受領後8日))の全てで共通した考え方です。一方的に損害賠償の請求を受ける場合には、その根拠を十分確認してください。
民法のような一般法の考え方では、契約を解除した際に損害が発生しているのであれば、その損害賠償を請求することができるとされています。(民法第545条第3項)
しかし、このような考え方により、事業者から損害賠償が請求されてしまうと、契約時に支払ったよりも多くの負担を強いられる結果となり、特定商取引法の本旨である消費者の利益保護が十分な機能を果たさないことになります。
そのため、特定商取引法では、それらの一般法とは異なり、契約解除の際に発生する損害賠償や違約金の責めを消費者が負わないことを明記しており、一般法に優先する強行規定となっています。これが、クーリング・オフ制度の特徴の一つです。
また、クーリング・オフすることで、今回の加工賃のように、業務に従事したことにより得られた収入は返還しなければならないか、という点についてですが、損害賠償や違約金以外の精算の考え方については、一般法の原則に従って原状回復義務が発生することになります。
つまり、事業者は材料費等として受け取った代金を返還し、消費者はその事業者から受け取った材料等の商品を返還することになります。このとき、消費者が渡された材料等を使用、消費しており、その使用等により利益を受けているのであれば、その利益に相当する金額について、事業者は請求することができると考えられます。
そのため、今回の加工賃についても同様に、事業者からの収入という形で消費者に利益が発生したものについては、原則として契約の解除により損失を受けたとする事業者が返金を請求することができ、一方、消費者は、加工賃の発生条件として業務を行ったことで損失が生じている場合、事業者の利益との因果関係が存在している範囲で、その損失分の返還を請求することができると考えられます。これらは、民法第703条の不当利得の考えに沿ったものです。
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